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十話 軍議(1/2)

「やっと着いたな。フェイト君! いやー疲れたなぁ」


 と、言いながら馬車から出てきたのはローミオンだ。こいつは一応、元Sランク冒険者で宮廷魔術師の肩書があるから、今回の戦争では参謀役として呼ばれている。さすがに王族と同じ馬車ではなかったようだが、こいつの乗っていた馬車もなかなか立派なものだ。


 こっちは約二日間、馬に乗りっぱなしでケツが痛くなったというのに……回復魔法で治しながらじゃなければ耐えられなかったと思う。……俺だって現役のSランク冒険者なのにな。この扱いの差はなにか釈然としないものがある。


「なんだフェイト君。浮かない顔をしているが、もしかして馬車に乗りたかったのかな? それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」


 俺の恨めしそうな視線に気がついたのかローミオンがそう言ってくる。でもな、あの暑苦しいローミオンと密室で二日間一緒というのも勘弁して欲しい。ほとんど拷問じゃないか。ケツの痛みは魔法で癒せても、精神的な疲労は魔法じゃどうにもならない。


「いえ、大丈夫ですよ。いい乗馬の訓練になりましたので」

「そうかそうか、フェイト君は何事も向上心があって素晴らしいな!」


 ハッハッハと高笑いするローミオン。ああ、やっぱ暑苦しい。一緒じゃなくてよかったわ。


「ところでな。フェイト君。アレについてそろそろ話を聞きたいのだが? もう戦まで時間がないからな」

「え? アレ? アレって何の話ですか?」


 ん? なに言ってんのこいつ。アレとか言われても心当たりなんか無いぞ。


「いやいや、そんなに焦らさないでくれたまえ、フェイト君。アレと言ったらアレの事しかないだろう」


 ……え? マジで心当たりなんだけど……なんだろう? ローミオンはやたらと上機嫌でキラキラした期待のこもった目で俺を見つめてくる。うわ……それやめて、ぎもぢわるい。


《まさかこれは! ローミオン×フェイトな展開に!? ……わくわく》

《ちょっと待て、冗談でもそんなこと言うな! マジ気持ち悪いから》


 状況を把握できず完全に困惑している俺の様子を見たローミオンは、一転してため息をつきながらヤレヤレみたいなポーズを決める。なんかむかつくな、それ。


「むう……これだけ言ってもまだ分からないとはな。カレナリエンに聞いたのだが、フェイト君は彼女用に武器を開発したのだったな」

「あ、はい。確かにカレナリエン専用の武器は作りました」


 まあ、あれは武器というより兵器に近いけどな。


「と、言うことはだ。当然私専用の武器も用意してくれているのだろう?」


 あー、そういうことかぁ。すまんなローミオン。すっかり忘れてたわ。ローミオンは再び鼻息も荒く、期待の眼差しを俺に向けてくる。さて……どう切り出したもんか。


「あ、いや、ローミオンさん。実はですねぇ……」

「ん? なんだねフェイト君」


「実は通信機の作成に夢中になってすっかり忘れてた……みたいな?」

「なん……だと……」


 涙を流しながらその場に崩れ落ち、地面に両手両膝をつくローミオン。ああ……そんなに期待してたのか。そう言えば王都を出る時もチラチラとこっちを見てたしなぁ。あの時は気持ち悪いなと思って無視してたけど。


「なんでカレナリエンは良くて、私はダメなんだあぁぁぁ! 不公平じゃないか!」

「そんなこと言われても、俺のリソースにも限界がありますって」


 俺の胸元を掴み、叫ぶローミオン。そうは言っても通信機だけでもギリギリだったんだ。これ以上やったら過労死してたかもしれん。


「そ、そうだ。カレナリエンの武器は三機あるじゃないか、そのうち一機だけでも私に分けてくれないか?」


 あー、そう来たか。 


「アレはカレナリエンの魔力に合わせてチューニングしてますから、今から再調整しても間に合いませんって。でも、この戦いが終わったらローミオンさんの武器も作ってあげますので、だから、離れて下さい!」


