王子様は魔法使い
「第三者から見る婚約破棄」のその後です。
アルフォンス王子目線です。
誕生日パーティが終わった後のお話。
「どうしても王妃になりたかったのよ…」
そう言って僕の現在の婚約者であるアウレーリアはソファで項垂れている。
本日、僕アルフォンスはこの度、想い人であったアウレーリア・サンセット伯爵令嬢と婚約をしたのだが、散々な目にあってしまった。
姉の誕生日会場で元婚約者のリーシア公爵令嬢に糾弾し、姉が婚約破棄および、アウレーリアとの婚約を承認してくれた…までは良かった。
18歳でこの国は成人となりいち早く、18歳になった子供が家督を受け継ぐのだ。そう、今日は姉の18歳の誕生日であり、姉はこの国の次期女王となる事が発表されたのだ。元々は隣国の科学大国へ政略結婚で嫁ぐ予定ではあったのだが、何故だかその話が有耶無耶になっていた。この国の魔法使いの魔力を込めた魔石を生活に必要な器具—魔法のランプや自動水道、火を転嫁できる装置などに加工できる技術を持っている。
お互い持ちつ持たれつの関係を切らさない様に、お互いの国同士で政略結婚が行われていたのだ。
科学大国には、魔法使いが少ないのだ。街に出て、1日中歩いて1人2人すれ違うレベルだそうだ。
そう、この国は魔法大国である。貴族のほぼ全員が魔法を使う事ができる。僕は王族なので四大元素魔法を全て使う事ができるが、威力は中級程度である。
今日、姉の地位が確立してしまって僕は臣籍降下する事が決まった。元々臣籍降下する予定だった公爵ではなく、子爵家となる。姉が領地を与えてくれたのが唯一の救いである。冤罪を擦りつけたり、リーシアに対して名誉毀損を押し付けたことや迷惑をかけた事に対してだが今となっては仕方がない事だ。
そして、僕を嘘で固めて騙したアウレーリアと結婚しなければならない。
元々の婚約者のリーシアの事は好きも嫌いも無かった。ただ、幼少の頃から王族の婚約者であることに対し責務を持って日々を過ごしていた真面目な子だった。そう、今思えば真面目な子だと言う事だけは解っていたのだ…。
決められた結婚だと言う事が嫌だったのだ。だからアウレーリア…彼女と出会って婚約者だけは自分で選んでみたかった。
彼女と過ごした日々は今でも鮮明に色づいて僕の記憶に留まっている。時々、僕が反論したりすると変に見つめてきたり甘えてきたりして困惑したが、それも可愛いと思えた。
「アウレーリア…これからどうしたい?君はどうしてそこまで王妃を…権力を望むの?」
彼女は一瞬ビックリした様な表情したがその後僕を見つめてくる。
「私はねお姫様に…なりたいの。だからあなたはもう要らないわ?ごめんね。愛してるけどあなたはもう用済みよ。」
「でも僕たちは婚約者同士だ。」
「はっ?何言ってんの?もうお終い!」
苦しそうな嫌そうな表情を浮かべ僕を直接見ることなく彼女は言葉を発する。彼女は恐らくまだ僕が彼女の魔法に掛かっていると思っているのだろう。これで僕との関係を終わらせれる様に。
「そうなのかな。君が王妃になりたくて僕に近づいた事も、流石にこちらへ来た理由もね。」
彼女は怪訝そうな不機嫌そうな顔を僕に向け、目線を合わしこげ茶色の大きな目を開けて僕を見つめてくる。
彼女がこちらへ来た理由――彼女はトランセット王国では珍しい魔力持ちで魅了の魔法が使える。子供の頃から魔力を制御できずに周りの人間を魅了し、好きなように使っていたそうだ。魔法の掛け方も解除の方法も彼女の国では誰も教えてくれない。今は意識的に使えるようだけどそれも完璧ではない。
僕も最初出会った時は完全に掛かっていただろう。だとしても僕は腐っても王族なのだ。僕の魔法耐性が強いのかアウレーリアの魔力がそれほど強くないからなのか、出会ったその日の内に徐々に解けていった。
実はパーティ会場で元婚約者のリーシアが皆に状態異常回復の魔法を施すか周りを見渡していたが、流石に周りの皆もほぼ解けていた。魅了を掛けた本人は気付いていなかった様だが、ここは魔法大国だ。
彼女の魔法は普段笑わない女の子が笑ってドキッとしただけで解けてしまうそんな簡単なものだった。
「騙されてたとしても初めて、自分で選んだ将来が君なんだよね。僕はね、第一王子だが、姉の方が魔力も強いし出来が良い。人を惹きつける魅力も華やかさもある。僕は良くも悪くも王子っぽいだけなんだ。優秀な婚約者をつけられて、お手本通りの対応しかしてくれない。他の女の子と遊んでも、気にもされない。いつも監視されてる様な、すこし窮屈な思いをずっと抱いてたんだ。」
彼女はすこし怯える様な顔をした。騙されてる相手は騙されたとは言わない。眉間にシワを作ったまま恐る恐る僕をを見上げている。
「僕も少し、意地になってたんだよね。リーシアに対しても事実確認もせず君の言葉を聞いて、決めつけた。」
僕は多分、誰かの一番になりたかっただけだ。そして彼女も恐らく、同じだと思う。僕たちは根本で似た者同士なんだと思う。肩書きや魔法ではなく、ただ自分自身が愛されたかった。
僕は彼女の前に跪き、そして彼女の手を取り彼女を見つめる。
「僕は王子ではなく子爵位になってしまった。それで僕たちが周りに迷惑をかけた事はケリがついている。あまり贅沢はさせれあげれないかもしれないが、僕は魔法使いだ。この国でも上位クラスのね。これからきっと自分の力で出世することを誓う。
君がお姫様になりたいなら、僕のお姫様になってくれないだろうか?」
「私…子爵夫人は嫌!せめて元の伯爵までは…出世して。」
急に顔を真っ赤にして子供の様にうろたえる彼女を見て、これから彼女とやっていけるような気がした。
「姫の仰せの通りに精進します」
ハッピーエンドが好きです