五話 急展開
次の日の朝、俺は早速屋敷を管理している執事のスタンレイさんに話をして、マイア王女に取り次いでもらった。
「フェイト様。貴族派が兵を挙げたというのは本当ですか?」
「私の仲間が見た情報によると、東と南の辺境伯領から兵が集結しているとの事ですね」
それを聞いたマイア王女は顔を青ざめ黙り込んでしまった。余程ショックを受けたのだろう。その隣にいたシルヴィアが王女に代わり、俺に問いかけてきた。
「フェイト殿、その兵の数は分からないか?」
「残念ながらまだそこまで詳しい情報は掴めていない。今配下の者に探らせているのでもう少し待って欲しい」
「そうか……恐らく数万といったところだろうな」
「多分それくらいだろうと思う。対する我々はかき集めても1万いくかどうか。兵力の差は歴然だな」
すると急にマイア王女が俺に寄ってきて手を握ってくる。うう……後ろに居るディアナから少し殺気が漏れているのが分かる。怖いよディアナさん。
「フェイト様、私達は勝てるでしょうか?」
「そうですね。まともにぶつかったのでは勝ち目は薄いですが、戦の際、俺達を前面に立てて頂ければ勝機はあるかもしれません。色々とそのための準備はしていますので」
俺の一言でぱっと表情が明るくなる王女。裏の顔を知っていなければ素直に可愛いと思えるんだけどね。
「分かりました! お兄様に相談してみますね」
「あ! 王女、この事は王子だけに話して下さいね。くれぐれもジークフリート殿には相談しないようにお願いします」
マイア王女は首をひねり、しばらく頭の上にはてなマークを浮かべていたが……
「はい、フェイト様の仰る通りにしますね」
と、快い返事をして承諾してくれた。マイア王女からの推薦だとあの野郎にバレたら嫉妬で怒り狂うだろうからな。はぁ、なんでこんなに味方に気を使わなきゃならないんだよ。
(お疲れですわ、フェイト様。これでうまくいけばいいんですけど)
(あの野郎は一筋縄じゃいかないと思うけどな)
(そうならないことを祈りますわ)
コソコソを話す俺とレティシア。その様子を不思議そうに眺めていたマイア王女だったが、
「フェイト様。そろそろお兄様の所に行きましょう」
「あ、そうですね。案内をお願いします」
「じゃあシルヴィア、お願いね」
「畏まりました。フェイト殿こちらに……」
「ああ、ありがとう」
俺はシルヴィアに案内され王子の待つ部屋に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フェイト殿、来たか。マイアから話は聞いたが、ついに貴族派が動いた様だな」
「そのようですね。我々も早急に戦の準備をしなければなりません」
会議室に集まったのはアレックス王子、マイア王女、ジークフリート、シルヴィア、あと内務大臣のおっさん……フェルナンドさんだっけ? マイア王女から聞いていたけどこのおっさん初めて見るな……存在すっかり忘れてたわ。
それからこちら側の人間は、俺とレティシアの二人。レティシアはこういった政治的な駆け引きの場では頼りになるので連れてきた。
しかし、何か様子がおかしい。王族派の面々は皆一様にして暗い表情を浮かべている。決戦を前にして緊張しているか? いや……これは違う気がする。
「アレックス王子。どうかされたのですか? 何やらご様子がおかしいのですが…‥…」
「いや、それがな。つい今し方、父上が崩御されたと連絡があった」
「な!? 国王陛下が亡くなられたのですか?」
「そうだ。まだこのことを知るのはごく一部の者だけだがな」
うん、タイミングが……出来すぎているな。
「貴族派が動いたこのタイミングで……ですか?」
「ああ、おそらく手を下したのは奴らだろう。だが証拠については貴族派連中が握っている事だろうから、問い詰めても躱される可能性が高い」
まあ、たとえ決定的な証拠を手に入れたとしても意味が無いかもな。もう奴らは兵を動かしている。
「この事は公表されるのですか?」
