二十一話 どうなってんだこれ?
それにしても、この世界にも日本の様な温泉宿があるとは思わなかったな。お湯に浸かるのは健康にいいし、気持ちいい。それは異世界でも同じってことか。この間の戦いの疲れが吹っ飛んだ感じだ。
これがトリスタンとローミオンと一緒じゃなければなお良かったのだが……。実はアリスンさんに混浴温泉のある宿のリサーチをお願いしたのだが、レティシアの冷たい視線に負けて、普通の男女に別れている温泉宿をチョイスする事になった。別にええやんか、ディアナとエレーナとはもう夫婦なんだから……一緒にお風呂入るくらいでそんなに怒んなくても……。
まあ、混浴風呂に入れなかった事については一万歩譲って良しとしよう。
《それでも、一万歩も譲るんですね……》
泊まる部屋についてはアリスンさんに頼んで、ディアナとエレーナと同じ部屋にしてもらったのだ。温泉宿で三人くんずほぐれつ……うん。これで手を打ってやろうと思ってたのだが、夕食をごちそうになった後、ディアナがこんなことを言ってきた。
「えっとね。今日の寝る時の部屋割なんだけど。カガリちゃんとカレナちゃんと一緒に泊まるのこれが初めてだから、その……女子全員で一緒の部屋でいいかな? さっき皆で盛り上がっちゃって……」
なん……だと……? お、俺のキャッキャウフフ三人でご宿泊プランが……音を立てて崩れていく。ちらっとアリスンさんの方を見ると、申し訳無さそうな目をこちらに向けている事に気付く。いや、これはアリスンさんは悪くないんだ。アリスンさんは人事を尽くした。ただ単に天が我を見放しただけなのだ。天……神……そう、全ては堕女神が悪い!
《なんでそこで私が出てくるんですかね?》
《あ、いやすまん。いつものノリでついな》
《もう、折角話し相手になってあげてるっていうのに……》
《いや、だから……すみません。感謝してます》
というわけで、今俺はだだっ広い部屋で一人で佇みながら、アストレイアと念話しているというわけだ。
《はぁ、響介さんは全く……仕方ない人ですねぇ》
なんだかんだで世話を焼いてくれるアストレイア。面倒見のいい妹キャラといった所だろうか。見た目の印象による影響が大きいんだけど。
《ぐ……ちょっと微妙なポジションですが……まあ、いいでしょう》
とりあえずこの話はここまでとして……俺はアストレイアに聞いておきたいことがあったのだ。
《なあ、アストレイア。デュークと戦った時の話だけど、なんで俺に神気があるんだ? お前はこの世界での神通力を失ってるんだろ? お前の加護のおかげって事はなさそうだが》
《うーん。やはりそこを聞いてきますか……。その事なんですけど、実は……私にも分からないんです》
《え? 創造神であるお前にも分からないってどういうことだ? お前が俺を転生させたんだろ?》
《そのはずなんですけど……なぜ響介さんが神気を持っているのか、その神気がどこから来ているのか。全く分からないんです》
《ええ……じゃあ、一体俺って何者なんだよ?》
《…………》
アストレイアが黙り込んでしまった。別に責めるつもりは無かったんだが……。
「これ、響介殿。あまり主殿を困らせるではないぞ」
「うおぅ!!」
誰も居ないはずの部屋で、急に幼女の声が聞こえたもんだからびっくりして変な声が出ちまった。俺はバッと音がするくらいの勢いで声のした方を向くと、そこには赤い髪を肩まで伸ばし、髪の両サイドをお団子にして布みたいなので包んでる。なんというかディアナをそのまま小さくしたような幼女が一人立っていた。服装はどことなく中華風だな。
「え、えっと……どちら様でしょう?」
「妾か? 妾はアストレイア様の眷族、リディルだ」
「え? リディルってあの炎竜のリディル?」
「いかにも。妾が炎竜だ」
こ、これがあの炎竜? 確かアストレイアが竜人になれるって言ってたけど、これがそうなのか。うーん。ドラゴンの面影まったくないんだけどな……。まあ、それはともかく、リディルは俺が木っ端微塵にしたせいで、回復のために長い眠りについてたんだったよな。俺のことどう思ってるのだろう。
「身体の方はもう良いのか? というか、俺がやりすぎたせいで……その、すまん」
「まだ八割といったところだが……まあ、それは良い。お主のお陰で邪神の支配から開放されたのだ。感謝こそすれ恨んでなどおらんよ」
《そうですよ。リディルちゃんを救ったのは響介さんなんですから》
「うーん。まあ、そこまで言うなら……。リディル、初めましてかな? よろしくな」
「ああ、響介殿。よろしく頼む」
俺はリディルと握手をする。ドラゴニュートって言うから手がゴツいのかと思ったら全然思ってたのと違う。普通の女の子と同じ、小さくて柔らかい手だった。
「ところで、さっきの話の続きだが、俺の神気の出処は誰も分からないんだな?」
「そうだな……妾にも分からぬ」
《私にも思い当たる節がまったくなくて……》
アストレイアの声が沈んでいる。俺をこの世界に転生させた張本人として、いろいろと責任を感じているのだろうか。
「まあ、俺が何者なのか、化物なのかは良く分からないが、俺は間違いなくお前の使徒だ。それとも使徒ってのは主である神との間に、加護による繋がりが無ければ成立しないものなのか? 俺とアストレイアの信頼関係ってその程度のものだったのか。俺はお前を家族同然に考えているけどな」
《響介さん……ありがとう……これからはお兄ちゃんって呼ぶね》
「って、お前マジで妹キャラでいくのか?」
《いやー、家族って言われたの今までの神人生で初めてだったので》
……まあ、いいか。
「それならこの件はもうこれで終わり! もう詮索は止め! 俺はアストレイアの使徒で、一緒に邪神をぶっ潰す! それだけで十分だろ?」
「その通りだ響介殿。共に力を合わせて邪神を討ち果たそうぞ」
俺たちは決意を新たにし、その絆をより深いものにするのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――翌朝――
うーん。一人で目覚める朝というのも久しぶりだな。こう部屋が広いと余計に寂しく感じる。アストレイアが話し相手になってくれるとはいえ、実体が無いし……やっぱ人肌が恋しいな。
ちなみに今リディルはいない。まだ体の方が本調子ではないらしく、家(地脈のところ?)に帰ってしまったのだ。
俺はため息をつき、反対方向に寝返りをうつとそこには……
「フェイト、おはよ」
「え? ディアナ。いつからそこに?」
「皆寝静まったあと、やっぱりフェイト一人じゃ寂しいかなって思って」
女神だ。本物の女神がここにいました。
《わ、私、ニセモノ!?》
「ありがとう、ディアナ」
俺は思わずディアナを抱きしめ、キスをした。しかし、残念ながら朝食の時間が迫ってたので、そこそこで切り上げ。俺とディアナはささっと着替えて部屋を後にし、食堂に向かった。
食堂に着くと。
「あ、フェイト様おはようございます」
と、レティシアが挨拶してきたので俺も「おはよう」と返す。どうやら他の面々も既に揃っているようだ。だが、様子がどうもおかしい。
「ん? なにかあったのか?」
「いや、それがなフェイト。この新聞読んでみろよ」
トリスタンから手渡された新聞に目を通してみるとそこに書かれていたのは……。
「はぁ? マイア女王誕生!? 王女じゃなくて女王?? マイアが王になったのか? アレックス王子は一体どうなったんだよ?」
……王城で一体何が起こってるんだ?
次話から6章に入ります。
更新は10/11(水)を予定しています。よろしくお願いします。。




