六話 もう愛想が尽きました
「ところで、戦の時の指揮は誰がとるのでしょうか? 総大将はもちろんアレックス王子だと思いますが……」
「そうだな。総指揮はジークフリートに任せようと思うが、フェイト殿、そなたにもいくらか兵を預けたいと思う」
ジークフリートについては予想通りだが、マイア王女はちゃんと王子に話をしてくれていたようだ。
「な!? アレックス様お待ち下さい。この様な平民上がりの男に兵を率いる事などできるはずがありません。ここは由緒正しきモンフォール辺境伯の嫡男、このジークフリートに全権をおまかせ下さい!」
あー、やっぱでしゃばってきたよこいつ。隣りにいるレティシアも心底嫌そうな顔をしている。
「でもジーク。相手とは三倍近くの兵力差があるのよ? ここはレーニアの英雄であるフェイト様の力を借りた方がいいと思うの」
マイア王女が助け舟を出した……つもりなんだろうけど、それは多分逆効果だ。
「お言葉ですが、マイア王女はこの男を買いかぶりすぎているのです。期待しすぎると痛い目に会いますぞ!」
うん。予想通りだな。あーあ、顔というか、耳まで真っ赤にしちゃって。マイア王女が俺を推すのがそんなに気に入らないのか? マイア王女も困った顔をしている。
「そこまで言うのでしたら、あなたはこの戦局を覆す策をお持ちということですの?」
耐えかねたレティシアが突っ込みを入れる。そうそう、俺抜きで勝つ秘策でもあるのかね?
「もちろんだ! 数多の戦を潜り抜けた屈強なモンフォールの精鋭にかかれば、数倍の兵力差などものともしないだろう!」
……まさかの無策、ガチンコ勝負かよ。
「……それが策ですの?」
あまりのことにレティシアも絶句。
「ああ、由緒正しい高貴な私が卑怯な策を弄するなどあってはならないのだ。正々堂々と戦って勝ってみせる。そうでなければ意味がない」
そう言いながらジークはチラチラとマイア王女の方を見る。うーん。分かりやすい。おそらく今こいつの頭の中では、華麗に戦力差を覆し勝利する自分、その自分を見て『キャー、ジーク様カッコイイ! 結婚して! 抱いて♡』と言い寄る王女の姿が想い描かれているのだろう。
俺はアレックス王子の方に目を向けると、王子も渋い顔をしていた。王子にもジークフリートには思うところがあるのだろうが、軍部を完全に貴族派に持って行かれた状況で、兵力の大半をヤツに頼っているのだ。言いたいことがあっても何も言えないのだろう。
それにしても、これ本当に勝てるのか? ちょっと不安になってきた。
俺が今から一人で貴族派に乗り込んで、奴らを倒す事は可能かもしれない。でも、そんな棚ぼた的な勝利をこいつらに与えてしまっても、その後まともな政権運用ができるとはとても思えないのだ。
……できるだけ、犠牲者を出さずに問題を解決できたらと考えていたが、ジーク君には少し痛い目にあった方が良いかもしれないな。
《もう面倒くさいんで全部ぶっ潰して、響介さんが王として君臨しちゃえば良いんじゃないですか?》
《堕女神さんや。それはいくらなんでも投げやりすぎないですかね?》
でも、それもありかな? って一瞬考えてしまった。だってこいつら見ていると、なんかこうイライラしてくるし……。
「では結局私はどうすれば良いのでしょうか?」
答えはだいたい予想できるが、一応ジークフリートに聞いてみる。
「先程も言ったように全軍の指揮は私に任せろ。必ずこの戦を勝利に導いてみせる。だから君の助けは要らない。黙って見ているんだな」
うん。まさか戦にすら参加させてもえないとは、これは予想外だった。ごめん。俺はまだジークフリートを侮ってたみたいだ。
「ジークフリート。功を焦る君の気持ちも分からないでもないが、より確実に勝利を収めるためにはフェイト殿の力を借りた方がいいだろう。良く考えてみてくれ」
これにはさすがにアレックス王子からのツッコミが入ったか。
「それは、しかし……分かりました。喜べフェイト。貴様は特别に俺の指揮下に入れさせてやろう。一兵卒として働き、勝手な行動は慎むように。アレックス王子の御慈悲に感謝するんだな」
それを聞いたアレックス王子がため息をついている。王子もこいつには手を焼いているようだな。
「了解しました。お味方の勝利に貢献できるよう尽力致します」
「うむ。殊勝な心がけだ。ハッハッハ!」
上機嫌に高笑いをするジークフリート。先程国王陛下が崩御されたばかりだというのにこいつは空気が読めないのだろうか。案の定他の者はドン引きである。
《勝手な行動については約束できないけどな。戦いの中で使徒の気配を掴んだらそっちを優先させてもらう》
《下手に指揮権与えられた方が面倒だったかもですね》
《だな。俺達は使徒を探ることに専念しよう。ジーク君はもうどうでもいい。でもこの状況は利用させて頂く》
《ん? 利用? どういうことですか?》
