十八話 決着
まっっったく! トリスタンのやつ、手間かけさせやがって! 間に合ったから良かったものの。ほとんどギリギリだったじゃないか。
俺は【アクセラレート】を全開にして戦場を疾走。トリスタンの元に駆けつけた。その勢いついでに【フレイムランス】を16発ほど御見舞してやったが、多分これだけでは……
「フン、ようやく真打ち登場といったところか」
あ、やっぱ効いてませんよね。お隣の騎兵さんは倒せたみたいだけど、やつは馬すら傷ついてない。どうやらあの邪神武器は魔法攻撃を弾いてしまうみたいだな。まるで俺に誂えたかの様な武器だ。
「もしかして俺、歓迎されてる?」
このクヴァンもそうだが、使徒の野郎にもな。
「ああ、その通りだ。待ちわびたぞ。お前を倒し、俺の汚名を濯いでやる」
お前の名誉なんか知ったこっちゃねえよ。
「トリスタン。大丈夫だったか?」
「あ、あぁ。フェイトすまん。俺が勝手な行動をしたばかりに……」
「まあ、とりあえず無事だったから別にいい。でも次から気をつけるんだな。それから少し下がってろ。少しばかり派手にトンパチするからな」
「分かった。恩に着るよ」
さて、ヤツの邪神武器、魔剣ミストルティンの攻略法はさっきのデューク戦で分かった。とりあえず神気全開の【ブリューナク】を食らわせる。ただ【ブリューナク】は少しタメがいるので、ヤツに攻撃を加えながら隙を伺うことにしよう。よし!
クヴァンよ。俺のやらしーい、魔力でゴリ押し攻撃! とくと見よ!
《響介さん。ケルソの時もそうでしたけど、もっと華麗に戦えないんですか?》
《戦いにキレイも汚いもないって。勝っちまえばいいんだよ》
「とりあえず【バインド】」
「ぬお! なんだ? 木の根が……」
土属性中級の【バインド】は地中から木の根や蔦を伸ばして相手を捕縛する魔法だ。これで馬の足を絡める。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よだな。【グランダッシャー】!」
次は土属性上級【グランダッシャー】を放つ。これは前方の地表、岩盤をひっくり返してその土石、岩を敵にぶつける魔法だ。これで馬を降りざるを得なくなるだろう。クヴァンは自分に迫る大質量、大量の岩、土石に抗って剣を振るっていたが、為す術もなく飲み込まれてしまった。ふははは……騎士団長って偉ぶっててもこうなっちゃ形無しだなぁ。
「【ソニックブレード】も16発程おまけしますよ」
土魔法と風魔法のコラボレーション。まさに戦場はぐっちゃぐちゃだ。でも俺は【サーチ】があるのでヤツの位置は分かる。的は外さない。
「フェイトよぉ。助けてもらっておいてこう言うのもなんだが、もっとスマートに戦えないのか?」
なんだ、トリスタン。お前もか。
「わざわざ相手の得意な近接戦闘に合わせる必要ないだろ」
「そ、それはそうなんだけどさぁ」
なんか釈然としない表情を見せるトリスタン。あのな、戦いは勝たなきゃ意味が無いんだよ。
「くそ……おのれフェイトぉぉ!」
瓦礫の中から土埃まみれのクヴァンが姿を現し、こちらに突進してくる。でもあの様子では結構ダメージが通っているみたいだな。やはりあの邪気のオーラ。魔法攻撃を防ぐ事に特化してて、岩盤をぶちかますみたいな物理攻撃はそれほど防げないのか。
でも残念クヴァン。お前の突進する先にあるのは……。
「!? ぐはっ! これは」
窒素100%の空気の塊だ。突然酸素の供給を断たれたクヴァンは苦悶の表情を晒し、その動きが止まる。そしてとうとう地面に片膝をついた。これで気を失わないだけでも大したものだが……隙を見せたな。俺は【ブリューナク】のタメに入る……って、なに!?
