「最高のショーは、これにてお終い」
そこは、奇々怪々とした雰囲気が渦巻いていた。そこに明確な名はない。ただそこは、暗く、暗く、言葉では言い表すことの出来ない程に暗く、息をすることもできないような、将又寝転びたくなるような、そこと言う空間であった。
暗いだけのその空間に、ホワイトのスポットライトが落ちる。照らされたのは古びた肘掛け椅子であり、一人掛けにしては大きいそれは並々ならぬ存在感を発揮していた。その下の床には深く円陣が彫られている。
暗転。後、明転。
いつの間にか、椅子の上には一人の女が座っていた。座っているというよりか、肘置きに両足をかけ、反対側で腕をだらりと垂らしている姿は、寝そべっているに近い。手には赤くも緑色にも見えるグロテスクな液体が入ったワイングラスが辛うじて乗っており、女が足を揺らす度に少しずつ床を汚した。
女はつまらなそうに自分の爪を引っ掻いていたが、やがて面倒そうに口を開いた。
「神よ、真実を聞き給え」
女が指を鳴らすと、どこからかラヴェルの『亡き王女の為のパヴァーヌ』が流れ出した。女は持っていたワイングラスを隅に放り投げると、わざとらしく泣き崩れる。が、涙を自力で流すことができなかった為か、一度立ち上がると、目薬を取り出し二、三滴垂らす。そして再び泣き崩れた。
テイクツーである。
「ああ神よ!なんという悲劇なのでしょう!このようなことが起こるなどとは思とぉっ!」
何処からか落ちてきたやかんが乾いた音をたてて女の頭にぶつかった。
そのまま転がったやかんは、女の頭に当たった箇所だけ綺麗に凹んでいた。
「痛いわね!そんなことしなくてもいいじゃない!」
女は終わりの見えない天井を睨みつけるも、渋々と言ったように椅子に座り直した。大きく足を組み替え、不敵な笑みを浮かべる。
ヒステリックに声を上げていた女はもう、既にそこには居なかった。
「さて、何から話しましょうか?」
暗転。