板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年8月18日
山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。
もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。
このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。
みなさんこんばんは、板谷楓です。
週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。
この番組では、このはな村のさまざまな情報と、落ち着いた音楽、そしてわたしのとりとめもない雑談を、ミックスさせてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。
「都会のウィルスパニックに疲れたあなた! このはな村で夏を過ごしませんか? このはな村では、PCR・抗原検査が誰でも無料! もし陽性だったら? 迅速な確定検査ののち、指定施設で療養可可能! 滞在予定日数超過分の施設利用料は、いただきません! マスク割も引き続き好評実施中! 詳しくは、このはな観光ポータルサイト、またはこのはなFMの各番組で!」
「このはな村は、今年も緊急事態宣言の発出を求めています」
はい、いきなりCMを流しちゃってすみません。わたしが二週間番組をお休みしちゃったのですけど、その間このCMをばしばし流れてくださってですね、ラジオをお休みしたのは仕事が繁忙期だったからなんですけど、職場でもラジオ流してるものだから、コマーシャルが流れるたびに恥ずかしー、ってなってました、はは。
で、今のCMでもお分かりかと思いますが、このはな村は引き続きウィルス感染予防運動実施中です。検査は無料、換気もバッチリ、また、マスクを適切に着用している方は村内各所でお得なサービスが受けられます。マスクの使用を個人の判断に任せるという方針では村も変わりありませんので、このお得なサービスを受ける受けないも、村にお越しのお客様ご自身の判断ですので、お好きな方をお選びください。
で、わたしの仕事もお盆休みを経て落ち着きましたので、今週からラジオ復帰します。
そしてこの、わたしにとっては八月最初の放送、なんと、ゲストをお呼びしています。お名前を、どうぞ!
「こんばんは、霧積優香です」
ようこそー。霧積優香さんは、このはな村立このはな中学校出身で、わたしの二年先輩にあたります。現在は大学院で農業を専攻しつつ、このはな村でさまざまな農作物の栽培を試みるプロジェクトに参加しています。
優香さん、このプロジェクトって、どういうものなんですか?
「プロジェクトといっても、そんな大それたものじゃないですよ? このはな村であまり作られてこなかった野菜や果物を、とりあえず作ってみようということなんです。えっと、楓さんは、このはな村の農作物といって何を思い浮かべますか?」
思い当たる、農作物……。やっぱり、とうもろこしとか? 焼きとうもろこしを道端でいっぱい売ってるじゃないですか。あっでも、そう考えると、じゃがいもとかトマトもそうですよね。じゃがバターとか冷やしトマトとか売ってますよね、ビールと一緒に。
「売ってるねー。あそこで仕事帰りの人たちが一杯やってたりして」
ねー、でも、あれも不思議といえば不思議ですよね。お酒売るのって許可いりますよね? ふつう。
「あー、私も詳しい理由は知らないけど、ほら、例えば盆踊りの夜店とかを町会で出す時って、一時的だからってことで容認される場合があるじゃないですか。その拡大解釈で、夏の別荘地はずっとお祭りみたいなものだから良いじゃないですか? というので押し通したというか、黙認されてるというか、まあそんな感じみたい」
あはは、半分知ってて聞いたんですけどね。でもそういうおおらかさが、この村のいいところなのかな。
で、実際のところ、このはな村ではどんな作物が多いんですか?
