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甘い

予約投稿がなぜか実行されませんでした。操作ミスしたかな…?

 翌朝。


 夜中マツリは、俺が風呂と呼んでいるシャワールームから部屋に戻ったときにはどこにもいなかったのに、昨日と同じように起こしにきた。


 昨日よりほんの10分ほど遅い時間になっているが、活動には問題ない。


 ちゃぶ台の上に置かれた朝食は味噌汁と米、昨晩の残りの惣菜、それからコップ1杯の牛乳。


「和食には牛乳は合わないんじゃないか?」


 牛乳は嫌いではないしちゃんと飲むつもりではいるが、なんとなくそう思ってしまう。


「そうですかねぇ。朝一番の搾りたてですし、問題ないと思いますよ?」


「おまっ……」


 いきなりなんて事を言ってくれるんだ。こいつ絞った自分の乳を僕に飲ませようとしていたのか……さては変態か?


「ちなみにこれは私が性的倒錯者であったり、あるいはご主人をそうしようと仕向けている為ではなくて、謀術のためのエネルギーの効率を上げる為です」


 人に化けるとかいう術の、か。だったら仕方ない、のだろうか?


「はい。騙すには心苦しいのですが、でもそうじゃないと人とは暮らせませんしね。効率が良くなれば、周りの人間に、完全にただの人間に見せるくらいにはできますよ?」


「じゃあ、その言葉を信用して……」


 一息に飲み干す。いや、騙すのはって言うのは俺……僕に宛てた言葉じゃないだろうな。そうじゃないと信じたい。


 ジュースと勘違いしそうな程の甘さが口の中に広がった。


「何か、入れたのか?」


 そう聞かずにはいられない程度の甘さ。


「あえて言うなら、愛情という名の魔力、ですかね? ご主人が平穏に暮らす為には、手間を取らせない為に効率を上げないとですから」


 そういうものなんだろうか。少なくとも魔力だとかそう言ったものは、フィクションの知識しか持ち合わせていないのだ。


 まだ寝ぼけているかの様に思考が緩やかになる。


「今日は2時限目からですよね。接続が体に馴染むには時間がかかりそうだと判断したので、少し早めに起こしました。30分くらいぼーっとしていると良いですよ」


「そう、か」


 現状のこれが食事中に寝落ちして見ている夢だと言われたら、そのままそうだと信じてしまいそうなくらいになってしまった。


「ご主人の身の安全のためですから。甘いだとか言わないでくださいね。私の謀術力をほんの少し乗せておいたので、初めてのそれに酔っているだけです」


「酒の時のことがあるから、あまり酔う事が、楽しいとは思えなくてな」


 マツリに聞こえたかは分からないが、小さく声にする。態度から見ても、無視したのか届かなかったのかは分からない。


「さて、ご主人。ほんの30分くらいですが、ぼーっとしているだけで過ごすのは非常に勿体ないです。力の変換効率を良くする為に、身体的接触をしておかなければなりません」


 義務感なのかマツリが望んでいるのか、あるいは酔っているから聞こえないと思われたのか、少しだけ大きな声で言われた。


 そこまで意識が曖昧になっているとは思っていなかったが、まあいいか。


 少し物を動かす音が聞こえたあと、


 後ろから抱きつかれた。


「恥ずかしいので、後ろを振り向かないで下さいね? 羞恥という感情を呼び起こすような行動を私がしていることに、自分でも驚いているんですよね」


「後ろから抱きつくことは、そんなに恥ずかしいのか?」


「ええまぁ、この格好ですし」


 背中に質量のある柔らかいものが当たり、その重量と密度のせいで逆に硬さすら感じるような刺激を感じる。


 ……だめだ、どういう状況なのかは考えてはいけないものだ。こう考えている時点で『そうである』可能性を認識しているが、それを口にしてはいけない。


 蕩けた思考のままでいる事に、少しだけ安堵してしまった。


 少しだけ体重を預けるようにしながら、そのまま30分の間、時間が過ぎるのを待っていた。


***


 30分の時間が経過する頃には、意識がだいぶ元に戻ってきていた。マツリはいつのまにか背後からいなくなり、少しぼんやりとしたまま食事をする僕の事を見ていた。


「あー、マツリさん?」


「はい、なんでしょー?」


 心なしか嬉しそうな声に聞こえるのは勘違いではないだろう。知り合ってから1日半、実際に一緒に過ごした時間はもっと少ないだろう。だけれども、魔力? かなにかのパスが繋がっているせいだろうか。その辺りは若干察しやすくなっているきがする。


「なぜゆえにこんなにじーっと見つめられているのでしょう」


「ご主人が食べているのを見ると嬉しくなるならですよ? 他に理由はありません、今のところは、ええ」


「なら、いいんだが……」


 笑顔は威嚇の表情ともいうが、マツリは今人間形態だしな。それから本人も嬉しいと言っているので、受けた印象は間違っていないはずなのだ。


 食事を終えて身支度をしようとしていたところ、マツリが話を切り出してきた。


「今日は学校まで同行したいのですが、構いませんよね?」


「いやお前、それはどうなんだ?」


 確かに同行者がいるならば学校に部外者が入ってくるのは問題ない。高校時代とは違い制服もないし、別に入るときに学生証の提示もないし、教授や警備員から提示を求められる可能性こそあるものの、一度もそれを見たことがない。


 深夜帯に侵入でもしない限りは大丈夫だろう。


 ただ、メイド服の女性を連れて歩くことは大いに問題ありだ。


 電車でも注目を浴びるし、警察を呼ばれるかもしれないし、学校でも何らかの処罰をされたところで文句は言えない。


「ということなんだが」


「問題ありません。一緒に行くのは私ではなく、私の分身ですから。ご主人以外には、敵意がある人外からしか見えませんよ」


 そう言ってマツリが僕に渡したのは、手のひらに乗るサイズ、二頭身の可愛らしい写身だった。


「なんか、こういうフィギュアとかあったよな……」


 ちびマツリは、僕に手を振ってそれに応えたのだった。

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[良い点] とってもまったりしていて読んでいてこっちもまったりしました〜 こういうまったりした作品いいですね〜 心が非常にまったりして口角が自然と上がってしまいます。 キャラの作り方が作者様が描きたい…
[良い点] 3話目のサブタイトルがミルクなのかミルクの元に向けてなのか迷ってしまいました 甘い ですね [一言] 現実なのにちょっぴり怪奇 そして甘い この先どう話が転がっていくのか気になりました
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