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十一話 軍議(2/2)

「ローミオン殿。その策とは一体なんなのだ?」


「なに、簡単な話だ。そこにいるフェイト君を作戦の中心に組み込む事、それだけだ」

「な!? ふざけるな! そんな平民出の下級貴族の手など借りる必要など無い!」


「では、このまま戦って勝てますか? この不利な状況をどうやって盛り返すのか、貴殿のお考えを伺いたい」

「ぐ……それは、私の華麗な指揮で兵が奮い立てば必ず勝てる」


「そんな抽象的なものは策とは言いませんよ」

「で、では。お前はどうなのだ? お前も具体的な策について全く言及がないぞ」


「それについてはだな……このフェイト君がレッドドラゴンを討伐し、三万にも上る魔物の群れを一人で殲滅した。それは君も知っているだろう」

「あ、ああ。だがそれは所詮は噂に過ぎない。そんな話、信じられるわけがないだろう」


「いや、これは単なる噂などではない。本当のことだ。私がレーニアのノイマン辺境伯に確認をとっている。私の宮廷魔術師とギルドマスターの役職を賭けてもいい。彼の実力は本物だ。この戦いも彼一人で事が足りるだろうな」


 と言いながら俺に視線を送るローミオン。


「まあ、ローミオンが言っているように、俺の極大魔法を使えば、貴族派の軍を殲滅することは可能ですよ。ですが、魔物相手ならいざ知らず、人相手にそれをやってしまうと後々に遺恨を残しかねません。俺だって大勢の人に恨まれるのは嫌ですし」


 ただでさえ王都では悪い噂が蔓延しているってのに……。三万の兵士を殲滅してしまったら悪魔、もしくは魔王扱いされるかもしれん。


「ですが、そんな極大魔法に頼らなくとも、私が人相手に遅れを取ることはありませんよっと」


 俺は主にジークフリートへの脅しの為に魔力を開放。自分の目の前に【エクスプロージョン】の火球を生成し、中空に固定する。その火球はまるで小型の太陽のように光り輝き、天幕の中をジリジリと焼いた。


 それを見たジークフリートは腰を抜かし、その場に尻餅をつく。まあ、脅しとしてはこのくらいで十分かな。俺は【エクスプロージョン】の火球を消し、魔力を霧散させる。


「見ての通り、フェイト君は魔力操作のエキスパートだ。宮廷魔術師の私でさえも彼の実力の足元にも及ばない。更にフェイト君のパーティメンバーの、ディアナ君、トリスタン君、エレーナ君はフェイト君には及ばないものの、Sランク冒険者以上の実力を持っている」


 ローミオンはそこで一旦言葉を区切った後、その場にいたマイア王女に目を向ける。


「マイア王女、あなたがレーニアから連れてきたフェイト君は、まさに本物の竜だ。まさかその竜に首輪をつけ、檻に閉じ込めておくような愚かな事はするまいな? それで戦争に負けるなどしたら、後世に笑い話として語り継がれる事になるかもしれませんぞ」


 今度はアレックス王子に視線を向けながら話すローミオン。そのアレックス王子はテーブルに肘をついた体勢でこちらをじっと見ている。もうひと押し必要か。


「別に俺にすべてを預けろと言うつもりは毛頭ありません。そこで、提案なのですが。私を先鋒として使っては頂けませんか? 先鋒の私が貴族派と単独で戦い、もし私が倒れた場合、弱った貴族派を叩くなり好きにしていただいて構いません。こちらの体勢を整える時間も稼げますし、決して悪い話ではないと思いますが?」


 んー、これで十分餌は撒けたと思うんだけどな。食いついてくれるかな?


「……分かった。ローミオン殿とフェイト殿の提案を受け入れよう」


 そのアレックス王子の返答に、これまで尻もちをついて呆けていたジークフリートが立ち上がり物凄い剣幕でまくし立てる。


「王子! こんな平民に任せるなど正気とは思えません。王侯貴族としての誇りはどこに捨ててしまわれたのですか!」


「だまれジークフリート! その貴族の誇りやプライドなどで戦争に勝てれば世話は無い! 私はこの戦い、なんとしても勝たなければならないのだ。そんな些細なプライドに拘っている余裕はない!」


「し、しかし……王子殿下」

「ジークフリートよ。この軍の意思決定権は誰にある?」


「そ、それは……王子殿下です」

「その私がそうすると決めたのだ。そこにお前が異論を挟む余地はあるのか? これ以上何か言うのであればお前を総指揮の任から解く」


 はぁ、王子も完全には腐っていなかったということか。まあ、この戦いに敗れたら王子も命が無いだろうからな。ジークフリートの顔を立てている余裕はないと言ったところか。とりあえず、土壇場で提案し、王子に決断を迫る俺とローミオンの企みは成ったな。


「わ、分かりました……」


 そう言いながら天幕から出ていこうとするジークフリート。


「く、いい気になるなフェイト。兵は一兵たりとも貸さんからな」

「いや、初めから借りるつもりなどなかったから安心して欲しいんだけど」


 さっさと出ていけばいいのに……お約束のごとく俺に突っかかってくる。ホントに分かり易い奴だな。


「は? 兵はいらんだと? お前それで三万の貴族派に勝つつもりか?」

「ああ、俺の仲間と獣人族の兵500人がいるから、それで問題ない」


「はっ。後で泣いて詫ても助けてはやらんぞ」

「負けるつもりなどありませんからご心配なく」


 俺の返事に半分ニヤけながら天幕を後にするジークフリート。あいつの今考えている事を言い当ててやろうか? 多分、俺達が敗退し、弱った貴族派を漁夫の利で叩いて、キャー、ジークフリート様、あの平民より頼りになりますわ。抱いて! みたいな感じで王女とゴールインすることを想像しているんだろう。


「……フェイト殿、すまんな。ジークフリートは家の期待を背負ってこの場にいるため、どうしても功名心が先に立ってしまうのだ。許してくれとは言わないが、我らにとってそなただけが頼りだ。よろしく頼む」


「分かりました。誰でも自分の立場、考えがある事は承知しています。明日の戦についてはおまかせ下さい。私にもなすべきこと、目的の為に動いておりますので」


 俺はそう言って天幕から出た。まあ、ジークフリートのやつも、家に縛られた可哀想な男なのかもしれないな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「はぁ。なんか疲れた……。で、皆聞いていたな? とりあえずそういうことになったからよろしく頼む」

『うん。聞こえてたわよフェイト。お疲れ様』

『おまかせ下さい。フェイト様』

『王子直々の依頼。報酬がっぽり?』

『バッチリだフェイト。それにしてもあのジークフリートって野郎、ムカつくなぁ』


 俺は今回の軍議の内容を皆に説明するのが面倒なので、軍議の内容を通信機でずっと送信していた。まあ、傍受される恐れはないし問題は無いと思う。


「トリスタン。それは明日やつの鼻を明かしてやれば良いだけの話だろ?」

『ああ、フェイト。その通りだぜ』

『ん。ぶっ飛ばす』


 よし、気合は十分みたいだな。


「さて、明日は俺が指揮をとる。悪いがお前たちの命、俺に預けさせてくれ」

『おう! まかせとけ』


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