5・決意の朝に。
血を吐き蹲る俺に先輩が近づいてくる。もう十分戦った。ベストを尽くして勝てなかったんだから仕方ないだろう。そう思い目を閉じようとする。
意識が途切れかけた瞬間、走馬灯の様に脳裏に戦う前の誓いが過った。
そうだ、俺は…
気力だけで立ち上がる。表示されているHPは僅か2。それでも諦めるわけにはいかなかった。
それは俺が戦う前に誓った想い。
死ぬことが運命だとしても最後まで運命に抗う。
今の俺にできる抵抗。それは殺される寸前まで諦めずに立ち続けることだ。
そんな俺の姿に驚いたのか、先輩は足を止めていた。だが俺が虫の息だとわかると警戒しながらも近づいてくる。
一方の俺は意識が更に薄れてきた。先輩が目の前に来た頃にはついにHPは1になっていた。
お互い血だらけのまま睨み合う。先輩が止めを刺そうと大地を踏みしめる。渾身の一撃を俺に向かって放った。
だがその一撃は俺に届くことはなかった。
踏みしめた足元から不意に崩れ落ち、俺の横に倒れこむ。
《経験値が一定に達しました。ノスダムリトルリザードがLV1からLV2に上がりました》
《各種ステータスが上昇しました》
《経験値が一定に達しました。ノスダムリトルリザードがLV2からLV3に上がりました》
《各種ステータスが上昇しました》
《熟練度が一定に達しました。フィニッシュムーブ「身体強化LV1」が「身体強化LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「恐怖耐性lv4」が「恐怖耐性LV5」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「集中LV1」が「集中LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「視覚LV1」が「視覚LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「暗視LV1」が「暗視LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「嗅覚LV1」が「嗅覚LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「聴覚LV1」が「聴覚LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「隠密LV5」が「隠密LV6」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「魔力感知LV1」が「魔力感知LV2」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「空間感知LV2」が「空間感知LV3」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「気配感知LV2」が「気配感知LV3」に上がりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「魔力操作LV1」が「魔力操作LV2」に上がりました》
頭に声が響くと同時に身体の傷が一瞬で完治する。それは俺が勝利したことを証明していた。
危なかった。レベルアップによる完全回復がなければ死んでいた。
安堵を浮かべると同時に先輩を見る。今の俺は素直に死闘を演じた大蜥蜴に敬意を払い首を垂れた。そして決意する。
いただきます。
激しい戦いの後だからかかなり空腹だった。命がけで倒したのだし食べないのは逆に失礼ってもんだ。
心まで蜥蜴に染まったからか、それとも肉への欲求が理性を超えたのか、生肉それも蜥蜴のお肉を食べることに一切の迷いなく食べ始める。
パクパク、モグモグ。
一心不乱に食べ進める。若干の獣臭さを感じるが食べられないことはなく、むしろ今までの草生活に比べたら圧倒的においしい食事なのだ。その後もひたすら無心で食べ進める。
お腹いっぱいになっても先輩の身体のほとんどが残っていた。割と残さず食べるほうだが流石に自分より遥かに大きいものは食べきれない。
いつの間にか朝日が昇り始めていた。うっすらと光が見えるなか、巨大な地鳴りと共に大地が震える。
いや地鳴りではない。太陽の光を浴び、白銀色に輝く龍が猛々しい咆哮を上げながら頭上を通り過ぎていく。
圧倒され身動きがとれない俺の中に渦巻いた感情。それは蛇に抱いた感情でも大蜥蜴に抱いた感情でもない。それは絶対的な存在に対する憧れ。
鑑定など忘れその姿に思わず見とれる。鑑定などしなくても理解できた。あの龍はこの世界における頂点に君臨する存在だと。「感知」にいくつか反応があるが無防備な俺を襲ってこないことからも龍の咆哮に怯えて動けないのだろう。
そのまま龍は火山へと向かい飛んでいく。火山がテリトリーなのだろう。
龍を見送りながら俺は決意する。
今はちっぽけな取るに足らない存在だろう。それでもいつか必ず龍を超える存在になってやる!
心にそう誓うと大蜥蜴に一礼する。
ご馳走様。
丁寧に葬ってやりたいが「感知」に反応がある。まずは安全な場所に避難だ。
俺は早速拠点へと引き返した。
拠点に戻ってきて先ほどの戦闘でのレベルアップを思い出す。レベルが一気に2つ上がっていた。そう思い自分のステータスチェックを行う。
『種族 ノスダムリトルリザード LV3
ステータス
HP:45/45
MP:25/25
物理攻撃:17
物理防御:16
魔法攻撃:4
魔法防御:4
命中精度:15(+2)
回避性能:15(+2)
フィニッシュムーブ
「身体強化LV2」
スキル
「恐怖耐性LV5」「真理」「集中LV2」「視覚LV2」「暗視LV2」「嗅覚LV2」「聴覚LV2」「隠密LV6」「魔力感知LV2」「空間感知LV3」「気配感知LV3」「魔力操作LV2」』
死闘の影響だろうか、ステータスが上昇している。そしてスキルがすべて上がっている。何よりもフィニッシュムーブが上がったのは大きい。「身体強化」を使えば先輩(大蜥蜴)とも互角に戦えるくらいだ。
最初はレベルアップによって上がったのかとも思ったけど先輩のスキルのレベルから察するにレベルアップでもらえる経験点はあんまり多くはないと思う。つまりスキルは実戦が一番上げやすいということになる。なおスキルが低かった先輩はほとんど戦闘をしていなかったという証明にもなるのだ。
戦闘をしまくっている相手だったら確実に死んでいた。どのみち勝ったのはほぼ運みたいなものだったけど。それでも今生きているのは諦めずに立ち上がったからだと思っている。
そういえば突進を回避しようと思ったとき頭にイメージが浮かんできた。
可能性がありそうなのは「真理」の効果だ。恐らく状況を解析し敵の動きを予測、攻撃を避けようとした俺のために最善の回避を自動演算したと考えるのが妥当だろう。なにそれ強くね?
ともかくこれでハッキリした。ステータス自体は努力次第で上げることができること。ステータスはフィニッシュムーブとスキルによって埋めることができるがレベリングは実戦じゃないと難しいこと。そしてステータスが近い場合はフィニッシュムーブやスキルによって勝敗が決まること。
こう考えると「身体強化」を取れたのは大きかった。今後の戦闘でも重宝するのは間違いない。だけど時間制限付きな諸刃の剣なのが問題でもあるけど。
今後の目標も決まった。
龍に会いに行く。龍を超えるためにも一度ちゃんと見てみる必要があると思ったからだ。
後は進化もしなきゃいけない。まぁ龍に進化するにはどうすればいいかわからないんだけど。
そんなことを思ったらいきなり目の前に系統図みたいなものが現れる。
そこに書いてあったのは俺の進化ルートだった。
驚いて開いた口が塞がらない。これも「真理」の効果に違いない。自分を鑑定しているとはいえまさか進化のルートまで表示されるとは。だが、その進化ルートは俺の希望を砕いた。
龍への進化はなかった。しかも俺の進化は先輩と同じところまでしかない。つまり一段階しか進化できないのだ。一瞬落ち込むが考え直してみる。
正規での進化はこれしかないのかもしれないが隠し条件みたいなものがあるかもしれない。苦しい考えかもしれないがそう考えないとやってられないのが本音だったりする。それに大蜥蜴で進化が止まるなら龍よりも強い蜥蜴になるだけだ。
思いついたら即行動だ。俺は火山を目指し歩き始めた。