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p.5

 恥ずかしさから、小さな抵抗をするのが精一杯。


 そんな私を、今も楽しそうにニコニコと見つめてくる彼の視線に、私は勝てない。結局、直球の言葉と視線にノックアウトされてしまうのだ。


「ほら、クリームたっぷりのパンケーキ、食べな」


 彼は、運ばれてきたパンケーキを一口大に切り分け、それを私の口もとへと運ぶ。


 思わず、パクリと食いつくと、フワフワのケーキと、甘酸っぱいベリー、それから、甘過ぎないクリームが、程良いバランスで口の中で混ざり合う。


「んん〜!!」


 目を細め、パンケーキを堪能する私を、彼は、ニコニコと見つめ堪能する。それから、自分も一口パンケーキを口にした。


「ん! 美味い」


 そう言いながら、パンケーキのお皿をさりげなく私の方へと押しやる。「残りは、全部、君が食べな」という、彼の無言の優しさ。


 一緒に美味しいものを楽しんで、だけど、少しだけ私を特別扱いしてくれる。私の好きな物をさり気なく選んでくれる。半分と言いながら、大きい方を私にくれる。そんな彼の愛情表現が、私はとても心地良い。


 彼がくれる優しさの分だけ、私も返してあげたいと思うけれど、出来るかどうか分からないので、大きい方を貰ったら、必ず彼に一口お返しをする事を密かに決めている。


 まずは、自分でもう一口。その後、彼の分を切り分けて、彼の口もとへと運ぶ。それを彼がパクリ。二人でモグモグと口を動かしつ、笑みを交わす。


 直球すぎる言葉にドギマギさせられたことや、赤くした顔を見られたことなんて、直ぐに気にならなくなる。それくらい、美味しいものを、好きな人と味わう時間は楽しい。


 店内の美味しくて、楽しく明るい雰囲気とは裏腹に、外はいつの間にか暗く、私たちが座る席の窓には、沢山の雨粒が打ち付けられている。


「ねぇ? どうして雨が降るって分かったの?」


 カフェに向かって歩いている時に聞いた質問をもう一度彼にしてみた。


 彼は、口にしていたカップをコトリと机に置くと、歩いていた時と同じ答えを返してきた。


「雨の匂いがしたんだ」

「それ、さっきも言っていたけど、どんな感じなの?」

「ぺトリコールって、聞いたことある?」


 彼の言葉に、私は、黙って首を横に振る。


「じゃあ、夏の暑い日のプールサイドの匂いって分かる?」

「ん〜、なんかムワッとした感じのやつ?」


 彼の質問で、私の鼻腔を夏の独特の匂いが掠めた気がした。

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