四話 王都の荒廃
俺の秘密を皆に打ち明け、仲間と共に邪神とその使徒と戦っていく決意を新たにしたのは良いのだが、結局あれから何も使徒についての手がかりも掴めぬまま、一ヶ月が経過してしまった。
その間、幾度となく王城にアリスンさん達を忍び込ませていたのだがほとんど収穫がない。俺も忍び込んではみたものの、サーチでも使徒らしい気配は全く見つけられなかった。使徒の野郎はどこか別の次元にでも居るんだろうか? だとしたら手出しができないぞ。
とりあえず、一連の捜査で判明した使徒以外の情報を整理すると、宰相はなんとジークフリートがやっているらしい。おまけに騎士団長はシルヴィアだ。もう人事めちゃくちゃだな。国の方針や政策を決める会議体なんかも無くて、ほとんど王女マイアの鶴の一言で決まってしまっている様だ。
ちなみにこの国の王は王族の血を引いている者からしか選ぶ事ができない決まりになっている。だから王位継承権を持つ、最後の王族であるマイアに誰も逆らう事ができないのが現状の様だ。
……これはもう完全な独裁政治だな。マイア一人が自滅するのなら別にいいのだが、そのとばっちりを受けるのは罪のない国民だ。なんとかしなければならない。
これに邪神の使徒が絡んでいるというのなら尚の事だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――マイア視点――
「マイア様、空位となっている魔術師団長の人事はいかが致しましょう?」
「うーん、そうね。誰か候補はいないの?」
「では、僭越ながら、宮廷魔術師のローミオン氏をお招きしては如何でしょう? 彼以外に魔術に長けて、それなりの地位のある者は他に見当たりません」
「……ローミオンはダメよ。却下ね」
「それは……どうしてでしょうか?」
この官僚の男、しつこいな。ローミオンはフェイトの関係者だからダメに決まってるじゃない。フェイトは共通の敵がいて、共闘している間は良いんだけど、今は怖いの。報酬を与えなかった事も恨んでると思うし。
「私がダメだと言ったらダメなのよ。分かった?」
「え? あ、はい……失礼致しました」
でも、私の判断は間違ってないよ。あの男を王国の中枢に入れるのはとても危険なの。ダンテもそう言ってたし。……あの男は確かに強いけど、所詮はただの人よ。私の王族の権力には逆らえない……はずなんだから。
そうよ、この国で一番えらいのは私なのよ? あんな男ごときに下手に出る必要なんてないの。
「魔術師団長については後で考える事にするよ。次はなにかあるの?」
「あ、はい。次は財政の問題です。先の戦いで悪化した財政を補うため増税を致しましたが、その増税の影響で景気が悪化して税収は思うように上がっておりません。当初計画していた財源は確保できそうにありません」
なんなの? 税を上げたのになんでお金がないのよ。
「どうして税を上げたのにお金が増えないの? おかしいじゃない」
「さ、先程も申し上げましたが、税を上げたために景気が悪化してしまい、国民が国に収められる税金が減ってしまったのです」
なによ、この男も私に楯突くの? それに景気とか言われてもなにがなんだか分からないじゃない。
「そんなこと言ってるけど。本当は誰かがお金を誤魔化して、盗んでるんじゃないの? ひょっとして……まさか、あなたじゃないでしょうね?」
「いえ、そ、そのような事は! 滅相もございません!」
私がそう言うと、この男、すっかり怯えて縮こまっちゃった。前にも疑いをかけて官僚の人を一人処刑しちゃったからビビッちゃったのね。うーん、この男も気に入らないから早めに処分しちゃおうかなぁ。ふふ……私に逆らうからいけないのよ。
「ふーん、じゃあ他に何か方法はないの?」
「お、恐れながら。他の商人や貴族からお金を借りるという方法もございます」
借金するの? 嫌よそんなの。
「ねえ、あなた。この女王である私に、卑しい商人や下級貴族に頭を下げさせて、お金を借りてこいというの?」
「いえ、違います。頭は私どもが下げに行きます。王女陛下は王城でごゆるりとお寛ぎになって頂ければよいのです」
「でも、私の名前でお金を借りに行くことには変わりは無いのよね?」
「そ、それは……その通りなのですが」
この男、私に恥をかかせるつもりなの? うん。やっぱり処刑に決定ね!
「あなた……やっぱり不正をしているみたいね。誰かこの男を捕らえて、連れて行ってよ」
私の命令に従って、鎧を着た騎士風の男二人が、私に意見した男の両脇を抱え連れて行こうとします。
「ま、待ってくれ。私は断じて不正など! 陛下どうか、御慈悲を! 御慈悲をお願いします!」
あーあ、あんなに泣き叫んじゃってみっともない。でも、私に意見して恥までかかせようとしたんだから当然よね。役立たずは排除するのが一番だってダンテも言ったし。私は間違ってないよね。
「ねえ、ジーク」
「は、はひぃ!」
なによジーク。そんな情けない声出して。
「もう私めんどくさくなっちゃったから、これジークに任せるよ。あなた宰相でしょ? 適当に決めちゃっていいから後はよろしくね」
顔を青くし、コクコクと頷くジーク。本当にどうしたの? 私が怖いのかな? そんな事ないよね。
うーん。でもそんなことはどうでもいいかな。私の指示で皆が動く。うん。これすごく快感。そうよ。私はこれが欲しかったのよ。ああ~、今日も一日仕事したなー。王国のために働く私って偉いよね?
マイア自身はうまくやっていると思い込んでいるが、実際に彼女がやっているのは紛れもなく独裁的な恐怖政治。それ以外の何物でもなかった。
マイアは増税以外にも、カガリ達獣人族と交わしていた奴隷開放の約束を完全に反故にし、先の戦いに従事した獣人達の不満は日に日に高まっている。
当然獣人族が安全に暮らせる自治区を作る約束も宙に浮いたままである。
また、あろうことかアストレイア教の教えも排し、アストレイア教の信者に新しく起こった新興宗教であるファーガス教への改宗を強要。アストレイア教の教会も次々と取り壊されていった。改宗を拒んだ信者は処刑されてしまうため、国外に逃亡、亡命する信者も少なくない。
また、表向きは改宗した様に振る舞い、裏で隠れてアストレイア教の信仰を続ける者も多かった。
国民は重税に喘ぎ、税金を収められない者は王国の兵士によって囚えられ、奴隷に落とされる。男は炭鉱に送られ、女は娼館で働かされる様な状況が常態化している有様だった。
王族派と貴族派との決着がつき。これでやっと平穏無事な日々がやって来ると、期待に胸を膨らませていた王国国民はまさに天国から地獄に突き落とされた様な形となる。
一ヶ月も経てば、王都は荒廃し、国民のマイアに対する怨嗟の念、絶望の念が王国を取り巻くようになってしまう。もちろんこれは邪神の使徒ダンテの狙い通りの状況であることは言うまでもない。
王城ではこの状況を憂い、少数ながらなんとかしようとする者もいたのだが、そういった志ある者はすぐにマイアの目にとまり、次々と王城からその姿を消していく。やがて、王城ではマイアに逆らうものはいなくなり、マイアに媚び諂い、胡麻をするイエスマンばかりが政治の中枢を占めるようになってしまった。
恐怖と絶望、負の感情が渦巻く王城。その王城から一人の女が人目を気にしつつ抜け出していく。彼女は悲壮な表情の奥に覚悟を滲ませながら、闇夜に紛れ、ある者のところに駆けていくのだった。
次回の更新は10/21(土)を予定しています。
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