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一話 スタンピード

一章はじまりです。



 堕女神と会ってから5年の月日が経ち。俺は15歳になっていた。あれから魔力操作の訓練は一日たりとも欠かしていない。おかげで今では息をするかのように、無意識でも魔力を操れるようになってしまった。そのおかげで魔法のイメージに意識を集中でき、魔法の精度が格段に向上している。


 魔法は全属性の中級までマスター。というか、上級以上については撃てる場所がないからやっていないだけで、やろうと思えばできると思う。しかも複数同時発動可能だ。うん、これはチートかもしれない。


 俺はもう既にこの世界最強の魔術師になっているのではないだろうか? でも、邪神の実力が分からないので手は抜けない。上には上がいるって言いますし、俺も死にたくは無いですからねー。さー、今日も頑張ろー。


 というわけで、俺はいつものように村外れの例の原っぱに来ていた。10歳の頃に魔力を暴走させて魔法で大穴開けてしまったところだ。その大穴は今では池になってますが……。まあ、ここなら多少無茶しても村には影響ない。


 俺はその池の水を魔力で操ったり、水蒸気に変えたり、凍らせたりと魔力操作の訓練を一通りしていると、北の方から馬に騎乗した男がこちらに駆けてくるのが見えた。かなり急いで馬を走らせており、よく見ると男は体中のあちこちから血を流している。


 俺は魔力操作を中断し、その男がこちらに来るのを待った。男は40代くらいで、皮の鎧を着込み、全身が傷だらけだ。息も絶え絶えで、馬の首になんとかしがみついている様な状態である。


 男はようやく俺の前にたどり着き、馬を止める。


「ハァハァ……ぼ、坊主はトルカナ村の者か?」

「ああ、そうだが、その怪我はどうした? 何があったんだ?」


 野盗にでも襲われたのだろうか? しかし、この男の傷は刃物によって付けられたというよりも、牙や爪で抉られたような傷ばかりが目立つ。相手は魔物か? でもこの辺りにそんな強い魔物なんて居ただろうか? 居てもゴブリンくらいだと思うんだが。


「俺は隣街のリューゼから来たトビーってんだ。おまえの村の村長に話がある。案内をたのめないか?」


 隣街から駆けてきたのか? 何があったんだろうか。どう見ても普通じゃない。


「分かったがその前に治療をしたい、ちょっと動くな」


 俺はトビーに向けて手をかざし回復魔法を詠唱する。


「慈愛に満ちたる天の光よ、汝の傷を癒せ 【ライトヒール】」


 一応詠唱した。ポーズだけどね。いきなり無詠唱やるとその後の説明が面倒くさくなりそうだからな。

 トビーを淡い光が包み込み、傷がどんどん消えてなくなっていく。

 使ったのは光属性の初級魔法【ライトヒール】、母さんが昔使った水魔法【アクアヒール】の光属性版だ。光の方が回復に特化しているらしいが、大きな差はないようだ。


「こ、これは……大したもんだ。坊主助かったぜ。礼を言う」


 一応、無詠唱で魔法名も唱えずに【キュアコンディション】もかけておいた。これは光属性の状態異常回復魔法、中級だ。毒とか貰っているかもしれないし。

 トビーは怪我が治ったため顔色も良くなってきた。まあ、ボロボロの鎧はどうしようもないけどね。俺は再び事情を尋ねることにした。


「礼はいいから、事情を聞かせてくれないか?」

「いや、とにかく急いでいるんだ。事情は村についてから話すから先に案内してくれないか。魔物の群れが襲ってきてやばいんだ」


 トビーはかなり焦った様子でそう言った。むー、仕方ないとりあえず先に移動しよう。


「分かった、ついてこい」


 俺は魔力による身体強化で速力を上げて走り出した。ウサイン・ボルトよりはスピードを抑えていると思う。あまりに早すぎると異常だしな。トビーは一瞬驚いた顔を見せたがついてきている。


《アストレイア。どういうことか分かるか?》

《うーん。良く分かりません。魔物が一斉に襲ってくるなんて普通考えられないです。何かリーダー的な魔物がいて、群れを先導したのならありえなくもないですが》


 俺は走りながらアストレイアに尋ねた。


《リーダー的な魔物? まさか魔王が出現したとかじゃないだろうな?》

《あーそういうこと言うとフラグが立ってしまいますよ? まぁ、邪神が関与していると考えるのが妥当かもです》


 ああ、そういえば邪神いたな。魔法の修行に夢中になってて忘れてた。


《響介さんの緊張感のなさも大概だと思うんですよね》

《魔王か邪神なのか分からないけど、トビーのおっさんの言っていることが正しければ、トルカナ村にもその魔物の群れが押し寄せてくるかもしれないな》


 俺の背筋に嫌な汗が流れる。まあ、たしかに魔法はかなり上達したと思うけど、俺には実戦経験が不足しているんだよな。ゴブリンくらいしか戦った事無いし。それなのにいきなり魔物の群れが相手ですか……、ちょっといきなりハードル高すぎないですかね?


