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二話 仲間と共に (1/2)


「どうなってんだこれ? マイアが女王ってどういう事だよ」

「俺に聞くなよ。とにかく新聞を読めって」


 俺はもう一度新聞に目を落とす。


「なになに、アレックス王子は王太子の座についたものの、国民の気体やプレッシャーに耐えられず、服毒自殺を図ったぁ!? おいおい、嘘だろこれ」

「折角念願の勝利を手にしたというのに自殺するなんて……にわかには信じ難いですわね」


 まったくだ。自殺するんなら何のために王族派を組織して、貴族派と最終決戦までやったんだよ。


「確かに優柔不断なところはあったが、責任感や使命感は強い人物だったと思う。このタイミング、この状況で自殺するなんて不自然過ぎる」


 新聞には頭を抱えて思い悩む王子の姿を何度も見た、という侍女の証言を掲載し王子自殺の信憑性を煽っているが、ものすごく胡散臭い。日本のメディアでもあったな、政府関係者の証言とか。その関係者って一体誰だよって話だ。


《邪神の使徒が絡んでいるんでしょうか?》

《有り得る話だな》


 使徒の真の狙いはマイアを王位に就けることだったのか? でも、その目的はなんだ? 俺は何か重要なことを見落としているのだろうか。……マイアが使徒と絡んでいるとしたら、もしかしてレーニアに俺を勧誘に来たのも使徒の差し金? だとしたら俺はずっと使徒の手のひらの上で踊っていただけなのか……。


「フェイト……」

「ん? ああ、ディアナすまん」


 俺は考え込むあまり、また怖い表情をしていたようだ。そんな俺の様子を心配してなのかどうかは分からないが、皆の視線が俺に向けられている。


「フェイト様……今回の一件、何か心当たりでもありますの?」

「…………」


《どうする? ここは皆にも事情を話した方がいいか?》

《そうですね。今回の件って、私達だけで解決しようとしたから、こんなに拗れちゃったのかもしれませんね……》

《だな、仲間には遠慮せず頼るべきなのかも知れない》


「分かった。すべてを話すよ。でもここは人目があるから……ローミオンさん。今からギルドの一室貸してくれませんか?」

「ああ、了解した。それぐらいお安い御用だよ」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺達は宿を後にし、ローミオンの執務室に集まった。ローミオン曰くこの部屋は魔道具によって盗聴などを防ぐ対策が施されているそうだ。


「さて、どう話したものかな……。まず結論から言うと、俺が戦っている敵が邪神エクリプスと、その使徒だ。要するに俺は邪神を倒すために女神アストレイアから遣わされた女神の使徒という事だな」


 とりあえず単刀直入に言ってみたものの……みんなポカーンとした表情をして呆けている。やっぱこれを信じろってのは無理な話だよなぁ。


「あのなフェイト。冗談はいいから、早く本当のことを話せよ」


 案の定トリスタンのやつ、俺がウケ狙いの冗談を言ったと思ってやがる。


「トリスタン生憎だが。今言ったのは冗談じゃない。正真正銘……本当のことだ」

「え? フェイトって、本当に女神様の使徒なの?」


「だからそう言ってるじゃないかディアナ」

「うーん。でもいきなりそう言われても……」


「レティシアはどうなんだ? 初めてあった時から俺が女神の使徒じゃないかって疑ってただろ?」

「あれは、まあ……半分冗談と言いますか……フェイト様をからかうのが面白かったからですわ」


 ガーン! やっぱあれ、からかわれてたの?


