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十二話 ガルティモアの戦い(1/3)

 うーん。もう朝か。昨夜は闇に紛れて罠の設置とかしていたので、あんまり寝た気がしない。


 それに、俺はここまで行軍の疲れを癒やすために、ディアナたん成分を補給するつもりでいた。しかし、ここは戦場だからとか、風紀がどうのこうの言われて、結局女性陣は別の区画で寝ることになってしまった。なんてこったい。


 だから、今朝の俺はすごく機嫌が悪い。何が悲しくてトリスタンとローミオンと同じ天幕で寝なければならないのか……。なんかすげーイラつく。今日の戦いは多少加減を間違ってしまうかも知れんが許せ。仕方がないんだ。


《響介さんのディアナちゃん依存も大概ですね……そんな個人的な腹いせで蹂躙されちゃう相手がちょっと可哀想になってきましたよ》

《そうは言うけどな。俺にとっては死活問題なんだよ》


 ディアナたん成分欠乏症。この問題を解決するためにも、この戦は必ず今日で決着をつけなければならない!


《なんとも締まらない決戦の幕開けですねぇ……。この戦いもガルティモアの戦いとか名前つけられて、後世の歴史書に載るかもしれないのにね》

《さあな。歴史に残る偉人も案外しょーもない事考えてたかもよ?》


 それはさておき、そろそろトリスタン達を起こさないとな。


「おら、トリスタン。そろそろ起きろ」


 俺はトリスタンに声をかけながら、うつ伏せに寝ているトリスタンにまたがりサソリ固めをかける。


「う~ん。いででで……カガリさんの愛情表現って結構過激だなぁ……」


 ああ、こいつなんて締まりのない顔をしてんだか……、それに夢に出るほどカガリの事を考えてるのかこいつは。そんなトリスタンの事を俺はちゃんと考えて、カガリはお前の部隊に入れてやったんだからな感謝しろよ。この戦でいいとこ見せればチャンスはあるかもな。少年頑張れ。


 というか、さっさと起きないと完全に極めるぞ?


「ぐ……いたたた、カ、ガリさんそれは……ちょっと、っていてぇ! はっ、お前フェイト! 何やってんだ。離せ!」


 トリスタンが暴れだしたので、俺はサソリ固めを解く。


「お、やっと起きたかトリスタン」

「足が、腰が……うう……最悪の目覚めだぜ。なんか途中まではいい夢見てたような気がするんだが……」


「ああ、それは気のせいだトリスタン。お前だいぶうなされてたぞ?」

「そうだったのか? そう言われるとなんかそうだったような気がするぞ」


《響介さんのトリスタン弄りも大概ですねぇ……》

《これはもはやライフワークだな》

《トリスタンも哀れですね》


 考え込んでいるトリスタンは置いといて、ローミオンも叩き起こした。


「フェイト君、もう少し優しく起こしてくれたまえ」

「いや、なかなか起きないもので、つい」


「それは、まあいい。ところで準備は整ったのかい?」

「それはバッチリです。魔法を組み込んだ罠とか、相手は面食らうと思いますよ」


「そうか、貴族派の敗因は君を敵に回した事だろうな」

「そうですね。そう思わせてやりますよ」


 さて、女性陣達はもう起きただろうか?


「あ、もしもし。皆起きてるか?」

『うん。おはようフェイト』

『フェイト様おはようございます。敵陣にまだ動きはありませんが、出陣の準備はしているものと思います。一応報告しておきます』


「アリスンさんありがとう。エレーナとカレナリエンは?」

『ん。起きてる』

『私も起きてるよ』


「そうか、じゃあ早速準備して全員昨日説明した持ち場に移動。俺が魔法で霧を出しておくからそれに隠れて待機な」

『霧……か。自然現象も思いのままとは、戦でフェイト君を敵に回したら勝ち目が無いな』


 まあ、そうなるのかもな。三国志の孔明みたいに、祈祷で風向きを変えるみたいな演出をしたら神扱いされるかもしれない。


「すべての自然現象を思いのままってわけじゃないんですけどね」


 さて、早速霧を作らないとな。俺は平原の空気中の水蒸気を、戦闘が予想される領域に集める。そして空気が水蒸気を含むことができる限界量である、飽和水蒸気量に達した段階で、空気の温度を少し下げた。空気は気温が下がると飽和水蒸気量が減る。こうなると水蒸気は気体として空気中に存在できなくなるので、微細な水滴、つまり霧となって中空を漂うことになる。


