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十八話 祖国復興


「はぁ、王族の連中も何を考えてるんだか……」

「全くだ。あんなくだらん連中がこの国の政治の中枢を担っているとは……冗談としか思えんな」


 俺とカガリは先程の部屋から出た後、トリスタン達が待機している客室まで廊下を歩きながら話している。


「でも、さっきは助かったよ。あの様子じゃ俺が何を言っても聞く耳持ってくれなかっただろうし」

「いや、私の方こそ貴殿には一生かかっても返しきれない恩義ができた。これくらいはお安い御用だ」


 この子普通にいい子だよな。うん、そうだ。普通、普通なんだよ。ここ最近ローミオン、カレナリエンといった個性の強いヤツとか、腹黒王女を相手にしていたからな。めちゃくちゃ新鮮に感じる。


 ああ……普通って素晴らしい。癒やされるわ。


《あらかじめ言っておくが、フラグを立てるつもりは無いからな?》

《ふふん……それで釘を刺したつもりですかね。響介さんの天然ジゴロースキルはこんなもんじゃ無効化できませんよ》

《なに!? って、んなスキルあるわけねーだろ》


 さて、堕女神は無視だ。話を戻すとして、そんなに恩義を感じてくれているのなら、是非協力してもらわねばなるまいな。


「さっき王子に話した件、王国各地に散らばった獣人族の集結と協力の件よろしく頼むな」

「ああ、任せておけ。私が無事であることを知らせて、一声かければ同胞達は私の下に馳せ参じてくれるはずだ」


 うん。頼もしい限りだな。


「ありがとうカガリ。あとお前の祖国ヴィッドガルの復興の件だけどな。今回は自治区という事で収まってしまったが、この件が片付いたら俺がなんとかしようと考えている。だから安心してくれ」

「いや、自治区だけでも十分すぎるくらいだ。フェイト殿には何から何まで……本当に感謝する」


 ……これは勘だが、帝国にもいずれ行かなければならない気がする。どうせ帝国にもアストレイアの眷族のドラゴンと邪神の使徒がいるだろうし。そのついでにちょいちょいっとヴィッドガルを救ってやろう。


「いや、俺は大したことしてないよ」

「まあ、そう謙遜するな。それにしても先程の交渉は見事だったな。先に無理筋な要求を提案してから、比較的実現可能な要求を再提示する。あの王子はコロッと騙されていたぞ」


「え、ああ……あれね」


 訪問販売やテレビショッピングなんかでよく使われるテクニックだよな。先にぼったくった高い値段をお客さんに見せてから、今日だけの特别価格です! とか言って本当は正規の価格である値段を提示する。


 これをやられた側はなんか得した気分になって、思わず大して欲しくもなかった物も買ってしまう。あの王子、優柔不断な印象があったので、ちょっと揺さぶりをかけてみたのだ。効果は抜群だったな。


「なんとか最低でも自治区だけは認めて欲しかったからな。うまくいってよかったよ」


 王子がもっとハルベルト並にできた人物であれば、こんな小細工は必要なかったのだがな……おそらく王族派に人が集まらない理由はこれだろうな。トップに人望とカネがない。


 俺はため息をつきながら廊下を歩いていると、俺の横顔を覗き込んでいるカガリに気が付いた。


「ん? 俺の顔に何か付いてる?」


 俺のその言葉にカガリはふっと笑みを浮かべると。


「いや、案外フェイト殿は本当の女神の使徒なのではないかと思えてな。あの帝国を相手にしなければならないのに全く恐れる様子も無いようだし」

「え、いや。まさか、それはないだろう」


 え? 何? レティシアと同じパターン?


「ああ、もちろんそんなことは無いと思う。でも、私達にとってフェイト殿は女神の使徒と同じくらいに大きな存在だ。これからもよろしく頼む」

「お、おお、分かった。こちらこそよろしくな」


 ふぃー。バレたかと思って一瞬焦ったぜ。俺は冷や汗をかきながら、トリスタンやレティシアが控えている客室のドアを開けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「で? どうだったんだフェイト」

「んー。一言で言うと説教と茶番かな?」

「は? それだけじゃ分かんねーよ。ちゃんと説明しろよ」


 仕方ないな、面倒くさいけど説明してやるか。俺はトリスタン達に先程の王族派の面々とのやり取りを説明した。


「はぁ、全く呆れますわね。この期に及んでまだ味方同士で足を引っ張り合うなんて」

「それに……国王陛下の病気を治す事も拒否するなんて……自分の肉親の命よりも王位継承権の方が大事なのかな? ちょっと悲しくなるね」

「全くだ。同じ人間とは思えねぇ! フェイトもう王族派抜けようぜ」


「トリスタン。気持ちは分かるけど、あまりでかい声出すなって。他のやつに聞かれたら面倒なことになる」


「だけどよフェイト……あ、そうだ。お前がこっそり国王陛下の寝所に忍び込んで、病気を治してやるのはどうだ? お前ならできるだろ?」


「それは一応俺も考えた。だがな、王族派……実の息子でさえ国王が目覚めることを望んでいないんだ。貴族派は言うに及ばず……この意味が分かるか?」


「……全然分かんねーよ。勿体ぶらずにさっさと言えって」


 やっぱアホのトリスタンには分からんか。


「誰も国王の病気が治る事を望んでいないのですのよ。もしかしたらこの病気も誰かによって仕組まれたものかもしれませんわ。この状況で国王陛下のご病気を治したとしたら、その方がかえって陛下の死期を早めることになりかねませんわね」