「舐めるなぁ!」
クヴァンが地面を蹴りこちらに大きく跳躍して迫る。酸素無しでこんな動きを……これも邪気のなせる技なのか。やむなく俺は【ブリューナク】を中断。接近戦に備えるために【マインドアップ】をかける。身体強化もマシマシだ。
「くらえっ!」
クヴァンが剣撃を繰り出してくる。邪気で身体強化されているため、常人には捌ききれない程の鋭い攻撃なのだろうが、【マインドアップ】で思考加速した俺にとっては避けるのは容易い。クヴァンの体重移動、予備動作から剣筋が正確に予測できるからだ。
「ちょこまかと、小癪な。これならどうだ」
クヴァンは、ミストルティンで足元の地面を切り上げ、俺に向けて砂を巻き上げる。あ、こいつ。目潰しかよ。卑怯な!
《卑怯って、それを響介さんが言いますか……》
「殺った!」
クヴァンは返す剣で、俺の体を袈裟がけに切り裂く。
「な!? フェイト嘘だろ!」
「フハハハ、油断したなフェイト!」
俺がやられたと思って驚愕の表情を見せるトリスタンに、勝利を確信して喜色な笑みを浮かべるクヴァン。でもな。
「残念。それは俺の幻影だ」
そう、クヴァンが切ったのは光学迷彩魔法を応用して作った俺の幻影。俺はクヴァンの横に立ち、その横腹に手のひらを添えて最大出力の【エアハンマー】を放つ。超至近距離からの物理衝撃魔法。しかも神気たっぷり入ってます。これは邪気では防げまい。
メキッっと嫌な音を立てて【エアハンマー】の衝撃がクヴァンの横腹に食い込む。見た目は中国武術の発勁を決めた様な形だ。うん。これちょっとやってみたかった。
「ぐはぁぁ!!」
クヴァンは口から胃液を撒き散らしながら、もんどりうって前方に転がっていく。結構なダメージが入ったと思うんだけど。
「お、おのれ……」
魔剣ミストルティンを杖代わりに、立ち上がるクヴァン。敵ながら見上げた根性だな。でも、もう動けないだろう。俺は右手に邪気を祓うイメージで魔力を集中。神気を帯びた【ブリューナク】を形成しクヴァンに放つ。
「ぬおおお、こんなもの。我が魔剣ミストルティンで弾き返してやる!」
脇腹の痛みを気合でねじ伏せ、ミストルティンを構えるクヴァン。その威勢は買うが、残念ながらこの【ブリューナク】は特别製だ。
「な、なに……」
ミストルティンを易々と粉砕した【ブリューナク】は、そのままクヴァンの右肩から先を引きちぎり、後方の空に光の軌跡を残し消えていく。クヴァンはそのままゆっくりと後ろに倒れ、大地に大の字に横たわる。目の色も元の黒に戻り、彼を支配していた邪気も消え去ったようだ。
俺はすぐさまクヴァンに駆け寄り、【エクスヒール】をかける。クヴァンの失われた右腕がみるみるうちに元に戻っていく。
「き、貴様正気か? それとも俺に情けをかけるつもりか?」
「お前には聞きたいことがある。それだけだ。……お前、ダイオメドって知っているよな?」
俺の問いかけを聞いたクヴァンは訝しげな視線を向けてくる。
「それはお前達の方が知っているのではないか?」
「は? それはどういうことだ?」
「とぼけるな。ダイオメドは王族派に俺達を売った裏切り者だ」
「…………」
ダイオメドが裏切った? どういうことだ?