「いや、きちんと公表し、父上を弔ってやりたいのはやまやまなのだが……先にこの混乱を鎮めなければなるまい。そうでなければ父上も安心してあの世に逝けぬ」
一見もっともらしい事を言っているように見えるが、それで国民が納得するだろうか? それならばいっその事……
「私としては、事実をきちんと公表した上で、王子が喪主となり堂々と国葬を執り行う方が民心を掌握できると思います。どちらが次代の王として相応しいか国民に見せつければ良いのです」
「いや、だがな。貴族派の兵はすぐそこまで迫っているのだ。そんな状況で無防備に葬儀など行っていれば我々は簡単に蹂躙されてしまうぞ」
この保身バカ王子。そこまで自分の身がかわいいのかよ。
「だからこそです! 国王が亡くなったというのに、兵を差し向ける不敬な第二王子との徳の違いを国民に見せつけるのです。わざわざ相手と同じ次元に堕ちる必要はありません」
「しかし……そうは言ってもな……」
なんて弱腰、優柔不断な王子なのか……。俺が落胆しているとドアがノックされる音が聞こえた。
「会談中申し訳ありません。アレックス王子殿下に火急の知らせがございます」
「む。なんだ? 入れ」
「失礼します」
ドアが開き伝令役とみられる文官風の男が部屋に入ってくる。その男は王子に近づき、書簡のようなものを渡した。王子はその封を切り、内容を確認する。
「こ、これは……」
「お兄様、何が書かれていたのです?」
「端的にいうと、貴族派の宣戦布告だ」
「宣戦布告……ですか」
「ああ、内容は『国王を毒殺し、王位簒奪を企む第一王子にもはや正義はない。よって我々が天誅を下す』だそうだ」
「え? そんな……差出人はもしかしてダニエルお兄様ですか?」
「そうだ。しかも丁寧に「第一王子派が国王を殺したのは明白、なぜなら未だに国王の死を国民に公表すらしていないからだ」とも書かれている。そして、第二王子は逃げも隠れもしない。正々堂々と戦ってどちらが真の王としてふさわしいか雌雄を決しよう……ということらしい」
眉間に手を当て、深いため息をつく王子。そこに更に先程の伝令が追い打ちをかける。
「王子殿下、こちらも……」
伝令役の文官は王子に紙切れを渡す。……あれは、新聞か。王子はその新聞に目を通すと、それをテーブルに自分の手ごと叩きつけた。
「……やられた、新聞にも書簡と同じ様な事が書かれている」
頭を押さえ、天を仰ぐアレックス王子。
はぁ、もう先手を打っていたか。貴族派めマスコミを使って情報操作するとは。俺への趣旨返しのつもりなのか? なかなかやってくれるじゃないか、これは戦場でたっぷりとお礼をしてやらなければな。
「そんな……父上が亡くなられたのはつい先程のことなのに……」
マイア王女が青ざめた顔でそう呟く。
「こちらを攻める口実が欲しい貴族派にとってはどうでもいい事ですね。勝ってしまえば事実などどうとでも捻じ曲げてしまえますから」
俺の言葉にしばらくの間、場が沈黙する。
「やはり父上を手に掛けたのは奴らなのだろうな……しかし、もうこれで衝突は避けられん。……ジークフリート、兵はすぐ集められるか?」
「はい! 10日もあれば集めてみせます」
ジークフリートのモンフォール辺境伯領は、他の辺境伯領に比べて王都に近い位置にあるとはいえ、10日はちょっとサバを読みすぎなんじゃ? あちらがモタモタしてくれたら良いんだけど、状況によってはこちらの軍備が整うまであちらの足止め、撹乱をする必要があるかもしれない。
「10日か……できるだけ急いでくれよ」
「はっ、今すぐ伝令を飛ばします」
ジークフリートは部下風の男を部屋に呼び、指示を出す。そこで俺はこの先の戦いでの俺の立ち位置について聞いてみることにした。
果たして、王子やジークフリート君はどう出てくるだろうか。内容によっちゃ俺、暴れるよ?
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今後も全力で更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします。




