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4.怪談 語り:黄泉 輪廻

目の前で人が倒れるのを見るのは二度目。

母校の後輩らしい、その子は過呼吸で倒れてしまった。


「タニシ君!大丈夫!?タニシくん!!」


憧れの研究室の先輩は血相を変えて彼を介抱している。


「あかん!千鶴ちゃん。救急車!」

「はい」


千鶴ちゃんはスマホを取り出し、コールをしはじめる。

店の喫煙室を出てカウンターに走る。


「オジさん!ツレが倒れてもうた!救命道具かなんかあらへんか!?」

「えっ、ええ!?」


店内の人間が混乱する。

そりゃそうだ、突然起きた非現実。


「・・・もう!」


田螺君のもとに駆け寄る。

ボロボロと涙を零す先輩。

いつも冷静な彼女のはじめてみる表情。


「先輩、どいて。こういう時は気道を確保せなかん」

「そうじゃないんだ。そうじゃない、彼は寝てしまうこと自体が・・・」

「何ゆうってるかわかりませんけど、そこどいて!」


私は田螺君の首に手を当て気道を広げる。

呼吸は・・・しているようだ。


程なくしてサイレンの音が聞こえてきた。

奥から千鶴ちゃんが救急隊を案内する。


「この子か。急げ。・・・君が応急手当を?」


救急隊員が田螺君を担架に乗せる。


「え・・・ええ。保健体育で習ったことを、そのまま」

「よくパニックにならず行ってくれましたね。どなたか同行される

方はいますか?」

「・・・私が」


琴々先輩が救急車に乗り込む。


「ではこちらに」


############################


「ああ、ホンマびっくりしたわぁ・・・」

「八重先輩の機転のおかげですよ」


千鶴ちゃんが微笑む。


「そんなことないんよ。初めてやないってだけで・・・」


駅に着く。


「今日もストーカーおるんやろか」

「・・・何かあったらすぐ呼んでください。依頼を請けるだなんて大見得

きった高校生があの調子じゃあ」

「ふっふふ、千鶴ちゃんも高校生やろ」

「私は来年卒業ですから」


改札口を抜け、「じゃあ」と言いそれぞれの家に向かうホームに立つ。

正面に見える千鶴ちゃんは軽くこちらに会釈をすると鞄から本を取り出し

そちらに集中し始めた。


「怖いもの知らずやなぁ」


交差する電車。

時計を見る、23時32分。最終電車だ。


電車に乗るとガラガラな客席。

ギターに一席を使用しても怒られまい。


最寄の駅までは30分はかかる。


――

―――

――――――明駅。


いかん、寝てもうた。

寝ぼけ眼をこすると丁度最寄り駅。危なかった。

あわててギターを背負い電車を飛び降りる。


「え」


電車の中に見覚えのある顔。


()()()や」


ウチの座っていた向かいの席に座っていた小太りで薄頭の男。


体を触る。

何も、されてはいない。


改札口から逃げるように走る。


もし、隣駅で降りて追ってきたら。

でも、それならなんで同じ駅でおりなかった?


恐怖で足が震える。


「しっかりしろ。ウチ」



携帯を取り出すと同時に、

千鶴ちゃんからのLINEメッセージの通知。


『大丈夫でしたか?』


固唾を飲む。

震える指で画面をなぞる。


『大丈夫やで。そっちは?』

『無事帰宅しました。』


怖がらせたらアカン。

ただでさえ後輩が倒れとるんや。


震える足を叩く。大丈夫だ、歩ける。


街頭が定期的にあるだけの田舎道。

遠くからコンビニの灯りが見える。

さっさと家に帰ってしまおう。


足早に前を通り過ぎようとする、コンビニの駐車場に一つの影。


あの男だ。


何で!?

やっぱり追ってきたのか!?


恐怖心を抑えきれず走る。


ここを超えてしまえば、走ればあと2,3分で帰れる。

瞳から涙が滲む。

そうだ、警察に電話。

走りながら「110」をタップ。


『黄泉ちゃん』

「うわぁ!?」


電話口から聞き覚えのない、でも確信する()()()の声だ。

震えで奥歯が音を立てる。


一台の車が腰を抜かした私の前を通り過ぎる。

運転しているのは「アイツ」


「ウソやろ・・・」


ドアが開く。


「うわぁああ!」


ギターを捨て、何もかも捨て、スマホだけを握り逃げる。

殺される?

何がしたいんだアイツは?

追ってくるでもなくこちらを見つめるだけ。


恐怖。

異常。

恐怖。怯え。狼狽。畏怖。


ようやく見えたアパート。

泣きながらオートロックの暗証番号を何度も間違える。

やっと開いたドア。


「なんなんや・・・・なんなんや・・・ホンマ・・・」


ぶつぶつと吐き出しながら自室の扉を開く。


「おかえり」

「なっ」


口を掌でふさがれる。

もう片方の腕は首を絞めている。


「うしろのしょうめんだぁれだ」


扉は閉じてゆく。

こんな結末。


力が抜け手から落ちた携帯の灯りが目に入る。


『ほんとうに大丈夫?』


ああ、千鶴ちゃん。千鶴ちゃんだけは。

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