三話 仲間と共に (2/2)
「まず、邪神エクリプスについてだが、こいつの目的は女神アストレイアをこの世界、プライアスから追い出し、我が物にする事だな。それで使徒を地上に放って裏でコソコソと工作活動なんかしたりしてる」
「悪さって……具体的になんだよ? それになんでコソコソしなくちゃならないんだよ。神なんだから遠慮せずにババーンとやっちゃえばいいのに」
これから説明するからそう急かすなよトリスタン。
「その邪神がやっている事の一つが守護竜の封印、支配だな。レーニアで戦った炎竜リディルは邪神の使徒の一人、ケルソに操られていた。守護竜はプライアスの地脈をコントロールしていて、それがアストレイアの力になる。だから邪神は真っ先に守護竜を押さえたわけだな」
「その操られていた妾は響介殿に倒され、邪神の封印支配から開放されたのだ」
「そういうこと。だから俺の目的は邪神やその使徒を倒すこともそうだけど、リディル達、守護竜をすべて救い出すことにあるんだ。ちなみにこの王都にも嵐竜シグルーン……この世界では一般に嵐竜テンペストと呼ばれている竜が居るはずなんだけど……」
「どこに封印されているのか、その所在が掴めないのだ」
「使徒の手によって封印されているのだと思うんだけど、その使徒の手がかりが全く掴めなくてな……王都に来てからずっと探りを入れていたんだが……」
俺とリディルは揃って腕を組み、うなだれる。
「ケルソの時は力技で攻めてきたけど、今回の使徒は裏でコソコソと搦め手使ってくるんだよな。おそらくだけど、派手に暴れてしまうと女神よりも上位の神、主神にバレて面倒くさいことになるから表立って行動していないんだと思う」
「ふーん。そうだったのか……。でもフェイト、その主神ってのに邪神の事を言えば助けてくれるんじゃないのか? なんでそうしないんだ?」
あ……しまった。つい口が滑っちまった。俺たちも主神から隠れてコソコソしている身だったって事を忘れてたぜ。トリスタンこいつ……妙なところに鋭いな。
《響介さーん。なんてことしてくれたんですか。ちゃんと誤魔化してくださいよー》
《元はと言えばお前の失態だろ? 俺はこれ以上フォローできんぞ》
《忘れたんですか? 響介さんは共犯者なんですよ? 主神にバレたら響介さんもタダではすみませんよ》
《ぐ……相変わらず理不尽すぎる……》
もう乗りかかった船なのだろうか……仕方ない、テキトーにすっとぼけるか。
「俺も良く分からないんだけど、主神の手を煩わせるわけにはいかないって、アストレイアが言ってたんだよね」
「? そーいうもんなのか?」
「さあ? 天界の事情については、俺もそんなに詳しくないからな」
《響介さん。テキトーにも程がありますよ》
《トリスタン達にとっては、雲の上のような話だから大丈夫。バレないバレない》
嘘は堂々とついた方が良いんだよ。
「というわけで、今の王都の混乱は間違いなく使徒の仕業だ。クヴァンとデュークも邪気を纏っていたし、たぶん使徒に操られていたんだろうな。そして国王の病気。第一王子と第二王子の対立、クーデターの勃発。そして今回の自殺に見せかけたアレックス王子の暗殺。そのすべてで使徒が裏で糸を引いていたんじゃないかと思う」
「ということは、まさかマイア王女が?」
「マイア自身が使徒……という可能性はないと思う。もしそうだとしたらさすがに気付くよ。女神の目はそう簡単にごまかせないと思うし。ただ……操られていたという可能性は、どうだろうか、無いとは言い切れない」
《少なくとも邪気は感じられなかったので、操られたのではなく、使徒の口車に乗せられただけって事も考えられますね》
《まあ、いろいろと思慮が浅そうなお姫様だったからなぁ》
「フェイト……そうだったのね。フェイトがこんな重い使命を背負っていたなんて……私全然気付かなかった……」
「ディアナ、今ままで黙っていてすまん。というかさすがにこれに気付くのは無理があるだろう。でもこれからは思いっきり頼らせてもらうけど、いいか?」
「もちろんよフェイト。もう遠慮はなしよ」
「俺も遠慮は無用だぜフェイト。あ、でも女神の使徒様なんだから敬語使わなきゃならないか?」
さっきの嘘はなんとか有耶無耶にできたようだ。よかったよかった。
「いや、トリスタン。今まで通りで良いって。前にも言ったがお前に敬語を使われたらむず痒くなって仕方ない」
「だよなぁ」
と、俺とトリスタン、二人で苦笑いする。
「フェイト様。私もフェイト様が何者であろうが関係ありません。生涯フェイト様にお仕え致します」
「そ、そうか。アリスンさんこれからもよろしく」