「もちろん、夏野菜は村の代表的な野菜のひとつですよ。で、それに加えて穀物も多いです。今年は小麦の価格が高騰してるので、村内の多くの農家が作付を増やしてます。大手は輸入先が決まってたりしますが、こうすることで個人とかのお店には、安い小麦粉が卸せると思いますよ」
あっそうか、麦がありましたね。あとソバもたくさん作ってますね。
「ソバは火山性の土地に合うんです。あと冷害に強いし、寒暖差があるとおいしくなると言われているので、古くから村では作られてきたんですね。ソバは花も綺麗なので、映える風景になるのもポイントかな。あと穀物としては、ヒエも昔から育てられていて、江戸時代の頃までは主食だったそうです」
あー、ヒエ多いですよね、雑穀米に入れるやつ。でも作ってるのは、このはな村で初めて見ました。
「そうですねー、ヒエは全国的に見るとあまり栽培されなくなりましたが、丈夫で寒さにも強いので、このはな村の気候に合った作物なんです。どんな所でも育つような穀物なので、このはな村では畑の空いてるところとかを埋めるのにも使ったりします」
うんうん、隙あらばヒエ植えろ、ってわたしの祖母も言ってました。
「でしょ? 余った土地を有効活用しようってことです。それだけこのはな村では重要な作物で、不作にもなりにくいし、保存も長くて出来るから。で、楓ちゃん家でもやるでしょ? 秋祭りの時のお供え替え」
あ、しますします、でももしかするとこのはな村だけの習慣ですよね、神様やご先祖様にお供えしていたヒエの実を下ろして、今年とれたヒエと取り替えて、去年のヒエをついて炊いて食べるのって。
「うちの村だけかもですねー。あれはもともと、凶作の時のために貯めておいたヒエを年に一度更新するっていう、保存食の管理のためでもあるそうですよ。それをしていたおかげで、江戸時代の三大飢饉でも村人は助かったっていう」
あー、そういうことなんですね?
「そういうことって?」
えー、だって、どうしてお祭りの時に、わざわざあんなパサパサしたもの食べるのかなー? って思ってたから。神様は納得してるのかなー? って。
「んー、まー、昔からの作り方で蒸しただけで食べるしきたりだから、美味しくはない、よね……」
とは言え、健康食として最近はあちこちに売り出されてるんですよね?
「雑貨米とかに混ぜたりしてるから、味はわりと気にならないですよ。でも他に作ってるところが国内では少ないから、売れ行きは好調」
おお、めでたい。このはな村の農作物ってあまりよそで売ってないイメージあるから、意外でした。
「あー確かに、スーパーとかに置けるように野菜の形を整えたりしないから、このはな産の野菜や果物が目につきにくいのはあると思います。このはな村は一戸あたりの農地が広いから、なるべく手間をかけずに大量の作物を作るようにしているんです」
ふーん、でもそうすると、単価は安くなるってことですか?
「安くなるものもありますよ。でもさっきのヒエのように、他の地域であまり作っていないものを作ったりすると市場価値は上がりますから。例えばリンゴなんかは、あえて酸っぱいリンゴを作ってみたりして。酸っぱいリンゴはそのまま食べるより、アップルパイなどに使うと引き締まった味になるんです。加工用だから袋を掛けたりして傷が付かないようにする手間もかかりません」
リンゴの袋掛けってニュースで見たことあるけど、一個一個大変そう。
「一家総出、ご近所も巻き込んでの作業になりますね。このはな村は人を一気に集めてというのは出来ないというのもありますしね。農家以外に副業やってる人がほとんどなんで。不作の時でも収入を確保するためのリスクヘッジかけてますから」
あ、なるほど。
でも、そういった中で、新たな作物を作ろうという動きが出て来たのって、どうしてなんですか?
「うーん、言ってみれば、同じものばかり作るのにぃ、んっとー」
んっと?
「……飽きた」
……はい?
「うん、飽きたの。もちろんそれだけじゃないですけどね。消費者の求めるものが変わって来たりもするし、それに合わせることも生産者は必要だし。でも、たまには違うもの作ってみるのも楽しいかなって。そんな感じで、農家やってる友達とかで色々試してみない? って」
わー、いかにもこのはな村らしいというか、楽しそうなことはとりあえずやっちゃえ精神ですねー。
で。具体的にどんなものを作っているか、ですが。その前に、
「食レポです!」
です! えっと、曲の間に話し合って、続きは来週ということにしました。今週は、優香さんが持って来てくれました、ありがとうございます。それでは、何を持って来てくれたか、紹介してくれますか?
