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目眩

ちょっとだけシリアス。10話目冒頭までです。

「さて、ご主人。普段よりもお疲れのように見えますよ?」


 マツリは僕に対してそんな風にささやいてくる。ちびマツリはマツリの肩に乗り、相方の髪の毛を弄っている。


「普段、って。まだ知り合ってから40時間くらいしか経っていないだろう?」


 昨晩、というか朝から眠い事は確かだが。


「んー、朝の接続の時に多少の眠気が出るのは想定していましたが、昼までには収まるはずだったんですよねぇ、想定外というかなんというか。別の要因がありますね?」


「そう、か? 眠いのはよくある事だから、あまり気にしていなかった……んだが」


「眠そうというか、少し具合が悪そうに見えなくも……一応、横になってください」


「ま、待っ……」


 言い切る前にマツリは布団を敷き直し、僕を寝かせた。膝枕までされてしまい、視界は大きな胸で塞がれてしまった。


「ほら、こうしても抵抗できないくらいには疲労してるんですよ。朝の接続の時に気づかなかったのは失態ですね」


「あれ以降で、具合が悪くなった可能性も、なくは……」


 一応ということで口に出してみる。ただの風邪みたいなものだろう、と考えているが、具合が悪いのだと言われてしまえば、それまでは目眩を眠気と勘違いしていたのでは? という気もしてきた。それを自覚したのがあの時……いや、どうなんだろう。


「外的要因であるならば私がなんとかしますから。おっきいほうはこのまま看病しておいてくださいな」


「あら、任せきりにしてしまって良いのかしら」


「今の状態のご主人を一人にしておくわけにもいかないでしょう。それに、おっきいほうの方が接続が強いので、そばにいればご主人の治りも早くなるでしょう」


「外的要因じゃないときはすぐに戻ってください。もし『外敵』要因なら、倒すか情報を手に入れて戻ってくるか……どちらか成し遂げてくださいね」


「お任せあれ。私の予想的には外に原因はないと思いますが」


 マツリ達が何かを言っている。正直、意味が理解できない。こんなの、ただの風邪だろう?


「ご主人はそう思っておいてください。本当に風邪であっても、あるいは何かがあったとしても、ご主人にとって結果は変わりませんから」


「そのあたりのことを確認するのはこっちの仕事です。ご主人はただの体長不良だと思っていていただいて大丈夫ですよ」


「では、いってきまーす」


 ちびマツリは窓から飛び出してどこかに行ってしまった。何か危険な事でもしようとしているのだろうか。なんだかんだでマツリ達の事は、あっさりと受け入れてしまっている。2人にもし何かしらあったら、その時俺はどういう反応をするのだろうか。


 落ち着いていられるかもしれないし、取り乱すかもしれない。


 胸肉で視界を塞がれた。少しは恥じらいを持っていて欲しいものだが、と考えている間に、眠気のようなそれで意識は薄れ、そして途切れた。


***


 式神の方の私は名前を貰ったことで、私とは別のモノになった。私とすごくにているけれども、厳密には違うもの。ご主人の観点で考えるなら、数日前までの状況が全く一緒だった双子だとか、そのあたりだろうか。人間に対しての理解はてにいれたものの、厳密に同じ考えを手に入れているかどうかはよくわからない。そのあたりは検証をすることができない分野の話になってしまう。


 さて、小さいほう……もう式神ではないので小さいほうと言ってしまうけれど、あれはもう一つの個性になってしまった。いくら双子といっても、まったく同じようには育たない。ご主人に私へのパスを教えなかったり、そもそも式神としての休止状態に戻らないあたり、もう式神ではないはず。


 魔力の循環は、私と同じでご主人からの供給が通るはず。ご主人の負担になっている原因があの子、という事は無いだろうけれど。


「ご主人、寝ましたか?」


 少し声をかけてみるが、寝息が返事として帰ってきただけだった。単純な戦闘力としてなら私の方が強いのだけれど、戦闘と体格以外はおおよそ同じ。ご主人から供給される合計の魔力量はほぼ変わっていないし、受け取る量も変わっていない。


「これは、やっぱり出会うきっかけのアレを……なんとかしないといけませんかねぇ」


 ご主人の平穏を守るために、一時的であるとはいえ平穏を崩す必要がある。そのあたりは、命令のジレンマに陥ってしまっている。


 私達という存在がいなくなってしまうという代償で解決できるかもしれないが、そもそもご主人を狙っての攻撃じみた行動がこれで終わりだとは限らない。


 ご主人の体長を改善させるまで、こうやって密着してエネルギーの供給と魔力の充填をしておかなければ。回復した後にご主人の判断を伺い、それからどうするかの方針を決めよう。


 ご主人の許可が下りるようならば、同行してもらったほうが良いかもしれない。私達が敗北した場合に、ご主人が自分である程度身を守れるように準備しておく必要もある。


 ご主人は人間とほぼ変わらないが、それでも細かい部分ではもう厳密には人間ではないのだ。妖精の魔力は、人間で扱うことができない。


 あのとき、ご主人を助け、同時に助けを求めたのは間違っていたのだろうか。


 ご主人の気持ちが分からないし、その時の記憶もなくしているようなので、あの時の判断が正しいのか間違っていたのか。確認する方法は、今のところない。


「大きいほう、ご主人は?」


 小さいほうが帰ってきた……のではなく、念話を飛ばしてきた。


「寝ています。生命維持も問題ありません」


「ではそのまま寝かせておいてください。私の戦闘能力でもどうにかなりそうなので」


「了解ですよ。あなたが壊れたらご主人に負荷がかかる可能性もあるので、ちゃんと生きて帰ってきてくださいね」


「心配せずとも。私はあなたであり、あなたではないのですから」


 平穏な日常を守るために。

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