 俺に泣きながらしがみつく、金髪ロング、イケメンエルフのローミオン。……これは絵面的にヤバイ。周りの兵士がこちらの様子を見ながらヒソヒソと話をしている。ああ……またこれで妙な噂が広がるんだろうなぁ。泣きたいのはこっちの方だよ。うわーん。


「それは本当か? フェイト君! この戦いが終わったら……絶対に約束だぞ!」


 ぐ……こいつわざとなのか? 微妙に勘違いされそうな……それっぽいセリフ吐きやがって。


「大丈夫ですから、とりあえず落ち着いて下さい!」

「あ、ああ。分かった。取り乱して悪かったねフェイト君!」


 全くだよ。カレナリエンがこいつを避けるのもうなずけるわ。


「この話はもう良いとして。到着後、軍議があるんじゃなかったんですか?」

「あ、そうだったな。よし、早速行くとしよう」


 はぁ、えらい目にあった。それにしても周りの兵士の俺達を見る目がヤバイ……。


《おめでとうございます! 王都で薄い本が出回る日も近いですね!》

《見つけたら全部燃やしてやる!》



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「全員集まったな。これより軍議を始める」


 仮設で建てられた天幕の中に王族派の面々が集合。軍議が開始される。


「まずは状況の確認からだが……よろしく頼む」


 アレックス王子は側近の軍人風の男に目配せをする。


「はっ。まず兵力についてですが、我軍はおよそ一万弱に対して、貴族派の軍は約三万。三倍ほどの兵力差があります。貴族派の総大将はダニエル王子。そして総指揮をとるのはシュヴェールト公爵の様です」


 ふーん。てっきりクヴァンが総指揮をとると思っていたが、ヤツは後ろに控えるより前に出て戦う方を選んだのかな。


「敵の主力は中央のクヴァン率いる騎士団の騎馬部隊。右翼に重装歩兵が中心のホーエンツォレルン辺境伯の部隊。左翼に歩兵と魔術師兵が混在したリプセット辺境伯の部隊。そして後方にデューク率いる魔術師団が控えます」


 うーん。錚々たる布陣だな。こっちは主な指揮官はジークフリートしかいないし。やつの部下で優秀な指揮官がいないとアウトだな。


「また、先程先方からの使者があり、明日の朝の開戦を指定してきています」


 明日の朝って……間に合うのか? まあ、あちらさんは準備が整ってるから早めに開戦したいってのは分かるんだけど。


「開戦の日時について、我々は三日後を指定したはずだが」

「いえ、それが、その使者が明日の朝しか受け入れられないと言ってくるもので……とにかく我々の意向はともかく、貴族派は明日軍を動かすとの事です」


「バカな! これのどこが正々堂々と言うのだ。貴族派は騎士の風上にも置けぬやつらだ」


 ジークフリートの気持ちも分からんでもないが、これ戦争なのよね。戦に汚いもクソもない。でも平原で待っていてくれただけでもマシな方だと思うぞ。


「とりあえず、相手が明日動く以上、我々もそれに対応するしか無いでしょうな」

「ぐ……兵の疲労が気掛かりだが、そうせざるを得ないか」


 ローミオンにそう言われ、歯噛みする王子。


「ではローミオン殿、何か策はあるか?」

「ふむ。こちらの兵には疲労が蓄積し、士気もあまり芳しくない。それに兵力差にもかなりの開きがある上に、兵の練度もあちらが上だ。しかもここは逃げも隠れもできない平原、小細工を弄することも出来ない。どう考えてもこちらに勝ち目はありませんな」


 ローミオンの客観的な指摘に一同は沈黙する。


「だが、状況を打開する方法が一つだけある。皆がどうしてもというのなら話してもいいのだがなぁ」


 ローミオン、話の持って行き方が結構うまい。伊達に二百年無駄に年は取ってないな。まあ、俺も目的達成のためには自重しないと決めたからガンガン行かせてもらいますけどね。後で吠え面かくなよジークフリート。


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