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三話 弟子と弟ができました

「聞いたぞフェイト君!」


 夕刻になり、俺達はカガリの家臣のシオンに会うためにギルドに来たんだが、ギルドの扉を開けた瞬間、ギルドマスターのローミオンから大声で声をかけられた。


「き、聞いたって何をですか。ローミオンさん」


 俺の肩をガシッと掴み迫ってくるローミオン。うう……相変わらず暑苦しい。鬱陶しい。


「弟子のカレナリエン君の事だよ。昨日久しぶりに彼女の研究棟に行ってみたんだが。彼女はもうフェイト君に乗り換えた、だから私は用無しだって言われたよ!」


 涙を流し、咽び泣きながらそう訴えるローミオン。ああ……もう完全にギルド内にいる者全員の注目の的になってしまった。俺がギルドに行くと毎回悪目立ちするのはなぜなんだ?


「ちょ、ちょっとローミオンさん。少し落ち着きましょう。ここは他の冒険者の目もありますし」

「これが落ち着いてられるかフェイト君! カレナリエンはこうも言っていたぞ『フェイトはあんなことやこんな事まで教えてくれる。こんなの初めて♡』とな!」


 うがー、あのエロガキ、微妙に勘違いされる様なセリフ吐きやがって、しかもそのセリフを丁寧に再現するローミオンもふざけてやがる。『♡』まで再現することないだろ? 気持ち悪いわ!

 おそらくローミオンは『私に教えてくれなかった魔道具作成をカレナリエンに教えるなんてずるい!』って言いたいんだろうが、これはやばい。100%勘違いされる。


「おい、カレナリエンってあの美少女宮廷魔術師のカレナリエンちゃんの事か?」

「なに!? あのカレナリエンちゃんがあの男の毒牙に?」

「おのれぇ。カレナリエンちゃんファンクラブ会員番号1番の俺を差し置いてあんな事やこんな事まで、うらやま……いや、けしからん! 俺が成敗してくれる!」


 うわー、やっぱりいつものアレが始まった……。というか、なに? あいつファンクラブなんかできてんの?

 と、俺が天を仰いでいると、先程のファンクラブ会員を名乗った男がこちらに近づいてくる。


「おい、小僧ちょっと話がある。表に出ろ」


 男はそう言って俺の肩に手を置くが、ローミオンがその男の手首をギリリと掴む。


「フェイト君には先約があるんだ。悪いが引っ込んでいて貰おうか!」


 そう言ってローミオンは鋭い眼光でその男を睨む。さすがは元Sランク冒険者。その眼力と迫力は凄まじく、その男はタジタジになり、俺の肩から手をどける。


「あ、ああ。悪かった。俺は特に用事はないから好きにしてくれ」

「というわけだ。さあ、フェイト君奥にいこうか」


 俺達はローミオンに連れられギルドの三階に移動した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「先程は取り乱して悪かったね」

「あ、いえ。いいんです。俺も忙しかったとはいえ、連絡もせずにすみませんでした」


「いや、いいんだよ。こうして魔道具についての知識を教えてもらえる約束もしてくれたわけだからな」


 ハッハッハと笑いながら俺の背中をバシバシ叩くローミオン。

 結局ローミオンは俺の弟子になる事になった。本人は教えを請うのだから弟子になるのは当然だと言っていたが、200年を生きたエルフとしてのプライドとかそういうものは無いのだろうか……。それに順番から言って、カレナリエンの方が兄弟子(姉弟子?)になるのだが……本当にいいのか?


「はぁ。それはもう了解しましたので。で、早速例の件についてお聞きしたいのですが」

「ああ、獣人族の件だね。彼ならもう来ているので応接室に行こう」


 獣人族というキーワードにピクリと反応したカガリがローミオンの前に歩み寄る。


「ローミオン殿と言ったな。よろしく頼む」

「ほう、君が獣人族のお姫様だね。分かった。こっちに来てくれ」


 俺達は獣人族の待つ応接間に向かい、そのドアを開け中に入る。


「いやあ、お待たせしたね。シオン君。お姫様を連れてきたよ」


 ローミオンの気安い声にピクッと反応しこちらに目を向ける男がいる。あれは犬? いや狼の獣人かな? 白髪の頭にピンと尖った耳。そして白くてフサフサした尻尾が見える。それに思ったよりも若い。20歳くらいじゃないだろうか。あとお供の者なのか、狐の獣人の女の人、そしてやたらとガタイのいい男性もいる。熊の獣人かな。