「はぁ、せっかく意を決して打ち明けたってのに……お前らってやつは」

「と言われても信憑性が全然ないんだから仕方ないだろ?」

「いつも冗談ばかり言ってるフェイトが悪い」


 あーあ、いきなり躓いちまったよ。どうすんだよこれ。と、俺が途方にくれていると……


「そなた達、響介殿の言っていることを信じてやることは出来ぬのか? これまで寝食を共にし、死線をくぐり抜けてきた仲間であろう」


 その声は、また唐突に出現しましたねリディルさん。皆が驚いてリディルの方を向く。ローミオンが一番驚いているな。まあ、セキュリティは万全だって豪語してたし。


「え? いつの間に? あなたは一体」

「このガキ、一体どこから!?」

「なにこの子かわいい! 美幼女キター!」


 皆思い思いに驚きの声を出す。


「ああ、その子はな。レーニアで俺が倒した炎竜レッドドラゴンで、名前はリディルだ。そして女神アストレイアの眷族でもあるわけなんだが……」

「いかにも。妾の名は炎竜リディル。我が主アストレイア様の眷族なり」


 今度は皆、驚きすぎて声が出せず、口をパクパクさせている。


「……そんなに信じられぬのなら、今ここで炎竜の姿を見せてやっても良いが?」

「ちょっとまて。リディルやめてくれ。そんなことしたらギルドが潰れるって。他にお前が炎竜だと証明できるものはないのか?」


「ふむ、そうだな……」


 リディルはしばし考え込んだ後、おもむろに頭の両サイドにつけている布の袋、名前はなんて言うのか分からないが、ストⅡのチュン◯リーが頭につけてるアレを外す。そこから現れたのは。


「あ、あれは角……という事はあなたはドラゴニュートですか?」


 ローミオンがリディルに問いかける。というか、あの布袋。ファッションじゃなくて角を隠すためにつけてたのか……。


「その通りだ。炎竜が人の形をとった者、それがドラゴニュートだ」


「なるほど、古い文献で読んだ事がある。創造神アストレイアはこの世界を作った時に、四人の守護竜を地上に遣わしたらしい。そしてその守護竜はドラゴニュートに変身できたという。その守護竜があなたなのか?」


「そうだ。だが、その文献には誤りがある。守護竜は四人ではなく五人だ。ただ最後の一人はずっと寝ているからな……人が知らなくても無理はないのかもしれぬがな」


 え? 一人寝坊助さんがいるんですかね。


《あー、それはヴリトラちゃんですね。あの子いっつも眠そうにしてましたし》

《ヴリトラって始祖竜の? 一番すごそうなのがそんなんで大丈夫か、ドラゴンシスターズ》


 しかしまあ、この場はとりあえずリディルがドラゴニュートだという事が証明された事で収まりそうな雰囲気になってきたな。ローミオンも無駄に年は取っていないってことか。


「ほ、本当に炎竜?」

「うむ。お主トリスタンと言ったな? なんなら妾と一戦交えてみるか?」


「あ、いや。それは遠慮しとくよ」


 だよなー。あの幼女姿のリディルと戦うのはちょっと抵抗があるよね。もし戦って勝てたとしても女性陣から大顰蹙(ひんしゅく)買っちゃいますわ。


「でも、あの……リディルさん。さっきフェイトの事を『キョースケ』って呼んでたのはなんで?」


 あ、そう言えばそうだった。思わず普通に返事してしまったが、確かにディアナ達から見たら違和感あるよな。でも、前世の話までしてしまうと話がややこしくなる。ここは誤魔化す事にしよう。悪いがリディル合わせてくれ。


「俺がこの世で生を受けた時に母さんから名付けられた名前がフェイトで、天界ではというか、女神からは響介って名付けられてるんだ」


 俺はそう言いながらリディルに視線を向ける。今ので伝わったかな。


《私が裏で思念を送りましたから大丈夫ですよ》

《おお、フォローサンキュー》


「ああ、そうであったな。ここではフェイト殿とお呼びした方が良いか?」

「いや、慣れている方でいいよ」


「分かった、ではこれまで通り響介殿でいかせてもらう」

「ああ、これからもよろしく」


 少しおどけた調子で返す俺。うん。完璧だな。これで俺と炎竜リディルとの深い繋がりがあることが強調された。だから俺の言っていることの信憑性が増すだろう。多少は話し易くなったかな。


「さて、これで俺が女神の使徒だということは、少しは信じてもらえたのかな?」


 俺の問いかけに一同は同時にコクコクと頷く。うむ、よろしい。


「やっとここからが本題なんだけど、今から俺がこれまで裏でやっていたこと。そしてこの国……いや、この世界で起こっていることのすべてを話す。心して聞けよ」


 トリスタンがゴクリと生唾を飲み込んだ。妙な緊張感がローミオンの執務室を支配する。



次回の更新は10/16(月)です。

宜しくお願い致します。

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