十七話 クヴァンの意地
ーークヴァン視点ーー
「クヴァンよこれはどういうことなのだ。伝令の報告のほとんどが我軍の将が討たれたとの知らせばかり。それにあの光は何だ? 状況を説明せよ!」
怒りに震えるシュヴェールト公爵が怒鳴り散らす。
「は、これはすべてフェイトの策略によるものです。我が騎士団の初手の突撃はヤツの罠によって止められ。あの光はフェイトの魔法兵器によるものです。あの光によって我軍の士気は大いに乱れ、さらに霧に乗じて潜んでいた伏兵により両翼の軍が完全に沈黙してしまいました。将が討たれた報告は、その伏兵の仕業であると思われます」
「クヴァン。貴様はそれだけの失態。将兵の損失を出しておきながら、こうしておめおめと本陣に逃げ帰ってきたというのか?」
「この兵の混乱。もはやこのまま戦っても勝ち目が無いと判断しました。しかし、まだ兵力ではこちらが上です。ここは一旦退却し、体勢を整えればまだ勝算はあります。ヤツの、フェイトの手の内はもう分かりました。次は必ず」
シュヴェールト公爵の顔は、もう倒れるのではないかと心配になるくらいに赤く紅潮する。
「バカな! 引けるわけが無いだろう。この陣容、この兵力差で兵を引いたとあってはわしの、貴族派の権威は失墜する」
「しかし、勝てなければ意味がありません!」
現場、戦場を知らない頭でっかちの古狸が。このまま戦ってもいたずらに兵を消耗するだけだとなぜ分からん。
「まだ、口答えするか! この役立たずが! 貴様の親父も財力があるため多少目をかけてやっていたが、親子揃ってこのような失態を晒すとはな。この戦いが終わった後の処分は覚悟しておくことだな」
……この男。この期に及んでまだ勝つつもりなのか? それとも何か勝算でもあるのか。
「そうだ、ダイオメド殿。何か策は無いのか? ん? ダイオメド殿はどこに行かれた?」
そのダイオメドこそ怪しいのだ。やつは王族派の中でフェイトは動くことが出来ないと言っていた。だが実際はどうだ? 動けないどころか王族派はフェイトを前面に出してきた。今回はダイオメドの策がすべて裏目に出ている。というよりも、ダイオメドが王族派と通じていると考える方が自然だろう。
「ダ、ダイオメド殿は、先程少し席を外すと言って陣を出たきり姿を見ておりません」
……やはりな。この戦の敗因はダイオメドだ。我らはヤツの言を信用しすぎたのだ。
「何? ダイオメド殿がいない? そんな……まさか、そういうことなのか? だ、誰か……ダイオメドを見たものはおらぬかぁ!!」
少々気付くのが遅かったようだな公爵。……まあ、それは俺も同じか。もう貴族派はおろか俺、の家も終わりかもしれん。
と、ここで一人の伝令が俺と公爵の側に駆けてくる。
「お知らせします! この本陣に切り込む敵将の姿があります。その強さ尋常ではなく、雑兵では止められません。公爵様! 指示をお願い致します!」
敵がこの本陣まで? もう俺は地位も名誉も、家も失った。俺に残されれているのは、この魔剣ミストルティンと、この狂わんばかりに溢れる己の闘争心のみ。ダイオメドめ。一体どこまでシナリオを描いているのか皆目見当がつかないが、いっそのことヤツの手のひらの上で最期まで踊ってやるのもまた一興か。
「おい、そこの伝令。俺が出る。案内しろ」
「ク、クヴァン騎士団長殿。わ、分かりました。こちらです」
俺はちらりと公爵を見る。公爵はダイオメドの裏切りに絶望し、顔を青くし何やらぶつぶつと呟いている。あれはもうダメだな。ダニエル王子はというと、側近に何やら慌ただしく指示を出している。逃げる算段でもしているのだろうか? ふん。勝手にしろ。最もあの用意周到なフェイトが、簡単に逃してくれるとは思えないがな。
「クヴァン殿。お待ち下さい。私達もお供します」
「む、貴様らは。ノドスとフランクか」
ノドスとフランクの二人は騎士団の副長を務めている。俺が騎士団長に就いて以来、幾多の戦を共に戦い抜いた、言わば俺の両腕とも言える男たちだ。
「ふっ。貴様らも物好きだな。勝手にしろ」
「分かりました。勝手にさせて頂きます」
俺は馬を反転させ、迫り来る敵将に向き直る。
「エレクトラ王国騎士団長クヴァン! これより死地に赴く! 者ども俺に続けぇ!!」
「「おお!」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーートリスタン視点ーー
おっしゃぁ! 弱い弱い。貴族派の軍なんか相手にならないぜ。これなら敵本陣を落すのも楽勝だ。これで俺もフェイトみたいにガルディモアの英雄とか言われるのかな?
