板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年9月8日
山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。
もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。
このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。
みなさんこんばんは、板谷楓です。
週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。
この番組では、このはな村のさまざまな情報と、落ち着いた音楽、そしてわたしのとりとめもない雑談を、ミックスさせてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。
なんかですね、十月から消費税を納める必要のない会社やお店とかも、電子帳簿とかいうの作らないと税金取られちゃうじゃないですか。
今って課税される分の売上額が年一千万円以下だと消費税は免除なんですよ。で、そこから別の会社などが仕入れで物を買うときにも消費税は免除なんです、それは消費ではなく仕入れですから。
でも来月から、仕入れ先から適格請求書というものをもらわないと免税が受けられなくなるんです。ところが適格請求書は、仕入れ先が免税事業者だともらえないんです。
つまり、売上が少なくて消費税をお目こぼししてもらっていた人たちも、仕入れのお客に請求書一枚出すために泣く泣く消費税を払わなきゃならないんです。
そんなのおかしい、ただでさえみんな生活が苦しいのに、追い討ちかけられるようなことしてどうするの? ってことで、村議会で救済のための条例を作ったんですけど、これについてどういうわけか、村の外から文句が出てるみたいなんで、どうして? って話をしますね。
たとえば、わたしが今勤めている会社では製品に使う部品の一部とかを内職さんに発注することがあります。
このとき部品の代金を払うと、消費税が発生するんですね。買い物だから。でもこれは製品を作るために必要な、仕入れなんです。だからここから消費税分を免除してもらえるんです。
この免除なんですが、これまでは普通に請求書があれば出来たんです。ところが来月からは適格請求書というものでなければ税の免除ができなくなるんで、内職さんにそれを出してもらわないといけない、でもそれには内緒さんが消費税を払わなければならない。
内職さんも大変ですよ、少ない儲けの中からさらに税を持ってかれるんですから。でもうちの会社としては内職さんがそれでお仕事やめちゃったら困るのでもっと代金を払ってでも続けてほしいけど、うちの会社も小さいから限界があります。
そこで村が決めたのは、村の事業者が適格請求書以外で仕入れをした場合、そこで余計に支払った分は村が建て替える、ってものなんです。
いいことですよね? 同じ仕事で同じ取り引きをしているのに負担が増えるはずのところが、苦しい思いせずに済むんですから。
もちろん、そんなことしたら村の財政が大変なことになるって心配もありましたよ。でも、このはな村の財政力ってそんなヤワじゃないですから。試算ではそれだけのことをしても黒字財政は揺るがないそうです。
村民としては財政の不安がなければ、救済措置は歓迎ですよねそりゃ。それに、ずっと全額って話でもなくて、来年度以降の村の負担率は今後の財政状況次第だそうです。
これって、このはな村が決めてこのはな村でやることなんだから、よその人から文句をつけられる筋合いは無いですよ。
ところが、まずはまわりの市町村から考え直してほしいと要望が出たんです。というのも、このはな村に品物を仕入れさせたら実質的に消費税免除と同じ、ということになれば、このはな村としか取り引きしなくなる人が増えるのではないか、という心配があったんですね。
これはもっともだと思います。ですからこれについては、このはな村にある事業者が売る時も買う時も適用するということで落ち着きました。
そしたらですね、今度は国会の議員さんがクレーム入れて来たんですよ。なんでも、最初は遠回しに、
「そんなことをしたら村の財政が大変なことになりますよ」
って。でも村長さんは、
「大丈夫です。我が村の財政はずっと黒字ですし、試算も多方面から繰り返し行なった結果、黒字は変わらないことも判明しておりますので、どうかご安心を」