《ああ、【サーチ】張ってたら部屋の屋根裏で聞き耳立ててる奴がいた。多分向こうのスパイだと思うけど、俺が王族派が不仲で動けないと認識してくれた方が、向こうも油断するし、俺も動きやすい》
《なるほど、響介さん策士ですね! で、戦いでは自重する気無いんですよね?》
《当たり前だ、俺は俺のやりたいようにやる》
なんかもう、王族派も貴族派もどっちもどっちって気がしてきた。どちらが勝っても国民が不幸になる未来しか見えない。ならば俺は俺の目的を優先させて貰おうか。
「話はもう終わりでしたら、私はこれで失礼させて頂きます」
「あ、ああ。ご苦労だったフェイト殿」
俺は王子に一礼し、レティシアと共に部屋を出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王子との会談を終え、レティシアと屋敷に帰る途中。俺は王都に来てからのことを思い出していた。王族派、貴族派の面々の事。邪神の使徒の目的と考え。そして俺が最優先でやらなければならないこと。色々なことを頭の中で整理していると、不意に隣を歩いていたレティシアに声をかけられた。
「怖い顔をして、何を考えているんですの?」
「ん? 俺そんな怖い顔してたか?」
「してましたわ。こんな風に眉間に皺を寄せて……」
と言いながらレティシアは眉間にしわを寄せて怒った顔を作る。うう……俺、そんなにひどい顔してたのか。
「こんな美人のご令嬢の隣を歩かせて貰ってるのに、不景気な顔してて悪い事したな……」
「ふふふ……そんなお世辞が出てくるのならもう大丈夫ですわね」
いや、別にお世辞ってわけじゃないんだけどね。整った顔立ちに、白磁のような白い肌、豊かな金髪を縦カールでまとめている。なんというか、レティシアは人形がそのまま人の形をとったような現実離れした美しさがある。ほら、今も警備兵たちがレティシアをチラチラ見てるし。
《おやおや、ひょっとしてレティシアちゃんもハーレムメンバーに加える気になりました?》
《いや、それとこれとは話が別だって。でも、旦那をきちんと立てるいい嫁さんにはなりそうだなとは思うけど》
《俗に言うアゲ○ンってやつですね》
《そこは内助の功とか、もっと言葉を選ぼうね堕女神さん》
それにしてもレティシアのやつ。
「……さっきの会談の事については何も聞かないんだな」
「あら、フェイト様はもう何をするか決めているのでしょう? ならば私から聞くことは何もありませんわ」
「まあ、決めたのはその通りなんだけど、俺が何をするつもりなのか、それは気にならないのか?」
「全然、だってわたくしはフェイト様のことを信じているんですもの」
と、妙に芝居かかった口調で、しかも両手を胸の前に添え、上目つかいでそう言ってくるレティシア。
「さ、さいですか。そ、それなら別に良いんだけど」
急にそんなことするから吃っちゃったじゃないですか。
「うふふ……フェイト様をからかうのはこのくらいにして……わたくし達の事をちゃんと考えてくれているのですよね?」
「ああ、それはもちろんだ。ただ単にもうジークフリートの顔色を伺うのはやめようと決めただけだし。……もうあいつには愛想が尽きたよ」
俺は頭を振りながら盛大にため息をつく。その様子を見ながら微笑むレティシア。
「というわけで、次の戦いでは遠慮なく暴れさせてもらう。俺はやつらに協力するとは言ったが、別に軍門に降ったわけじゃないからな。それに身分の差もくそくらえだ! 俺を殺せるもんなら殺してみやがれ」
「だいぶ吹っ切れた様ですわね。それでこそわたくしのフェイト様ですわ」
「えー、わたくしのってどう言う意味だよ?」
「それは、あれですわ。お父様は一旦決めたことは絶対に諦めないし、引きませんからわたくしの将来はもう決まっているも同然なのですよ」
「いや、それは勝手に決めないで欲しいな」
「あら、フェイト様はわたくしがお嫌いですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「ならよろしいじゃないですの?」
「……じゃあ、レティシアお前はどうなんだよ? 親に決められた婚姻、納得できるのか?」
「ふふ……それはどうでしょうね」
レティシアはそう言って屋敷の扉を開け、中に消えていってしまった。
「あ、てめ。俺だけに言わせて卑怯だぞ」
《見事にあしらわれちゃいましたね》
《うーん。俺、一応腕っ節には自身があるけど、あいつだけには勝てる気がしないな》
でも、レティシアのお陰でなんか吹っ切れた感はあるんだよね。これまで搦め手使ってくる使徒に対して、俺もクールぶって搦め手で対抗しようとしてたけど、元々俺はこういうタイプじゃないのかもな。やっぱ力でねじ伏せるのが性に合ってるわ。
とりあえず屋敷に帰って、今後の対策を練ろう。




