1・転生はある日突然に。
RPGの王道はプレイヤーは勇者となり、世界を支配しようとする魔王を倒し世界に平和を齎すことだろう。
この世界ではそんなゲームのような一連の流れが当たり前のように何度も繰り返されてきた。
勇者が魔王を倒して世界を救う。そんなありきたりな世界。
勇者が力を失ったとき、新しき魔王が誕生して世界を脅かす。そして次代の勇者が生まれ魔王を倒す。
まるで周回プレイのように永劫の時を越え何度も繰り返される戦い。
人々の期待を一身に背負い魔王を倒そうとする者。
恋人を魔物に殺されその復讐心から魔王を倒そうとする者。
ひたすらに強さを求め続けた結果、魔王と対峙する者。勇者といっても様々な人物が存在する。
一方、魔物を統べ世界を支配しようとするモノ。
世界を裏から支配しようとするモノ。
世界に絶望し支配によって世界を変えようとするモノ。
このように魔王もその世代によって大きく異なる存在だった。
ただ勇者と魔王に共通しているもの、それはどちらも強大な力を宿し敵対する定めだということだ。
この戦いは世界によって決められている。世界がそうさせている。
ありきたり故に過酷な世界。終わりの来ない戦渦の世界。
そんな過酷な世界にとある事故で転生してしまう一人の高校生。
これは転生者の少年の物語である。
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俺の名前は高橋 強。
どこにでもいるなんてことのない高校二年生。高校は少し勉強すれば入れるレベルの公立校だし、特に運動部に入っているわけでもなく体型も中肉中背。身長も平均ととにかく平凡この上ない。
家も両親と兄が一人のごく普通の家庭だ。ただ人と違うことを上げるとするならば顔が人より少しだけ残念なことくらいだ。ほんとに少しだけな!
そんなわけでもちろん童貞。当然彼女もできない。中学生の時に思い切って告白したが顔が好みじゃないとフラれて以来心が折れた。男は顔じゃないとイケメンの友達に慰められたのも今となってはいい思い出だったりする。
今朝もいつもと同じ道をいつもと同じ時間帯に通る。いつもと違ったのは目の前をここらへんじゃ見かけたことのない小さい子供が一人で歩いていたことだ。
その子に近づくトラック。子供がいるにも関わらず減速する気配がない。まるでその子供が見えていないかのように。慌てて飛び出し子供をトラックの横に突き飛ばす。もうトラックは目前に迫っていた。
「どうしてこうなった…」
そう呟いた直後、甲高いブレーキ音が聞こえトラックに吹き飛ばされる。全身に激しい痛みが走り地面に叩きつけられる。
俺は死ぬのだろうか。自分を中心に大量の出血による水溜りができる。もはや血が出ていないところがないと感じるほど全身から出血しているのがわかった。
呼吸もしにくく、口の中も血の味しかしない。体から血がなくなってきたからか、寒気がし始める。それと同時に自分に近づく人影が視界に入る。
見線を上げると目が霞んで見えにくいが恐らくトラックから守った女の子だと認識する。なぜなら轢かれる前に見たその子はキレイなブロンドカラーのショートボブが似合う子だったからだ。
「私……、……救っ……」
意識が薄れているせいかその子が何を言っているのか聞き取れないが、どうやらお礼を言っているような気がする。
【ブサイク界一のイケメン】と定評のある俺からしたら女の子から声を掛けられるだけで助けた甲斐があるってもんだ。ふと悲しい気持ちになるのは気のせいだろう。とにかく返事をしなければ。
「ああ、(気にしなくて)…いい、よ」
口の中が血だらけでうまく言えなかったが言いたいことは伝わっただろう。
その後また吐血し、死が近づいてくるのを実感する。この後自分はどうなってしまうのか。死が怖くて仕方ない。震えながらも必死に死に抗った。
そんな努力も空しく、俺の意識は薄れていった。
こうして俺の人生は簡単に終わってしまったのである。
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はっ!?
ここは?
真っ暗でなにも見えない。
おーい!
そう叫ぼうとするがなぜか声が出ない。
俺は死んだのか? だけど意識ははっきりしている。なにがなんだかわからなくなる。
待て! まだ慌てる時間じゃない!
とりあえず今の状況を把握しよう。
体に痛みは感じず、手足は動かせるようだ。だがなぜかうつ伏せになっていて立つこともできない。
トラックに轢かれたのだから病院に運ばれたのだろうか? それにしてはうつ伏せになっているのはおかしいし、それに明らかにベッドの上ではない。意識があって体が動く時点で死んでいるわけでもなさそうだ。
このまま考え込んでいても仕方ない。進もうとするが立つことが出来ないので四つん這いに前進した直後壁らしき物に頭をぶつける。
イタッ! と思うと同時にピキッと目の前の壁から音がする。ヒビが入ったのだろうか?壁を支えにし立ち上がり殴ったみた。鈍い音と同時に手から伝わる痛みで涙目になる。どうやら手で殴るよりも頭から当たったほうが壁を壊せそうだ。それに壁を支えにしているとはいえ立っているのが辛いのもあった。
一歩後方に下がり一呼吸置く。覚悟を決め、壁目掛けて思いっきり頭突きをかました。
音を立て割れた壁から光が差し込む。若干の痛みを感じつつ視界が明るくなったのも束の間、光を得た安堵感から一転、血の気が引いていく。そこで見た最初の景色は10いや、20個もの卵があり、そこから生まれたであろう大量の蜥蜴たちだったのだ。しかもどの蜥蜴も俺と同じくらい大きいのだ。
ウギャャャャャ!
心で叫びながら後ずさりするとお尻が何かにぶつかった。正確にはお尻の先なんだが。待ってくれ。お尻の先に感覚があるのはおかしいぞ。そう思いながらも目の前の光景が現実を実感させる。
嘘だろ…いやいや、そんなまさか。
恐る恐る後ろを振り向く。俺の目がおかしくなければ蜥蜴の体。しっぽ。そして俺の出てきたと思われる卵の殻が見える。
んな、バカな!
これはもしかしなくても転生というやつでは?
つーかそれなら普通勇者じゃないのか?
せめて人間じゃなきゃ割に合わないっしょ!
まぁ元の顔があれだからなんとも言えないが。
自分の顔のおかげで不本意ではあるが冷静さを取り戻す。
状況を改めて整理する。
つまりはトラックから女の子を救って死んだはずが蜥蜴へと転生したと。俺は大きく心で叫んだ。
どうしてこうなったーーーーーーーーーーー!
こうして俺は少女の命を救い蜥蜴へと転生したのだった。