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クレープパーティー2


「まだ時間が早いし、もう一体倒しちゃっても大丈夫よね、ヨルン」


「そうですね。同じようなタイプの魔物ですし、今と同じように距離を取って石化してしまえば問題なく倒せそうですね」



 手慣れたサラは危うげなく一体の魔物を倒した。


 今日の魔物はヒト型ばかりだ。


 流行り病のときにはこうしてヒト型の魔物になることが多いようで、以前、実際に人を石化しているわけではないと聞いてほっとした。



「ヘウレーカ!」


 お決まりの呪文と共に、サラが王候補の庭に降りてゆく。



『維緒、見て!』


 サラが明るい声を上げた。


『ここ、円環の国よ。メルヘンボーゲンのすぐ隣のご領主様の土地だわ。一度ウェスくんに連れてきてもらったことがあるの』


「ウェスくん?」



『私の叔父様よ。道がわかるわ。こっちに精霊神殿があって、その前の広場の周りに服飾関係のお店が多いの。刺繍のきれいなリボンを扱うお店があるわ。こっちよ』


「待って、サラ。お店よりも魔物を探さなきゃ」


 走り出すサラを維緒が苦笑しながら止めると、『そうだったわ』とサラも従う。



「ヨルン、魔物どこかな?」


「まだ見えませんね。サラ様にもう少し歩き回っていただきましょう」


 今日のヨルンはいつものエトガルの役目も兼任しているので、維緒と一緒に石板に触れてサラを見守ってくれている。



「サラ、やっぱりもうちょっと好きに歩き回っていいよ。まだ魔物が見つからないの」


『そう? じゃあ勝手に案内しちゃうわね』


 いつもにこにこごきげんサラさん(命名維緒)は今日もご機嫌麗しい。


 今日はお嬢さんファッションだと本人が開口一番に言っていたが、白いレースをあしらった煉瓦色のドレスの裾が翻るのが街並みによく合っている。


 隣のご領主の街だというそこは、重厚感ある総石彫りかつタイル貼りのような建築のアストライアとは雰囲気が違う。


 密に立ち並ぶ家がカラフルに塗られ、窓枠など随所に木が使われている様子はかわいらしく、随所に飾られた鉢植えも雰囲気をよくしている。


「サラの住む街もここと似てるの?」


『よく似てるわ。この辺りはみんなこんな感じ。私はクリーム色の壁のアパルトメントの三階に住んでいるの。いいところよ』


「かわいい雰囲気がサラに似合うね」


『ありがとう。私も街はこういう感じが落ち着くわ』



 街に降りても、そこが実際の街の中というわけではなく王候補の庭による便宜上の再現というわけで、サラの姿は誰にも見えないらしい。


 だから、踊るようにくるくると駆け回るサラも奇異の目で見られずに済む。



(物は持って帰ってこれるのに?)


 維緒には理屈がよくわからない。

 と、ヨルンの肩がびくついた。



「魔物、見つけました」

「どこどこ?」

「あちら。施療院の門の辺りに」


 ヨルンが維緒の肩に手を置いて身体の向きを調整しつつ、一点を指差した。


(んん?)



 いきなりの身体接触に驚いた維緒はヨルンを見上げかけたが、ヨルンが気づいた様子はないので無意識の行いなのだろう。


 気にしても仕方ない、と維緒はヨルンの指差す先に意識を集中した。


 ヨルンの伝えてきた場所は、ちょうどサラの進行方向だ。


 門をじっと睨むようにして立つ、スノーマンのように膨れた男の姿が今回の魔物らしい。



「サラ、そのまま進んで。魔物を見つけたわ」


『わかったわ。遠くから姿が見えそうな場所にいるかしら』


「大丈夫。道の真ん中に立ってるわ」



 サラはヨルンとの訓練の結果、できるだけ魔物の近くには寄らないよう忠告された。


 ――――まあ、才能は誰の上にも平等に降り注ぐものじゃないしね。


 持てる資源で勝負すればいいだけの話である。



『見えた! アレね』


 サラが持ち込んだ小道具、笛を思いっきり吹き鳴らす。


 思惑通り、魔物がすぐさまサラの方を向いた。



『目が合った! ……合ってない?』


 喜びを告げるサラの声が、すぐに戸惑いに変わる。


 魔物はまだ石化していない。サラのことが見つけられていないのだろう。



『もう少し近づくわね』


 サラが警戒した声で、歩み寄りながら今度は小石を投げつける。


 意識を向けさえすればこっちのものだ。


 そう思ったが、今回の魔物は明らかにサラに気づいて野球のバットのような棒を振り回しながらサラに近づいてきているのに、一向に石化する様子がない。



「サラ、この魔物変じゃない? 石化しないみたい?」


 心配になって声をかける維緒に、サラは渋い声を返した。


『これはちょっと無理ね。諦めるわ。維緒、戻っていい?』

「すぐ戻って」


 サラは無傷のまま、岩盤上の円環の上に現れた。


 サラが魔物を倒せないまま途中帰還するのは、これが初めてだ。



「おかえり、サラ。怪我はない?」


「平気。でも悔しいわ」


 ピンピンした様子のサラに、維緒とヨルンは安堵した。

 ヨルンが尋ねる。


「サラ様、なぜあの魔物には石化が効かなかったのですか?」


「あの魔物ね、目が見えないみたいなの。焦点が合ってなかった。目が見えない相手とは、目を合わせられないわ」


「それは相手が悪かったですね。我々の調査不足でした」


「仕方ないわ。目が見えないのって、外観からじゃわからないもの」



 サラは言葉ほど気にしていそうには見えないが、維緒はサラの気持ちを他に向けることにした。


「じゃあ、身長RPGはこの辺にして、お待ちかねのクレープパーティーに行こうよ。さっきからバザールの方が、だんだん賑やかになってきてるの」


「そうね! ヨルン、仲良しのお友達が来ていたら紹介してね」


「いつもヨルンにはお世話になってますって言わなきゃ」



 一瞬で気持ちが切り替わったふたりの様子に、ヨルンがたじたじになった。


「どうかお手柔らかに……」


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