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p.2

 そんな彼を、私は、小首を傾げながら見上げる。


「もう疲れちゃったの?」

「そうじゃないけど……」


 冗談めかしていう私の言葉に、空を見上げたままの彼は、上の空で答える。


「コーヒーショップだったら、さっきの映画館にあったよ。緑のマークのチェーン店。戻ってそこに行く?」

「そういう所じゃなくて、カフェがいいな」

「カフェ? 少し先に、赤い看板のバーガーショップもあるけど、もしかして、そこもダメとか言ったりする?」

「うん。カフェがいい」


 彼がこんなに頑なにわがままをいうなんて珍しいなと思いながら、私は、スマートフォンを鞄から取り出すと、素早く付近のカフェを検索する。


 現在地から、近いところで2件のヒットがあった。先ほど候補としてあげた2店ならば、どちらも、全国展開をしているチェーン店なので、至る所に店舗があるのに、なぜ、そこではダメなのだろう。


「カフェ、あったよ。この近くだと2つ。ハワイアンカフェと純喫茶みたい。どっちにする?」


 スマートフォンの画面から目を離して、彼を見上げると、今度は、彼も、私をしっかりと見てくれた。


「どっちが、ここから近い?」

「う〜ん。ハワイアンカフェかなぁ。ここから、徒歩5分だって」

「5分か……。まぁ、ぎりぎり間に合うかな……。よし! そこに行こう!」


 彼は、私のスマートフォン画面に表示されている地図を素早く見ると、私の手を取り、早足で歩き出した。


 彼に引きずられる様にして、私も慌てて歩く。


 彼は、一体どうしてしまったのだろう。いつもの彼ならば、私のわがままに振り回されながら、ニコニコとしているのが、定石なのだ。こんなに強引に私を引っ張って、どこかに行こうとはしない。私は、小さな不安を覚えた。


「ね、ねぇ。どうしたの? 何かあったの?」


 私は、息を切らしながら、彼に問いかける。その問いかけに、彼は、前を向いたまま、ぶっきらぼうに答えた。


「もうすぐ、雨が降る」

「えっ?」


 彼の言葉に、思わず空を見上げる。


 空は先ほど見たように、青空だった。しかし、言われてみれば、向こうのほうの空には、先ほどまではなかった黒い雲が、じんわりと広がっているようだった。


「ど、どうしてわかるの?」

「匂いがしたんだ」

「に、匂い?」

「そう。雨の匂い」

「あ、雨の匂い?」


 私の、息を切らした問いに、彼は無言で頷くと、そのあとは、もう何も言わず、私をグイグイと引っ張って歩いていく。

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