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過程

ちょっとシリアスのつづき。

 意識が朦朧としていて定まらない。風邪をひいているのだから当然だし、誰かが看病してくれるはずもない。


 一人暮らしの学生の辛いところだな、と考えながら起き上がる。


 何かを忘れているような感覚があるが、たぶん、夢で見た何かを思い出せないそんな感覚だ。数分もしないうちにその断片も溶けて、跡形もなくおもいだせなくなってしまうだろう。


 熱は……体温計はどこだったか。その前に水分でも取ろうか。まとまらない思考の中で冷蔵庫をあけて、


 はて。冷蔵庫の中身はこんなに少なかっただろうか? 昨日から具合が良くなかったから、食べなかったものが残っているかと思っていたのだが。


 いや、昨日? もしかしてまだ日付が変わっていないだけだろうか。夕飯に作られたものがないのなら、何も入っていないかもしれない。


 誰が作る? 体調が悪いのだから自力ではたいしたモノは作れないはずだが……そう考えて外を見る。


 異様なまでに大きな月が、まだ明るい夕方の空に輝いていた。


 夢の内容が思い出せないんじゃない。夢だから思い出せないんだ。


 自覚した瞬間、意識が覚醒に向かった。


***


「あ、ご主人。起きましたね?」


 柔らかい何かに頭を抑えられた状態で、そんなふうに声をかけられる。


「マツリか、おはよう……なのか?」


「ご主人が帰ってきてから2時間くらいしか経っていませんから。まだ夕方ですよ」


 マツリの言葉と溜息の音が聞こえるが、頭が柔らかいモノから解放される様子はない。これは……どけようとして手を伸ばしたけれども、自分から触れたら取り返しがつかないような気がした。


 今はマツリが押し付けているという大義名分があるのだ。こちらから行動したら変態扱いされてしまう。


「ご主人、動かずに聞いてもらえますか? ……違いますね。私とご主人が出会った夜の内容に、興味はありますか?」


 マツリはこの2.3日の間に聞いたことが無いような真剣な口調でこちらに伺い立てる。


「この話はそれほど長い話ではありませんが、ご主人の平穏を乱すには充分、だと考えてます。ご主人が聞きたいなら、現状の問題まで含めて説明します。聞きたくないなら、私と小さい方で、多少の無茶をしてでも終わらせておきます」


 マツリは口調を崩さず、こちらの首筋や胸元を撫でながら告げる。


「僕にとっては……俺にとっては。ほんの短い時間だけれども、マツリ達がいることのほうが平穏だと思うんだ」


 さっき見た夢、マツリ達がいないというそれは、ほんの短い時間であるにもかかわらず孤独感を与えてきた。目覚めた時に得た安堵感は、すぐそばにマツリがいてくれたからこそだろう。


「もし、マツリを受け入れるキッカケになる事を知れるなら。それは、聞いておきたい」


「わかりました。私が伝えられる範囲で、あの時の事から、今の体調不良の事を教えます。確認出来ていない事柄や、勘違いしていることもあるかもしれないので、完全に正しいとは言えませんが」


 可能性のことを示唆した上で、マツリは説明し始めた。


***


「まず、あの日の夜です。私は拠点に忍び込んだ別の獣帯を追っていました。拠点で盗まれたモノがあるから、捕まえてこい、と」


 マツリは呟くように説明をする。思い出しつつであるからか、時々視線が左上を向く。


「盗んだ獣は青蛇でした。盗まれたモノは何か分かりませんでしたが、おそらく妖精が関連したモノです」


 封印された何かとか、呼び出す何かかも、と例を挙げる。


「蛇を捕まえようとした時、蛇はあろうことかそれを(ブロック)塀に叩きつけて破壊しました。動機はちょっとわからないですね」


 その時のことを思い出しているのか、顔をしかめている。


「破壊された時に、そこに妖精が大量に……集まったか解放されたかしました。その時に偶然、近くにいた『酔った人間』であるご主人がいました」


 マツリは表情を……いや、なぜ目隠しされたままの状態であるのに、マツリの表情を認識できるのだろう。説明が始まる前から、ずっと。


 今は説明を聞くのが先か。覚えていたら後から聞こう。


「妖精が酒気を食らおうと、私の背後にいるご主人の体に向かいました。結果、私達の体は『理不尽』と『悪意』に犯されました。そして、同じ妖精が私達の体を食い破り……その時にご主人は死にかけました。私は外見は大丈夫でしたが、肺を奪われたままではどうにもなりません。すぐに妖精を殺して、奪われたモノを取り返しました」


 マツリは一息に告げる。


「その時に、同じ妖精に傷付けられたご主人の体も一部を除き取り戻され、それが『守った』と認識された結果、ご主人がご主人になった訳です」


 マツリは指をたててこちらの腹をくすぐる。集中できなくなるほどではないが、そういうイタズラは後にして欲しい。


「ご主人の体は全て取り返せたと思っていたのですが、そうではなかったみたいです。魔力の使い方を覚えて、補ってもらおうと思っていたんですが、間に合わなさそうなので……私達と、ご主人にも少し無理をしてもらえれば、取り戻せるはずです」


「取り戻せたら、体調不良や眠気は収まるか?」


 あと、獣臭さも。結局自分ではわからなかったが言われたんだよな。


「その辺りは、取り戻してからまた馴染むまで待つ必要がありますが、答えとしては肯定ですね」


「なら、無理をしたほうがよさそうだ……取られたモノ、取り返さないといけない僕の一部とは、なんだ?」


 少し焦っているのだろうか。荒い口調になりそうだが、深呼吸して落ち着く。


「ご主人の魂の2割程度、ですね」


 予想外の答えに、思考が止まってしまった。

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