『おい、トリスタン! 一人で出すぎだ! 一旦引いて皆と合流しろ』
「なんだフェイト? 今いいところなのに水を差しやがって。もう敵の本陣は目の前だ。あれを落とせばこの戦は終わるんだぜ? ここで引くのは勿体無いって」
『待て、そこにいるクヴァンはお前の手には負えない、というか相性が悪すぎる。俺が行くまで無茶はするな!』
なんだフェイトのやつ。俺に手柄を奪われるのが嫌なのか? 俺はこの戦で第一戦功を上げてカガリさんに認められる男にならなくちゃいけないんだよ!
『ちっ。トリスタンのヤツ、止まる気配が無いな。うーん、ディアナはちょっと遠いし……エレーナ、弓で援護してくれないか? あとアリスンさん。別件なんだけど第二王子が逃げた。そっちを押さえてくれないか?』
『分かりましたフェイト様。ドミニク達を向かわせます』
『ん、了解フェイト。適当に狙う』
『私もゲンドウさんの手当が終わったら行くわ』
『すまんディアナ。エレーナとアリスさんもよろしく』
うーん。なんか俺を無視して勝手に話が進んでるのは気に入らないな。フェイトが言ってたクヴァンって、前の方からすごい勢いでやってきてるあの騎兵だろ? だがなフェイト、今の俺は誰にも負ける気がしない! やってやる。やってやるぜ!
「オラァ! 俺はトリスタン。いざ尋常に勝負!」
俺はクヴァンに向けてグラディウスを振るう。魔力で身体能力を最大限に強化した一撃、馬もろとも両断してやるぜ! と思ったのだが、クヴァンはその手に持っていた大剣で易々と俺の槍をいなしやがった。
「く……この!」
クヴァンの後ろに続いてきた騎兵二人の攻撃をなんとか防ぐ。ふぅ、危なかったぜ。
「貴様、フェイトの配下の者か?」
「俺はフェイトと同じパーティメンバーのトリスタンだ」
「ふん。まあいい。フェイトがくるまでの余興だ。せいぜい楽しませてくれ」
く、こいつ舐めやがって……。でも、さっきの剣の一撃、とても人間の力とは思えなかった。それにあの目。真っ赤だ。あいつもしかして魔物? フェイトが俺じゃ勝てないって言ってたのはこの事か?
「くそっ。これでも喰らえ」
俺は土属性魔法【ストーンミサイル】を無詠唱で3発発動、それを牽制に使い再度クヴァンに斬りかかる。が、クヴァンは【ストーンミサイル】を大剣ですべて叩き落としてしまう。くそっ、俺の魔法じゃ牽制にもならないか。ええい、小細工は抜きだ、身体強化を最大にして打ち合ってやる。
ガキンッ! ガツンッ!
金属音が激しくぶつかり音が戦場にこだまする。
こいつの攻撃……重すぎる。身体強化をフルにしても馬から引きずり下ろす事も出来ないなんて……。それに取り巻きの二人の攻撃も厄介だ。絶妙のタイミングで邪魔しやがって……イライラするぜ。
「ふん、とんだ期待はずれだな」
「くそ、だまれ!」
あ! しまった。焦ってヤツの攻撃を受ける時にバランスを崩してしまった。これでは後ろの二人の攻撃を躱しきれないかもしれない。一応【プロテクション】はかけているけど、多少のダメージは覚悟するか……。
「!? スキあり、もらった! ぐぎゃっ!」
「な!? フランク!」
え? 今何が起こった? 俺を攻撃しようとしたフランクってヤツの頭が吹っ飛んだぞ?
『トリスタン、私の援護に感謝するといい』
「え? 今のエレーナか?」
『そそ。これで貸し一つ』
「う……すまん」
げ、エレーナのやつに借りを作っちまったぞ。というか、この状況はヤバイ。おとなしくフェイトの言うことを聞いておくんだった。
「今のフランクを討った攻撃……多くの味方の将兵の命を奪ったのはこれか。どうやったのかは分からんが、フェイトめ忌々しいヤツだ」
う、どうする。こいつにはもうどんな攻撃も通用しそうにない……。万事休すか。
『トリスタン。屈んで右方向に飛べ!』
!? これはフェイトの声。俺は反射的に右方向に飛んだ。その瞬間、十数本の青い炎の槍が飛来し、クヴァンともう一人の騎兵に直撃する。
「ぐわあああぁぁ!」
騎兵の断末魔の叫びが聞こえる。これは、この青い【フレイムランス】はもしかして、フェイトか? あいつ来てくれたのか。
次回は クヴァンVSフェイト この戦いのクライマックスとなります。




