三話 宣戦布告
俺が【ファイヤーストーム】を解くと、そこには真っ黒に焦げた巨大な塊が存在していた。ブスブスと煙を上げるこの物体は生き物にも見えなくもない。なんか巨大な魔物が丸まって蹲っている感じだ。
「あれ? なんだこれ? お? こ、こいつ……動くぞ?」
急に蹲っていた魔物が立ち上がった。
「グオオオオォォォ! マサカ、オレノヘイガ、コンナガキニイッシュンデ……」
真っ黒に焦げているので良く分からないが、体は人間っぽくて頭が牛の魔物のようだ。高さは五メートルくらい。ああ、これミノタウロスだ。
「な?! あれはミノタウロス。Sランクの魔物が一体なぜここに?」
驚くオスカーさん。さっきから驚きっぱなしですね。
それにしてもSランクか、ミノさん結構お強いんですね。ちなみに魔物のランクはEからSSSまであるらしいのだが、Sランクは単独で都市を制圧できる天災級の強力な魔物を指す。SSランクは単体で国を制圧できるレベル。SSSは世界の危機レベルだ。
「ふーん。どうやらこのミノさんが魔物を統率していたみたいだな」
Sランクほどの上位の魔物ならあの数の魔物も統率できるのかもしれない。魔物同士で会話が成立しているのかどうかは分からないが。
「フン、ヨクキケ、ニンゲンドモ。ワレラハマゾクノオウヲエタ」
魔族の王? 魔王かな? あ、ちなみに上位の魔物は自分達の事を魔族って呼んでいるらしい。
というかこれ、絶対邪神絡みだろ?
《その可能性は高いですね。その魔族の王が邪神本人ではないと思いますが》
《邪神の使徒かなにかかな?》
《かもしれません。もっとも、本当の魔王はここにいますけどね?》
《だから、それもうやめろって》
「魔族の王だと? どういうことだ?」
俺の代わりにオスカーさんが聞いてくれた。
「オウガ、キサマラニンゲンヲ、ホロボスダロウ。キョウフシロ、ニンゲンドモ」
まあ、なんだ。セリフはアレなんだけど、真っ黒焦げでブスブスさせながらそんなこと言われてもあまり怖くないな。ものすごくシュールだ。その生命力の高さは認めるけども。
《響介さんが空気読まずにぶちかますからですよ》
《さすがにそこまで読めねーよ》
「つまり、お前らの王が魔物を率いて人間の国に攻めてくるということか?」
「ソウダ、ニンゲンハモウオワリダ。ケルソサマのマエデハゴミクズトオナジ」
「これは宣戦布告ってやつね? ケルソってのが王の名前かしら」
フェリシアさんが首を傾げながらそう答える。さて、もうそろそろいいかな……。
「言いたいことはそれだけか?」
俺はそう言いながら右手に魔力を集中させる。するとバチバチと電気的な火花が散る。ちなみにこの世界には雷属性の魔法はない。でも雷属性の魔法って普通ないとだめでしょう。だってカッコイイし、RPGの定番だし。というわけで電子を魔力で操作してみたら余裕で作れてしまいましたよ雷属性魔法。
あともうちょい工夫したらレールガンもできるかもしれへんね。
《それって、御坂み…《シャラップ!》》
気を取り直して、俺が今練っている魔法は、雷の神槍【ブリューナク】。位階は正直どうでもいいんだけど超級以上になるだろうか。詠唱、魔法陣は必要ないんだが溜めに少し時間が必要なので連発はできない。
ちなみに『神槍』の言葉を使う許可はアストレイアから取った。一応この世界の創造神だし。
《一応は余計ですよ……》
俺は右腕を軽く上げると、中空に二メートルくらいの長さの光り輝く雷の槍が出現する。
「くらえ! 神槍【ブリューナク】」
俺が腕を振り下ろすと、光の軌跡がミノタウロスの体のど真ん中を貫く。光の槍はミノタウロスを貫いた後、空に消えた。まさに一瞬。この神速の槍を目で見て回避するのは不可能だろう。後には体の中心に大穴を空け、バチバチとスパークしているミノタウロスが残されている。
それにしても恐ろしい貫通力だな。念のため角度をつけて空に向けて放ったけど、地面に着弾させたらどうなるか分からない。
「グォ。キサマハ……イッタイ……」
間を置いて、ゆっくりと倒れるミノタウロス。ズズーンと地響きが広がる。
《……やったか?》
《おいコラ、妙なフラグ立てんな》
……しばらく様子を見てもミノタウロスは動かない。死んだか? 死んだよね?
「はぁ……Sランクの魔物も瞬殺とはね……。フェイトくんあなたは一体何者なの? さっきの魔法も見たことないんだけど?」
そりゃーまあ、オリジナルですから。
「ちょいちょいっとアレンジしたらできちゃいました」
「できちゃいましたって……はぁ、もういいわ……」
頭を押さえて心底呆れた表情を見せるフェリシアさん。
「とりあえずこれで危機は去ったか」
「なんか魔族の王とか、気になることを言ってましたがね。旦那」
魔族の王か、実力はどれほどだろうか。Sランクのミノさん基準で考えても……んーよう分からんな。とりあえず、死にたくはないから修行は怠らないようにしよう。あと、経験を積まなきゃな。冒険者になって魔物を狩るのもいいかもしれない。
「俺たちも一旦レーニアに引き揚げて領主にこのことを報告しよう。場合によっては国に協力を要請せねばなるまい」
「はー、私達ののんびり隠居スローライフもこれで終わりね。でも、面白そうなおもちゃを見つけたから退屈はしないかもだけど」
と言いながら、フェリシアさんは俺にウインクしてくる。
え? 俺がフェリシアさんのおもちゃに? ……うん。全然アリだな。どんなことして遊んでくれるんだろうか? オラわくわくしてきたぞ。
《……さすがの私もそれはちょっと引きますよ?》
《いや、冗談だから》
一方で、そんなフェリシアさんの発言に「え?」っと言いながら戸惑うディアナ。そのディアナの様子に気付き苦笑するフェリシアさん。
「大丈夫よ。あなたのフェイトくんを取ったりなんかしないから」
「え? 私のってそんな……」
頬を染めてモジモジするディアナ。
「あくまで研究対象としてよ♡」
ウインクして人差し指を立て口の前に持ってくるポーズをするフェリシアさん。いや、だからそれ反則ですって。結構あざといなこの人。
「……ちょっと、俺をモノみたいに扱わないでくれますかねぇ?」
ジト目で二人を睨む俺。
「ぷっ……、あははは……」
こらえきれず吹き出すディアナ。危機から開放された安心感も手伝って皆でしばらく笑い合うのだった。
《おもちゃ=実験台なんですね。分かります。でもそんな扱いにも興奮や喜びを覚えるのが響介さんなんですよね》
《おいコラ、人を変態者扱いすんな!》
まあ、気になることはあるが、とりあえず全員無事で良かったかな。
ボスキャラ的なやつも瞬殺。
フェイトは今後も敵を瞬殺していく予定です。…別に戦闘描写が面倒くさいからではありませんので。




