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板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月30日

 山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。

 もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。

 このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。

みなさんこんばんは、板谷楓です。

 週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。

 この番組では、このはな村のさまざな情報を、落ち着いた音楽を混えてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。 


草原では夏の訪れを告げるトキソウやカキラン、ヒオウギアヤメなどが咲き始め、またワタスゲは綿毛をふんわりと広げています。文字通り華やかな風景が広がっています。


 そういえば、このはな村の草原については、こんな質問をいただいてるんですよ。

「乾いた草原なのに、なぜ湿ったところを好む植物が育つのですか?」

というご質問です。確かにそれって不思議なことですし、このはな村の自然を知るための手掛かりにもなるので、今日はそのお話をします。


 このはな村には今も広々とした草原が広がっているところがあって、そこには乾いた土を好む植物と湿った土を好む植物が入り混じっています。なかには常に湿った湿原を好む植物もいます。

 なぜ草原で湿原を好む植物が育つかというと、冬から春は遅くまで雪が残り、夏は毎日のように雷雨が降るので、地面が湿っていることが多いからです。このはな村の土は非常に水はけが良い土なのですけど、雪や雨によって常に水を供給しているようなものなのですね。


 あと、このはな村みたく自然のままの草原が広がっているのって、実は珍しいんです。あ、牧場は別ですよ。放牧しやすいように人の手が入ってますから。

 天狼神社があって、その門前に集落があって畑がありますよね。そこから一段高くなったところが一面の草原で、高天原(たかまがはら)とか大神平とか呼ばれています。

 ここは天狼神社の神域として、手付かずのまま残されてきました。別荘が出来たり、農地が新しく開拓されてもこの場所は保護されてきました。

 現在はハイキングコースになっていますが、決められた遊歩道以外は立ち入り禁止です。


 この高天原の不思議なところはですね、普通は乾いた草原って、じょじょに森林へと変化するんですね。人が手を加えないままだったら。

 もちろん、野焼きをしたりして人為的に草原のままにすることもあります。あと、湿った平原、つまり湿原ですね。これは地面全体が水を含んでいて、ところどころに池塘という水たまりがあるので、普通は木は育たないです。

 ですが、このはな村の高天原は、乾いた草原なのに木がなかなか育ちません。まったく無いわけではないのですが、まばらだし、育ち方も良くありません。


 どうして草原のままかというと、このはな村の厳しい自然のためです。

 まず、土が植物にとっては厳しいです。まわりの火山が繰り返し噴火することで火山灰がしばしば降り積もり、そのたびに植物は枯れてしまいます。

 そんな中に植物が何とか復活してきて、それが寿命を迎えると土にかえって次に育つ植物の栄養になる、これを繰り返して大地に養分が蓄えられて草原は森林へと変化していく、というのが一般的な自然林の出来かたです。

 ところが、このはな村は県内でも有数の豪雨地帯ですので、せっかく地面にたまりかけた栄養分がすぐに流れていってしまうんです。

 しかも、このはな村は夏も涼しくて冬も寒いので、植物が育つにはそれも不利な条件です。

 こうして、見渡す限り草原が広がるという高天原の風景が保たれているんです。


 たまには観光ガイドっぽいこと言います? 高天原へは村営バス天狼神社前バス停そばから遊歩道が通じています。遊歩道は草原をぐるりと一周するようなルートで、おおよそ一時間で戻ってくることが可能ですが、途中に足を止めたくなるスポットがたくさんあるので倍くらいの時間は見込んでおいた方がいいと思います。

 コース自体に難しいところはありませんが、最低でもスニーカーを履いてお越しください。道が悪いです。トレッキングシューズや、レインブーツがお薦めです。

 そして当然のことですが、コースを外れたり、植物を採ったりするのは厳禁です。罰則もありますので絶対におやめくださるとともに、一般的なルールやマナーを守ったうえでお楽しみ願います。

 なお、山の天気は変わりやすいです。長袖や雨具を準備してお越しください。遊歩道にはトイレも水道もありません。熱中症予防のため必ず水などをお持ちください。

 詳しくは、村のサイトや観光案内所・ビジターセンターなどでお尋ねください。


 食レポでーす!

 先週、ブリテンのカレーを食べましたが、今日はこのはな村ならではのというか、このはな村に残る昔懐かしのカレーでーす。

 このはな村のお店だと、ブリテンカレー以外にも色々なカレーがあるんですが、一番オーソドックスなカレーを頼むと、一緒にスプーンがコップに入って出てくるんです。

 これって、このはな村だけなのかな? と思って会社の人に聞いたら、

「昔はどこの食堂でも入ってた、都会でも入ってた」

と言うんですね。

 このはな村のカレーって、粉っぽいのが多いんですよ。だからだと思うんですよね、スプーンがお水に浸かってるのって。昔はこういうカレーが普通で、日本のどこでも食べられてたらしいですよ。


 いただきまーす!

 んー、おいひーい。作り方は、カレー粉を小麦粉と一緒にかるーく炒めて具材と一緒にするんですが、粉っぽくてもスパイス風味はしっかりです。

 でもそれでいて、味が優しいんです。今どきのカレーにあるヒーヒーする辛さが無いから、子どもでも食べられますね。

 もぐもぐ。


 このはな村って、食べ物の値段が安いんですよね。このカレーライスも、持ち帰りで三百円なんですけど、わたしはそれくらいが当たり前だって思ってたらから、あ、もちろん高級なカレーもあるの知ってますけど、お昼ご飯はワンコインでお釣りって感覚でしたから、ほかのところでお昼するとびっくりします。

 何で? って考えたことなかったですけど、当たり前だったから。んでひとつは、材料が安いんだと思います。

 植物が育つには条件が悪いって話を今日はしましたけど、畑をちゃんと土から作ってくと、かえって育ちやすい野菜もあるんですね。

 だから、このはな村は野菜の生産がとてもさかんで、ジャガイモなんかは特に水はけが良い土は合ってるらしくて、あと根菜って大雨とか、ひょうが降っても傷が付かないのも良くて、ニンジンもタマネギも育ってますし、出荷しきれなかった野菜は村の中でそれこそビニール袋いっぱいで百円とかありますから、カレーにはぴったりだと思います。



板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。

 このはな村の植物については、いっぱいお話できることがあるんで、出来れば来週もお話したいなと思ってたんですが、今週末あたりにその高天原から、この番組初めての外収録やるのもいいかなって。もしそれが実現したら近いうちにお送りしますね。

 それではまた次回、ごきげんよう。



 というわけで、次回は板谷楓さんがこのはな村のダイナミックな自然を紹介してくれます。彼女には歴史は苦手だけど理科は得意という設定があり、それを使って何度か作中で遊んでみましたが、得意な生物の話を存分にさせてあげようと思っています。

 このところの食品の値上がりが余りにもひどいですね。その値上げが労働者の賃上げや待遇改善に繋がらないという非常に厄介な形が続いているのが困ったものです。

 一方で労働人口の不足ってことも言われてるのに、なぜか労働者を集めようとする努力は企業にみられないという不思議な状態。新卒はウハウハとも聞くけど、バブル時代の先輩達を見ている世代からすれば、まだまだ買い手=企業の下手が全然下に行ってない感もあります。

 現実の世の中の不可思議さに嘆息する日々、せめて創作では夢を見たいものです。

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