 レティシアが代わりに答えてくれた。やっぱこいつ分かってるよな。王族派も貴族派ももう後に引けない状態になっているし、この状況で国王陛下が目覚めてしまったら余計に混乱を招きそうだ。


「げ……マジかよ。この国は腐ってやがるぜ……」

「俺が陛下を攫ってもいいんだけどな……でもそれだと皆揃って国家反逆者だ」


 別に俺一人だけなら良いんだけど、母さんやディアナを始めとした俺の関係者に危害が及んでしまう。


「そんな……陛下可哀想……」


 ディアナは優しいな。でもな、


「酷な言い方かもしれないけど、現国王だって先の王位継承権争いを勝利して今の地位にいるわけだし……王族として生まれるのも考えものだな」

「おとぎ話みたいに華やかな世界じゃないのね……」

「もう王族と関わるのはコリゴリだぜ」


 悲しいけどこれが現実なのよね……


「まあな、というわけでそんな鬱になりそうな、いやーな感じの会談だったというわけだ。もう王族達の事はあれこれ考えても仕方ないと思う。俺達にできることを考えようか」


 俺がそう言ってため息を吐くと、なぜかレティシアが俺に訝しげな視線を送ってくる。一体なんだよ?


「ふーん。でもそんな退屈な会議から帰ってきた割には、お二人とも、先程はすごくいい雰囲気でしたわね」

「なに? それはどういうことフェイト? まさか姫様まで……」


 ヤバイ。レティシア余計なこと言うなよ。ディアナさん激おこモードになっちゃったじゃないか。


「ちょっと待てレティシア、ディアナ。それはさっきカガリと廊下で、お互い協力し合うことを約束し合ってただけだって。それ以上のことは無いから」

「ふーん。その約束ってなによ?」


「えっとだな。獣人族が俺たちに協力する代わりに、俺がヴィッドガルの復国に協力するって言っただけだ。とりあえずは国内に獣人族の自治区を設立することを目標にってことで……」


「「「「……」」」」


 なんか皆が急に黙った。なじぇ? 俺何か変なこと言った?


「あのねフェイト。カガリちゃんは亡くなった先王の一人娘なの。ヴィッドガルの王族はもう彼女しか生き残ってないの」

「あ、うん。そうみたいだな」


「そんな状況で、ヴィッドガルが復国する。当然その功労者の筆頭はフェイトになるわよね」

「え? そうなるのかな?」


「ヴィッドガルは次代の王を残す必要があるから、カガリちゃんはお婿さんを迎えないといけないわよね」

「そ、そうだな……って、それが俺になんの!?」


 俺が素っ頓狂な声を上げると、皆が『何こいつ、自覚してなかったの?』みたいな目で俺を睨んでくる。


「いやいやいや。俺はそんなつもりは微塵もないから。ただ純粋に祖国を失った獣人達が不憫で仕方なかったら、協力したいと思っただけだって、女神に誓って変な下心はないから」


《ふーん。私に誓っちゃうんですね》

《あ、しまったつい……今のナシね》


「ふふふ……いや、安心して欲しいフェイト殿。貴殿はもう既に複数の伴侶が居るのであろう。私がその中に割って入れるとは思っていないよ。自分の生涯の伴侶くらい自分で見つけ出すさ」


 そう言ってカラカラと笑うカガリ。結構サバサバしているというか、豪快な性格の持ち主らしい。


「なに! それじゃあ俺が立候補してもいいのか? フェイトばかりにいい思いはさせないぜ」

「うむ。確かトリスタン殿だったな。先の大臣の私兵を相手にした立ち振舞いは見事だったぞ。獣人族は強いものを敬う。獣人族全体が、そして私が貴殿の強さを認めたならその可能性はあるかもしれないな」


「マジで? よっしゃあ! やる気出てきたぜぇ!」


 ディアナ、エレーナ、レティシアの冷めた視線がトリスタンに突き刺さるが、当の本人はどこ吹く風だ。まあ、動機は不純なのかもしれないけど努力することは良いことだよね? でもなトリスタンよ。


「お前、王族はもうコリゴリじゃなかったのか?」

「あ、いや。それとこれとは話が違うっていうかさ……もう、別にいいじゃねーか! いちいちこまけーんだよお前は!」


 あ、逆ギレしやがったこいつ。仕方ないやつだな。

 しかし、もう先程までの陰鬱な雰囲気は吹き飛んでしまった。相変わらず女性陣三人の視線は厳しいが、カガリはトリスタンの様子を見てカラカラと笑っている。まあ、俺達はこれくらいがちょうどいいな。雰囲気まであんな陰険な王族共に合わせる必要はないだろう。


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