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二人目の王候補3


「ヒイ様、魔物討伐お疲れ様!」


「見ていてくれたの? ありがとう、サラさん」



 ホールの階段上から手すりに身を乗り出すようにしてヒイラギを待ち構えていたサラに、ヒイラギは一も二もなく破顔した。


 そして維緒は想像以上に仲がよさそうな様子にドン引きした。


(ええ? あの時話してたのってほんの数分……)


 しげしげと観察していると、紘也があっさりと片手を上げて挨拶に代えてきたため、維緒も軽く手を振って応えた。



「ヒイ様にお話ししたいことがあって待ってたの。時間はあるかしら?」


「勿論。ちょうど一息入れようと思っていたところだよ。応接室を借りてお茶を運ばせよう」


 ヒイラギの言葉に、近くに控えていた男性――――確かエトガルがトウノヤと呼んでいた――――が素早く動いて近くの扉のノブに鍵を差し込む。


 侍従が足早にキッチン方面に向かうのも見えた。


 なるほど、事前情報通り彼はいいところの出で、人を使い慣れているようだ。



 そして、やれやれといった目で見ているのは維緒だけではない。


 ちらっと目を合わせると、「よっ」と非常に軽い声が掛かった。


「よっ」


 と同じように返すと、お互いに笑いが零れる。



 ふたりとも同じように、アストライアの重厚な丁寧さに違和感と居心地の悪さを感じているのだろう。


 維緒はこれまでそう意識したこともなかったが、今はそう思った。



「どうですか? 身長RPGの調子は」

「身長RPG!? なんですかそれ」


 試しに放ってみた話題は、紘也の気を引くことに成功したようだ。


 面白がるように食いついてくる。



「言われませんでした? 王様に。王候補の庭で魔物を倒すアレのこと」


「聞いてない! 身長RPGって、ダメージで身長縮むから? 俺たちプレイヤーってことですよね」



「プレイヤー声かけるだけで全然役に立ってないんですけど」


「俺も俺も。だってプロレスの応援とかとは全然違うし、ぶっちゃけ何していいのかわかんないですし」


「わかります。私も何か武術とか習得してきた方がいいのかなってくらい、何が起きてるのかわからないときあります」


 笑い合う間に、サラとヒイラギはもう室内に入っていた。

 エトガルに促された維緒も後に続く。



「ヒイラギ、昨日はちょっと縮んでうわって感じだったのに、今日とか俺が何か言うまでもなくボス倒しちゃって、毛先一ミリくらいしか縮んでないんですから」


「サラもこのところ小さくなってるのなんて一度も見ませんよ」



「僕たちの戦い方の話? 紘也、『びっくりするからあんま怪我すんな』って言ってなかった? だから今日は僕、紘也のために気を付けたんだけどなー」


「私は、維緒たちが心配して安全そうな魔物にばっかり誘導してくれるから小さくならなくて済んでるのよ。なあに? 維緒。小さい私をもっと見たかった?」


 応接室に入ってからも盛り上がり続ける維緒と紘也に、王候補ふたりからからかいの声が掛かる。



「小さいサラはかわいいからね」


「あ、小さいサラさんとか絶対かわいいやつじゃないですか。今度会わせてください!」


「えー? ちょっと危ない気がする」


「そうだね、紘也はちょっと危ない気がする」


「俺のことどういう目で見てるんだよ」


 ヒイラギが同意したところで、維緒たちは椅子に座った。



「維緒さんとサラさんは一週間も前からアストライアに来てるんだってね。すごいね、夢繋ぎってうちの国でもだけど、円環の国でも条件の難しい魔術でしょう?」


 場を和ませるようなヒイラギの語り口に、維緒は乗っかった。



「やっぱり難しいんですか?」


「今も試してる人は何百何千といるはずだからね。僕も材料集めから何度も試してようやく紘也と夢が繋がったと思ったら、なかなか紘也が同意してくれなくて」


 そういえば紘也はアストライアに来たときにも、渋るような戸惑うような様子だった。


 根負けしたのだろうか。



「依代の誓約をなかなかしてくれなかったんですか?」


「逆に維緒さんは、すぐにいいよって言えたんですか?」


「維緒はすぐ頷いてくれたわ」



「それもすごいな。俺何回もヒイラギに説得されたらしいんだけど、夢の中だといまいち判断できなくてまた今度って何回も夢から追い出してたらしくて。起きたら、なんか変な夢見たなーとしか思わないし。アストライアに来てからヒイラギにすっげえ責められましたよ」


(そっか。普通に夢を見てたらそんなものなのかもしれない)



 維緒の夢はいつでもばっちり明晰夢なので、そういった夢うつつのようなことにはならなかった。


 もしかしたらそれも、維緒とサラが早くからアストライアに来ることができた一因なのかもしれないな、と維緒は考える。



「アストライアの記憶は起きた後ちゃんとありました?」


「それが不思議で、ちゃんとあるのな。それで俺、この世界が夢じゃなくて本当に俺が召喚されてるんだって納得いったから、ヒイラギに協力することにしたんです。でも、寝てる間に誰かに見られたら消えてるってことなんだろうから、しばらくは迂闊に友達と泊りがけの旅行とか行けないですね」


「それ考えてなかった。私たち、アストライアにいる間、身体なくなっちゃってるんですか?」


 それは今まで聞いた中で一番の、依代の欠点かもしれない。



「僕たちには確かめられないけれど、そうだと聞いているよ。アストライアに来ている依代の身体は、僕達王候補とは違って実際のものだっていうから、怪我には気を付けてね」


 ヒイラギは言って、少し目線を上げた。


「でも心配いらないかな。頼もしいボディガードが付いてるみたいだし」


 維緒は振り向いた。そこにはいつも通り、ヨルンが立っている。



「いつもありがとう、ヨルン」


「はっ」


 短い返事と共に、ヨルンは姿勢を正した。


 ヒイラギと紘也の前では雑談に応じてくれそうにない。真面目なヨルンらしい態度だ。



 同じく先程から会話に参加してこないサラは、と目を向けると、会話の合間に維緒が手渡したお皿から、クッキーをおいしそうに食べている。


 幸せそうで何よりである。

 

(にこにこサラさんからもぐもぐサラさんに昇格かな、これは)



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