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p.6

 私の言葉に、彼は穏やかに肯く。


「そう。あのムワッとしたやつを、とても薄くした感じの匂いがしたんだ」

「ふ〜ん? それが、ペト……?」

「ペトリコール。雨の降り始めに感じる匂いのことをそう呼ぶんだ。乾燥した空気中のカビや排ガスなどを含む埃が、水と混ざり、熱によって匂いを発生させているのさ」

「水と混ざって? それって雨が降ってってことだよね?」

「うん。そうだね」


 彼の説明に、私は、軽く首を傾げる。


「でも、あなた、雨が降ってくる前に、匂いがするって言ってたと思うけど、それはどうしてなの?」


 私の疑問に、彼は軽やかに答えをくれる。


「ペトリコールは、気体だからね。どこか別の場所で、水と反応して生まれた匂いが、風に乗って運ばれてくるのさ」

「ふ〜ん」


 私は、またパンケーキを一口食べる。


 彼は、私の知らない事をいつもサラリと答えてくれる。そう、今みたいに。


 だけど……


 今日の彼は、いつもと少し違う。なんだか、いつもよりも饒舌な気がした。


 パンケーキを食べながら、チラリと彼の顔を見る。彼は、どことなく嬉しそうにしながら、窓を叩く勢いが激しくなった雨を見ている。


 その時、ゴロロロと外で物凄い音がした。ドキリと心臓が勢いよく跳ね、思わず首を竦める。雷だ。


 私の反応を目の端に捉えたのか、彼は、窓から目を離す。私を覗き込むようにして見ると、フォークを握っている私の手を包むようにして、上からポンポンと優しく叩いた。


「大丈夫。音だけだから、雷は全然遠いよ」

「……うん」


 私は、気持ちを落ち着けるために、カップへと手を伸ばし、コクリコクリと飲み下す。それから、大きくハァァと息を吐き出した。


 雷は苦手だ。あの、大きな音を聞くだけで、胸がドキドキとして、不安に駆られる。そして、いきなり光る稲光。どうして、そんなに私を驚かせるのか。


 恨めしく思い、ついつい窓を睨みつける。すると、間髪入れずに、雷様にゴロロロロと威嚇されてしまった。


 眉根を寄せて、歯を食いしばる。すると、彼がまた優しく手をポンポンと叩く。


「気にするから、怖いと思うんだよ」

「そんな事言ったって……。じゃあ、あなた、何か話してよ。気分が紛れる話」

「気分が紛れる話……? う〜ん、そうだなぁ……」


 私の懇願に、彼は腕を組み、目を瞑って天井を仰ぐ。しばらくして、パチリと目を開けると、彼は、とても真面目な顔をして、口を開いた。

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