 そしてその獣人族の男、シオンの目が徐々に見開かれ、表情も喜びのものに変わる。


「お嬢! ご無事でしたか! このシオンが不甲斐ないばかりにお嬢を危険な目に……誠に面目次第もございません」

「いや、良いのだ。混乱を極めたあの状況下ではそれも仕方ない。それよりも無事再会できたことを喜ぼうではないか」


 カガリとシオンはお互い抱き合い、涙を流しながら再会を喜び合う。後ろの二人の獣人も「お嬢……良かった」と呟きながら涙を流していた。その様子からヴィッドガルでの帝国の仕打ちが凄惨を極めていた事が想像できる。その後も亡命先の王国でもひどい目にあって……。派閥が異なるとはいえ、本当に獣人達は俺達に協力してくれるのだろうか……少し不安になってきた。


「ところでカガリ様。後ろの者たちは何者なのでしょうか?」

「ああ、この者たちはな。私が貴族派の連中に奴隷として売り飛ばされそうになったところを助けて頂いた恩人だ。もしフェイト殿に助けられなかったら、私は今頃あの豚共の慰み者になっていたであろう」


「な!? それは……。フェイト殿と申しましたな。此度はお嬢を救って頂き感謝します。そしてこの御恩は全獣人族を挙げて返させてもらうつもりです」

「あ、ああ。君たちの協力はこちらとしても嬉しい限りだ。よろしく頼む。しかし、俺は貴族派ではないとはいえ、お前達にひどい仕打ちをした王国の人間だ。その俺に協力する事は良いのか?」


「……確かに不満を持つ者が出ないとは言い切れないが、お嬢を救ってくれた者に恩を返さないとなれば我が獣人族、末代までの恥となる。必ず皆の者を納得させるから安心して欲しい」

「分かった。お前達の恩義。ありがたく受け取ることにするよ」


 獣人族ってめっちゃ忠義に熱いんだな。俺の心配は杞憂に終わったな。


「しかし、我々は貴族派の数の暴力に為す術もなく次々と破れていった……。王族派と協力するにしても、我々に勝算はあるのだろうか……」


 シオンが不安げな表情でそうつぶやく。


「安心しろシオン。お前はレーニアの英雄の噂を聞いたことがあるだろう。そこのフェイト殿がそのレーニアの英雄本人だ。その計り知れない実力は私が保証する」

「な!? まさかあなたがあのレーニアの英雄? 三万を超える魔物の群れを一人で殲滅し、レッドドラゴンをも退けたという……あの?」


 ガクガクと手を震わせながら驚きの表情を見せるシオン。そんな大げさなもんかねぇ?


「うん。まあ、そうだな。俺は一応そのレーニアの英雄と呼ばれている者だけど?」

「本当か? す、すげぇ。レーニアの英雄が味方なら百人力だ。これはもう勝ったも同然だな」


 あれ? 余程興奮したのかシオン君の口調が……。これが素なのかな?


「ふふ……それにな。シオン。今すぐには無理かもしれないが、フェイト殿はヴィッドガルの復興にも協力すると約束してくれたぞ」

「そ、それは本当ですか。お嬢!」


「ああ、本当だ。な? フェイト殿」

「そうだな。恐らく王国は帝国に及び腰になって動いてくれないと思うからな。俺が一肌脱いでやるよ」


「あ、兄貴……」

「へ? あにき?」


 なんだいきなり……まさか一肌脱ぐを別の意味に勘違いされた? こいつそっちの気があるのか?


「おい、お前達!」

「「はっ!」」


「私、銀狼族のシオンと、月狐族のミオ。そして熊羆(ゆうひ)族のゲンドウはこの日をもってフェイト様に従います。如何様にもお使い下さい。できれば義兄弟の盃を交わして頂きたく……」

「え? しかし、シオン達はカガリの臣下じゃないのか?」


 というか、義兄弟の盃って、それにお嬢って……ヴィッドガルはひょっとして任侠な国なのか?


「カガリ様がフェイト様の実力をお認めになられた。つまりはそういう事ではないのでしょうか?」


 どうも獣人族には自分がその実力を認めたものとしか結婚しない、というしきたりがあるようだ。


「いや、別にそういうわけではないって、俺には既に婚約者がいるし」

「そうですか……でも兄貴と呼ばせて下さい! レーニアの英雄、尊敬しています!」


 ものすごく真っ直ぐなキラキラした眼差しを向けてくるシオン。後ろにいる二人も同様だ。う……そこまで期待されると、拒否しづらい。獣人族は完全な実力至上主義。強い者は皆から尊敬され讃えられるそうだ。アリスンさんがまさにそうだからなぁ。こいつらもそうなんだろう。


 俺は仕方なく、やむなくシオンと義兄弟の契りを結ぶことに……。

 でもな、シオンよあまりそんな熱い眼差しを向けるのはやめてくれ。下手したら王都で『フェイト×シオン』みたいな薄い本が出回るかもしれないから……。


BL的な展開にはならないのでご安心下さい。

また、評価ありがとうございました! モチベ大幅に上昇しました!

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