《大丈夫ですよ。これまで封印していた上級魔法をどどーんとぶちかませばいいんじゃないでしょうか?》

《でも、それだと村の連中に俺の秘密がバレるぞ?》


 広範囲殲滅魔法を無詠唱で発動できる人間……。周りの人からすると恐怖の対象でしか無いだろうな。多分村には居られなくなるだろう。


《まあ、遅かれ早かれですよ。実力隠しながら邪神とやり合おうなんて虫が良すぎますよ。それに私がついているじゃないですか? 私はいつでもどんなことがあっても響介さんの味方ですよ!》


 んー……なんだろう。いいこと言っているはずなんだけど、こいつが言うとなんか心に響かんな。不思議だ。


《あー、ひどい! 私は真面目に言ったのに。傷ついたー傷物にされちゃった~。もうこれは響介さんに責任を取ってもらうしかありませんね!》

《う……、すまん。普段のお前とのギャップがありすぎてつい……な? ていうか責任ってなんだよ?》


《責任は責任ですよ。響介さん覚悟してくださいよ? 使徒になってバリバリ働いてもらいますよ?》

《えーそれは勘弁って、そろそろ村に着くぞ》

《え、ちょっと……むー》


 アストレイアと念話でやり取りしているうちに村に到着した。トビーも後に続いて村に入る。


「ぼ、坊主……走るの早すぎないか? さっきの回復魔法といい、色々とすごいなお前」

「ああ、鍛えているからな。これくらいなら朝飯前だ」


 村に入ると、村人が何人か(いぶか)しがりながらも姿を表す。まあ、こんな片田舎に外から来客が来るのは珍しからな。行商人とかはちょこちょこ来るけど、トビーみたいな騎乗して鎧を着た男が来ることはまず無い。警戒のこもった目線をトビーに向けている。


 その視線に気づいたトビーは馬から降りた。


「俺はとなり町のリューゼからきたトビー、冒険者だ。この村の村長と話しがしたい。非常事態、緊急の話だ。すまんが誰か取り次ぎを頼む」


 トビーがそう叫ぶと、村人の何人かが話し合い、一人が走って村の奥の方へ消えていった。村人の一人が口を開く。


「今村長を呼びに行った。少し待っていてくれ」

「了解した。協力に感謝する」


(おい、フェイト。こいつは一体誰なんだ?)

 村長を待っていると村人の一人が俺に近づき、トビーに聞こえないくらいの声で俺に聞いてきた。この村で唯一の店、雑貨屋を営んでいるマルコだ。年は40歳くらいかな。


(この先の原っぱで会った。魔物の群れが迫っているって言ってたな)


 マルコの表情が驚愕に染まる。


(なに!? 魔物? ヤバイんじゃないかそれ? じゃあオスカーも呼んで来るぞ)

(ああ、それがいいかもしれない)


 オスカーとはディアナの親父さんの事だ。元凄腕の冒険者、ランクはAだったらしい。ランクはSが最高なのでAは相当なレベルだ。見た目はかなりゴツい。初めて見たときド◯ルさんかな?って思ってしまった。ビグ◯ムに乗って叫んだりしたら似合いそうだ。というか、美人なディアナがこの親父さんの遺伝子を受け継いでいるとはとても思えないんだよな。ミ◯バ様と同じく、ディアナもお母さん似なのだろう。良かったねディアナ。ちなみにディアナのお母さんも元Bランク冒険者。魔法使いだったらしい。名前はフェリシアさんです。


 マルコはオスカーを呼びに走っていった。オスカーさんはこの村最強の剣士だからな。呼んだ方がいいよね。


 程なくして村人に連れられてこの村の村長ロバートさんがやってきた。ロバートさんは本職が神父なので、神父服に身を包んでいる。元々王都からこの村の教会に派遣(左遷じゃないのかな?)されてきた人だ。教養が高く面倒見がいいので、村人から頼まれて村長仕事も兼任している。