アリスンさんの忠誠心が痛い。生涯って正直重すぎるんですが……。
「フェイト親分。まさか女神様の使徒だったなんてさすがです。俺、親分に付いてきてこれ程うれしいと思ったことはありません! な? お前達もそうだろ?」
「「はい、さすが親分です!」」
「お、おう。ありがとう」
なにがさすがなのか良く分からないが、感動に打ち震えるドミニクとアーヴィンとゴードン。
ふとその隣を見ると、カガリ達、アリスンさんを除く獣人の面々が平伏している姿が見えた。
「フェイト様、そうとは知らず、これまで使徒様に無礼な振る舞いをしてしまいました……申し訳ございません」
「あ、いや。カガリさん。これまでと同じでいいよ。あの脳天気なトリスタンみたいにさ」
「いえ、フェイト様。そのようなわけには参りません。これまで使徒様を兄貴などと……誠に畏れ多い事です。……今を以って義兄弟の契を解消させて頂きます」
兄貴って呼ばれるのは正直どうかなって思うけど、そこまで気を使われると逆に腹立つぞシオン。
「さっきも言ったけど、これまで通りでいいって。そんな他人行儀にされる方がなんかいやだな」
「え? では、これからも兄貴と呼んでも?」
「だから、構わないって言ってるだろ」
「あ、兄貴、ありがとうございます! これからも一生ついて行きます!」
微笑むカガリの横で男泣きするシオン。ゲンドウとミオも涙ぐんでいる。つい流れでOKしちゃったけど、できればもうちょっと普通に接して欲しいんだけどなぁ。かと言って断ったりしたら、こいつらショック受けてどうなっちゃうか分からないし。
「なるほどな。フェイト君の魔法の知識はどこから得たものだろうかと疑問に思っていたのだが、女神様の使徒なら当然だな。これからもいろいろと教えてくれないかな? ハッハッハ!」
俺が女神の使徒と分かったからなのか、さすがに背中をバシバシ叩かなくなったローミオン。うん。それは遠慮してくれた方がありがたい。
「ふーん。なるほどね。師匠のあの錬金術の知識も女神様から得たというわけなのかなぁ。それなら納得かも。もっと色々教えてよね」
うんうん。と、納得いったみたいな感じに頷くカレナリエン。
「ああ、そうだな。世界を滅ぼしかねないような知識もあるから、教えられる範囲でな」
「世界を滅ぼすって、怖いよ師匠……」
俺の不敵な笑みに青ざめるカレナリエン。
「ねえ、フェイト。フェイトが女神様の使徒という事は分かったんだけど。その、レナ……お、お義母さんもそうなの?」
お義母さんという言葉に照れるディアナ。まだ、言い慣れてないんだな。うむ、可愛いぞ。
「母さんは多分関係ないと思うんだけどな。アストレイアからも何も聞いてないし」
……いや、待てよ。言ってて思ったんだが、母さんのあの謎キャラっぷり。何かあるのだろうか? ……うーん。まあ、考え過ぎなのかな。あのノーテンキな母さんに何があるとは思えない。
「それにしてもお前って、使徒なのに女神様を呼び捨てなんだな」
「……まあな、もう何年も念話で話しているから慣れちまった」
「へぇ。じゃあ、女神様にも会ったことがあるのか? いいよなぁ。あんなグラマーで美人な女神様に会えるるなんて……性格もすごく優しそうだし」
「あ、いや。そんな良いもんじゃないけどな」
あー、ここにもアストレイアの詐欺に騙された迷える子羊がいらっしゃいました。アストレイア、お前の罪は重い。こんな幼気で純真な少年のエロ心を弄びやがって。消費者センターに通報するぞ?
《詐欺じゃないですよー。成長すれば私だってああなるんです!》
《懺悔するなら今のうちだぞ?》
《我は退かぬ! 媚びぬ! 省みぬー!》
《お前は聖帝かよ》
「……ひょっとして、今も女神様と話しているの?」
「え? ああ、うん。少し」
俺の顔を横から覗き込みながらディアナが話しかけてきた。
「あー、なんか分かった。フェイトって時々一人でニヤついたり怒ったりしてる時があったんだけど、それって女神様と話してたんだね」
「う、なんかすまんな。傍から見て気持ち悪かっただろ?」
「うーん。でも理由が分かったからもう大丈夫よ」
……理由が分かる前は気持ち悪いって思ってたんですね。なんか微妙に凹むなぁ。
俺が若干気落ちしていると、ポンっと誰かに肩を叩かれたので、後ろを振り向くとそこにはエレーナが立っていた。
「フェイトが使徒だろうが関係ない。どう繕ってもフェイトはフェイトだし、皆フェイトがヘンタイだってもう分かってるから大丈夫」
「…………」
エレーナさんや。それ全然フォローになってないんですけど?
次回の投稿は10/18(水)を予定しています。
よろしくお願いします。