「……その様子。貴様、本当に知らないのか?」
「ああ、俺はダイオメドとの接点はまったくない。王族派でもヤツの姿どころか影さえ無かった」
クヴァンは上半身を起こし、座り込む。傷は完全に治ったようだ。
「今回の戦、ダイオメドの指示通り動いたのだが、その全てが裏目に出てご覧の有様というわけだ。だからヤツが裏で王族派と繋がっていたと思ったのだが……どうやらこの王都の混乱。裏で何かが蠢いているようだな」
「それはその通りかもしれない。王都の混乱は邪神が引き起こしたもので、ダイオメドは恐らく邪神の使徒だろう。そしてお前のそのミストルティンも邪神からもたらされたものだ。……つまり、お前は邪神の邪気に支配され操られていたわけだな」
「邪神だと? 世迷い言を」
「まあ、信じてもらう必要はないさ。とにかくそのダイオメドがどこにいるか知らないか?」
「ダイオメドは戦の最中、姿を消した。今はどこにいるのか誰も知らん」
「ああー、マジかよ。また手がかり無しか」
俺が天を仰いでいると、遠方、王族派の本隊の方向から、雄叫びと地響きが聞こえてくる。
「む、あれは……」
「あれは王族派の主力部隊だ。タイミングを待って突撃するように指示しておいた。これでもう貴族派は終わりだな」
いくらジークフリートの指揮がヘッポコだったとしても、指揮系統が既に崩壊した潰走寸前の貴族派軍に遅れはとらないだろう。この突撃のタイミングを連絡するために通信機を持たせたローミオンを本陣に待機させていたのだ。
「どうやらそのようだな。貴族派にこの状況を覆す余力はないだろう。完敗だ。素直に負けを認めよう」
完全に観念した様な表情を見せるクヴァン。
「それは、まあいい。それよりもダイオメドについて何か知らないか?」
「ダイオメドについては謎が多い。いつから貴族派の陣営にいたのか、それすらも曖昧だ。俺もミストルティンを受け取った以上のことは知らん」
うーん。ダイオメドは人の記憶を操作する様な特殊な能力でも持っているのだろうか……。
「そうか……ならもういい」
俺は踵を返し、トリスタンの元に向かう。
「おい、フェイト。俺をこのままにしておくのか?」
「もうお前には戦う意志はないんだろ? このまま逃げるか、自害するか、それとも王族派の捕虜となるか……お前の好きにしろ」
「俺に生き恥をさらせということか?」
「いや、そんなんじゃない。戦う意志のない者にとどめを刺すような趣味は俺にはない。ただ、それだけだ」
俺は足を止め、もう一度クヴァンに向き直る。
「……なあ、クヴァン。お前も当事者だ。この国で……いや、この世界の裏で何が起こっているのか。自分の目で見届けたいとは思わないか? お前を操り、お前のすべてを奪った者の正体を見極めたくはないか?」
「……それはどういう意味だ?」
「好きに受け取ってもらって結構だ。俺はもう行くぞ」
忌々しげな目で俺を睨むクヴァン。俺はそんなクヴァンを一瞥し、トリスタンのもとに歩いて行く。
「おい、フェイト。いいのかあれ」
「ああ、クヴァンはもう大丈夫だろう」
「お前がそう言うんなら、まあいいか」
「後はジークフリートのヤツに任せて、俺達はさっさと皆と合流するぞ」
「わ、分かったちょっと待てよ。フェイト」
……結局使徒は出てこなかったか。やつの目的は一体なんだったのか……。
《謎ですね。貴族派に勝たせるように動くかと思ったらそうでも無かったみたいですし》
《クヴァンの言っている事が正しければ、俺達が有利になるように図っていた様だな》
《うーん。ますます意味が分かりません》
《考えたって分からねー、今日はとりあえず休ませてもらうわ》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、フェイト達がいる戦場から遠く離れた丘の上では。
「ククク……クヴァンとデュークはよく働いてくれた。お陰でフェイトの能力、戦い方はほぼ把握できたな。確かにあの神気は厄介だが、逆に言えばそれさえ押さえてしまえば我の敵ではないという事になる。まあ、今ばかりは勝利に浮かれているがいい、フェイトと女神アストレイアよ」
不気味な笑みを浮かべながら戦場を眺めるダイオメド……いや使徒ダンテの姿があった。
クヴァン殺せませんでした。当初はここでデュークと共に戦死……の予定だったのですが。
妙に愛着が湧いちゃいまして……今後クヴァンが物語にどう絡んでくるのか、作者にも分かりません。まだ決めてないので……。
次回の更新は10月4日を予定しています。プロットを練り直し、可能な限りクオリティを引き上げたいと思いますのでよろしくお願いします。