ってお返事したんですよ。
そしたら、
「近隣の市町村との公平性が」
ということを言い始めたので、さっきも説明したとおり、その点も配慮して、それらの市町村の事業者も排除するようなことはありませんよ、と説明したんです。
それでもまだ食い下がってきまして、
「近隣のみならず他の自治体からその救済目当てで企業がどんどん引っ越して来たらどうするのか」
と言われたんですって。だから村長さんは、
「それも計算済みです。想定できる最大数の企業がこのはな村に移籍したとしても村の財政は赤字にならないことが分かっています。そもそも、このはな村のような山奥のひなびた村に多くの企業が詰めかけることは考えられません」
と答えたそうです。
このやり取りは村長さんのSNSに載ってるんで興味のある方読んでみてくださいね。村長さんは、公人が村政について意見した場合にここだけの話やオフレコは認めない、一切をオープンにすると公言していますので、ありのままの内容が載っていますから。
でも、村長さんは根っからお人好しなところがあるんですよね。そんなに村の財政を心配してくれるんだったら役場の電気代とか公用車のガソリン代とか安くしてくれる方が助かるって言ってもいいのに。
食レポでーす。
うちは小さな村だから、村長さんともすぐお知り合いになれたりします。で、子どもの時は前の村長さんの時とかよく遊びに行って、バーベキューとかやったりしてましたねー。今は大人になったから、有権者がたとえ食べ物とかもらうのは、良くないからって。
でもその、わたしがまだ中学生のとき、今の村長さんは議員さんだったんだけど、そのときもらったのが、これなんです。
じゃじゃーん! あんず酒でーす! こないだ村長さんとお会いしたときに、あっ、そういえばもらってた! と思い出して、持って来ました。
ほら、ちゃんと焼き物のツボに小分けしてくれてるんです。寝かせたほうが美味しくなるから成人式にでも飲みなさい、って。でもほら、成人年齢が十八歳になることは決まってたのかな? その頃。覚えてないですけど、とにかくお酒飲んでいい年齢とずれちゃって、飲むタイミング逸してたんですよ。
では、いただきまーっす。びりっと、このはな村の言葉でスピリッツのことですけど、それに漬けた果実酒って忘れた頃に飲むと美味しいんですよね。封を開けますよ。
……ほわー、い、い、香り。
あんずの香りがですね、より濃縮されているところに、アルコールの香りもまろやかというか、その両方が調和してあま〜いキャラメルとかにも似た香りになってます。これはロックが良いですね。とっとっと。
……ほわぁぁ〜。
ふっか〜い甘味が口の中いっぱいに広がります〜。苦味や雑味はほぼ感じません。アルコール度数はかなりなハズなんですけど、ツンとくる感じもなくて、スイスイっと行けます。
このはな村も実りの秋ですので、果実酒つくり、どうぞお試しください。
板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。
今週はちょっとカタいお話になりましたが、村の試みについてご理解いただきたくおもいます。来週はもっと親しみやすい内容にしようと思います、が、例によって行き当たりばったりで番組進めてますのでどうなるかは来週のお楽しみということでご了承くださいまし。
お相手は板谷楓でした。それではごきげんよう。
はい、村長さんはもちろん知っててすっとぼけてます。
それにしても、もし本当にインボイス制度で還元されなくなった消費税のうちの一割でも補てんする条例を作ったら、そこに企業が多数押し寄せるでしょうね。
人口減少の局面に入っている日本で、国政がこれだけグダグダだと、ちょっとでもマトモに地方行政やってるところに人が殺到すると思います。そうして地方間でも勝ち組負け組がハッキリして来たなら、それぞれの地方を票田にしている国会議員も危機感をもつ。ボトムアップの改革がなされるならそこからかもしれません。
もちろん出る杭を打つのも国の余計な仕事としてありますので、行きすぎた行のも国の余計な仕事としてありますので、行きすぎた行政サービスには圧力がかかるでしょうし、このはな村はまさにそれを受けているのですが、村長さんが上手いことかわしています。小さな村のささやかな生存戦略ですね。
こうして、地方が変わっていけば国全体が変わらざるを得ないかもしれませんね。