 ちなみにこの世界の宗教はアストレイア教がほぼ唯一の宗教と言っていい。この村の教会もアストレイア教の教会だ。アストレイア……そうあの堕女神を創造神として崇め祈っている宗教なわけなんだけど、だぶんアストレイアの本性を知れば一気に瓦解する事は間違いないと思う。毎日真面目に祈りを捧げているロバートさんや信者が不憫でならない。


《響介さ~ん。聞こえてますよ? なんか最近私の扱いが酷くないですか?》

《いや、気のせいだ》

《むー、まあ別にいいですけどね》


 少し間を置いて、マルコとオスカーさんも駆けつけた。そのオスカーの姿を見てトビーが驚く。


「あ、あなたはまさか元Aランク冒険者、剛剣のオスカーさんですか!?」


 あらら、ディアナの親父さんって二つ名持ちだったのか。てことは相当高名な冒険者だったんだな。……俺もいつかは二つ名付くかな? 中二っぽいのは嫌なんだが。


《やっぱり魔王が一番しっくりきますね。魔王フェイトいい響きじゃないですか》

《魔王は却下な》

《そんなこと言っても二つ名なんて周りが自然に言い始めるだけなので、どうなるか分かりませんよ。ああ、私が聖女さんに神託を授けるっていうのもありですね》

《いや、無いから、やめろよ? 絶対にするなよ?》

《それは、押すな! 押すなよっていうフリですか?》


 俺は緊張感のないアストレイアの声に半ば呆れながら。


《違うから、頼むから勘弁してくれ……》


 と、答えるのだった。この二人の何気ないやり取りが後の騒動を生むことになろうとはまだ誰も知らない。……と、ちょっとフラグっぽい事を言っておく。

 えっと、ちょっと話が逸れたけど、トビーとオスカーさんの会話に戻る。



「ああ、昔は剛剣と言われたことはあったが、既に冒険者は引退している。腕もだいぶ鈍った」


「それでも剛剣が一緒だとは心強い。実は……」


 トビーは魔物の件について村長、オスカー、他の村人たちに説明する。


 ちなみに俺達が住んでいる国エレクトラ王国の北側には魔物が支配する通称「魔の森」と呼ばれる広大な森がある。リューゼの町はその魔の森との境界付近に存在し、魔の森からたまに出てくる魔物を駆除して生計を立てている。魔物の毛皮や牙は素材として役に立つため、冒険者も多く訪れるのだそうだ。

 普通、魔物は散発的にしか魔の森から出てこないのだが、今回は一気に洪水のように押し寄せたらしい。別にリューゼは城塞都市というわけではない普通の街だ。冒険者も何名かいるだろうがひとたまりもないだろう。


「そ、それは一大事ではないですか」


 うろたえる村長ロバート。性格は優しそうな典型的神父さんであるため、あまり気は強くなく、声が震えている。平時は村人をまとめられるいい村長なのだが……。

 周りにいる村人たちも徐々に顔色が青くなっていく。


「うむ、今すぐ戦える者を集めて魔物に備えなければならん。トビー殿も御手を貸して頂けるか?」


 おお! 魔物の群れが迫っていると聞いても物怖じしないとはさすがオスカーさん。


「ああ、手を貸すのは問題ないが、魔物の数は百ではきかない。いかに剛剣といえども防ぎきれるものではないぞ。早く避難した方がいい」


 まあ、正論だな。この村に戦える者は少ない。あっという間に呑み込まれ蹂躙されるだろう。


「ならば、俺が皆の逃げる時間を稼ぐ、トビー殿には避難する村人の保護と誘導を願えないだろうか?」


 オスカーさんかっけー。男の中の男だな。


「!? いや、それでは……剛剣の旦那はどうなる?」

「俺のことはいい、とにかく村人の避難、安全が最優先だ。誰かが時間を稼がねば魔物から逃げ切れない」


 くぅー、俺のオスカーさん株の上昇が留まることを知らない。オスカーさんマジかっけー。どこぞの堕女神とは大違いだ。


《…………》


 念話による無言の圧力が来たが無視する。


《こんないい親父さん死なせるワケにはいかないよな》

《そうですね。それにディアナちゃんを悲しませたくはありません》

《決まりだな》


 と、その時


「グオオオォォン!」

「ブモオオオオオオォォー!」


 北の草原の方から気味の悪い魔物の声が響いてきた。


「!? ま、まさかこんなに早く来るとは……」


 どうやら迷っている時間はなさそうだな。



次回は初の戦闘描写。うまく書けるかどうか分かりませんがよろしくお願いします。


またTwitterはじめました。よろしければフォローお願いします。

https://twitter.com/motokazuhiro

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