「はい。今日持って来たのは、サイダーでーす!」
あー、やっぱり優香さんだから、そっちで呼びますよね。わかってました。
「えー? 私、なんかおかしな紹介しました?」
おかしくはないですけどー。ラジオをお聴きの皆様にお伝えしますと、優香さんはサイダーと言ってますが、お酒です。
「ん? サイダーはお酒でしょ? このはな村の言葉では」
またこうやって人を惑わすんだからー。
今日の食レポはですね、一般的によく言うシードルですね。リンゴのお酒です。シードルのつづりを英語読みするとサイダーになるんで、外国から多くの人が移り住んだこのはな村では昔からそう呼んでいたんです。
ところが日本の他の地域ではお酒ではない炭酸飲料の意味で使うことが多いので、紛らわしいということでシードルとか、フランス語読みの耳コピでシドレとか呼ぶようにって、学校とかでは指導してるんですよ。
「そうそう、でもそれでもって呼び方を簡単に変えられるかと言えば、そんなわけ無いじゃないですか? だいたい地域の言葉に教育機関が干渉するって、良くないと思うんですよねー」
はいはい、わかりました。アルコールの入った飲み物をサイダーと呼ぶ事の是非はともかく、早速いただきましょう。
このシ……サイダーは、このはな村唯一の醸造所、十五条ブラリで作られたものです。ブラリとは、醸造所を意味する英語のブリュワリーが変化したものだと言われています。
去年の秋に穫れたリンゴを発酵・熟成させて夏になったら炭酸のシュワシュワした感じで涼を感じるというのがいいんですね。そのためアルコール度数も高めの原酒をロックでいただくのが通だ、といわれています。では早速、かんぱーい。
「かんぱーい」
ほゎゎゎ〜、この甘酸っぱさと、炭酸のシュワシュワがいいですよね〜、甘みがリンゴの甘さだから口の中に変に残らないのがいいな〜。
「いいでしょ〜? どのリンゴをどのくらい入れるかによっても味が変わってくるんだけど、このサイダーはジュース用のリンゴの余ったのを途中から足してるんです。果実酒は糖分がアルコールに変わることで出来るので、リンゴを追加すれば減ってしまった甘みが補充されるんです」
そっかぁー、それでリンゴのフレッシュな香りが残ってるんですねー。スッキリしてるから、どんどん飲めますよね。
「そうなんですよ。でもロックで飲む前提でアルコール度数は高めだから、気をつけてくださいね」
はーい。でもそんなこと言ってる優香さんは、ちっちゃい氷を一個しか入れてないので、真似しないでくださいね。
「黙っててくれればわかんないのにー」
板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。今回は霧積優香さんをゲストにお呼びしましたが、このはな村のリンゴで作ったサイダーを紹介するという名目で、よりによって一番強いのを持ってくるというですね、酒豪っぷりを見せてくれましたー。
「えー失礼なー。たまったま、このサイダーが目に留まったから買って来ただけであってえー」
はいはい。来週も優香さんが来ることは決定しましたから、今週はこれまでにしますよ。
それではまた次回、ごきげんよう。
「ごきげんよう」
「楓ちゃんお酒飲むと面白いのに」
その話却下!
新型コロナウィルス感染症はちっとも収束していないというのに、野放図な政府が無警戒でOKと洗脳するものだからノーマスクの輩が人混みの中でペチャクチャと、あ、心にも無い独り言ですすみません。
とにかくも、日本という国の舵取りが迷走しまくっているのは確かですし、それが物価高といつ結果にも現れてると思います。
小麦のように主食となる食品は責任を持って自国で一定量を生産し続けるべきだし、防衛防衛言うならまず兵糧を確保するのが優先だと思いますが。
一方で海外に攻めていきたいと思わせる偉い人も沸き出てきてますし。
国内がグダグダのままだってのに、初手から特攻作戦させるつもりかと。
色んな不平不満を抱いて日々暮らしている作者でありますが、ぜんぶ暑さのせいってことでいいですかね? こんだけ暑いとストレス溜まりますよもう。
このはな村は避暑地という設定ですから当然夏も涼しいですが、そんななかで農業を産業の軸にするというブレないポリシーを持つ村として描いています。
観光は外的要因に成果が左右されやすいですから。村という小さな行政単位では、そこをコツコツと支え続けることが大事だと思います。