「よし、うまく戦場と敵陣を霧に包めたな。みんなよろしく頼む」

『『『『『了解!』』』』』


 俺は俺の仕事、アレックス王子に出陣の報告をするために味方の本陣に赴く。


「フェイト、入ります」

「ああ、ご苦労。状況はどうだ?」


「先程俺の魔法で敵陣と戦場をすっぽりと霧で包んでおきました。この霧に紛れて我々の仲間を布陣させます。敵もそろそろ動き出す頃ではないでしょうか?」

「な、なるほど……戦場に隠れられるような障害物が無ければ作ってしまえということか、でもそれでは我々も相手の状況が掴めないのではないか?」


「それは問題ありません。私には別の目がありますので」


 目というか【サーチ】魔法だけど。


「そ、そうか。フェイト殿が味方で良かった。ひとまず先陣は任せる。大いに暴れて、貴族派の勢いを挫いてくれ」

「は、畏まりました」


 俺は仰々しく礼をして、その場を離れる。ジークフリートの方をちらっと見てみたが、ヤツは俺をじっと睨んだままで何も言ってこなかった。昨日のことがそれなりに堪えたのかもしれないが、あの目にはまだ、どうせ勝てるわけがないという蔑みの色が見える。


 まあ、どうせお前は何もできないんだ。そこで指を咥えて見ているんだな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


--クヴァン視点--


「くそっ! 全く前が見えないじゃないか。この時期に霧など……一体どうなっているんだ」


 親父が突如戦場に発生した霧に苛立ちを露わにしている。正直鬱陶しいが、確かに親父の言う通りこの時期、このガルティモアでこれほど濃い霧が発生した事など今まで聞いたことがない。明らかにおかしい。何か嫌な予感がする。


「全軍! 周りをよく見て、隊列を保って行軍しろ! 霧で自分の位置を見失うぞ」


 確かにこの霧は厄介だが、条件は向こうも同じはずだ。霧に乗じて奇襲するなど、そんな器用な作戦を王族派の連中ができるとは思えない。条件が五分なら数に勝るこちらの勝利は揺るがないだろう。


 ……唯一の懸念はあのフェイトという男の存在か。だが、あの男は王族派の中では新参者。密偵の話では、フェイトと王族派……とくにジークフリートとは犬猿の仲の様だ。フェイトは王族派の軍の中で埋もれて、力を発揮できないまま終わるだろう。


 ふん……どうやら今回もダイオメドの占いは当たりそうだ。


 となると、王族派が慌ててフェイトを前面に立たせる前に、混戦に持ち込まなければならないな。混戦に持ち込めば、フェイトの極大魔法は封印される。


 開戦直後の突撃。これでこの戦は決まりだな。


「全軍停止! これより開戦の時刻と共に突撃をかける! 皆の者、霧の向こうにいる王族派共に食らいつくのだ!」


 おお! と気合の入った掛け声がこだまする。兵の疲労もなし、士気も上々。これで負ける様なら俺は騎士団長を降りる。


「クヴァン様。本陣から伝令です」

「来たか。いよいよ開戦だな」


 未だ霧は濃いままだが、そんなものは関係ない。


「時は来た! この霧の向こうで震える王族派共を蹴散らし、その血で平原を赤に染めるのだ! 全軍突撃!」


「ウオオォォォ!!」


 俺の号令に応えるように、腹にズシリと響くような雄叫びをあげ、騎士団全軍が津波のように霧の向こうに押し寄せていく。俺が鍛え上げた精鋭部隊による突撃だ。この勢いを止められるものなどいるはずがない。


 さあ、王族派の兵士共。断末魔の叫びをあげるがいい!


 ……ん? どうも様子がおかしい。霧が濃くて状況が良く分からないが、突撃に演習の時のような勢いが無い気がする。それに前方から聞こえる声は我が兵のものばかりだ。


「ク、クヴァン様」

「なんだ? 何があった?」


 前方からやってきた伝令が俺に報告する。


「そ、それが。我が部隊の突撃が敵に止められました。部隊は混乱を極めており、副官のノドス様では抑えきれません。前線にて指揮をお願いします」

「何!? く……分かった。案内しろ」

「はっ!」


 何ということだ。我らの突撃が止められるとは。この霧の向こうに一体何があるというのだ?



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