十四話 月下の大捕り物(2/2)
「再度確認するが、あくまで救出が最優先だ。姫様を人質にされたら厄介だから慎重に、素早くな」
「了解!」
隣のディアナが頷く。剣を握るその手にも力がこもっている。相当気合が入っているようだ。よし、そろそろ出るかって、あれ? 誰か殴り込んできたぞ?
「どうぉりぁぁ! 獣人の姫が捕らえられているってのはここかぁ!」
あれはトリスタンじゃねぇか。こっちは慎重に出るタイミングを伺っていたのにあのバカ、何やってんだよ。
「む!? お前は何者だ? なぜ獣人の姫の事を知っている?」
突然のトリスタンの乱入に驚くレイナードとリプセット辺境伯。
「へっ! 俺にかかればお前らの考えなどお見通しだ! それから俺の名はトリスタン! よく覚えておくんだな!」
全てはアリスンさんの手柄だろう。何言ってんだこいつ。しかも名乗りやがったし。でもまあいいか、どうせすぐ王族派の仕業だって分かるだろうし。
(ディアナ、作戦変更。トリスタンが暴れている間にお姫様を救出する)
(分かったわ、フェイト)
「何をわけの分からんことを! ええい、お前達こやつを殺せ!」
「「「はっ!」」」
護衛の兵士達がトリスタンを取り囲む。よし、お姫様に付いている兵士は二人だけになったな。
「悪いけど気絶させてもらう【スタン】」
「ぐ!? ぐわぁぁ!」
兵士二人はうめき声をあげ、バタバタと倒れる。
【スタン】はその名の通り、スタンガンを真似して高電圧で対象を気絶させる魔法だ。相手に致命傷を与えることなく無力化できるため対人戦において非常に有用だと思う。……高火力の攻撃魔法も良いんだが、俺はこういう小細工が好きなんだよな。
その隙きを突いて【アクセラレート】をかけたディアナが電光石火のスピードで お姫様を確保、即座に縄を切り、猿ぐつわも外す。
「ぷはっ! あ、あなたは?」
「私たちはあなたを助けに来たの。もう大丈夫よ」
「な! なに? まだ仲間が潜んでいたのか?」
「ちっ! 油断した」
トリスタンに注意が向いていた一瞬のうちに大事な姫が奪われ、狼狽えるレイナードとリプセット辺境伯。
「く、貴様らこんな事をしてただで済むと思うなよ!」
「お前ら何をしている。さっさと奴らを始末せんか」
「は、はい」
リプセット辺境伯の号令の下、配下の魔法使い部隊が魔法の詠唱に入る。
「炎の精霊よ、我が手に集い来たりてーーー」
「大気よ、鋭い刃と化し、彼の者をーーー」
「はい、残念。【スタン】!」
しかし、俺の無詠唱魔法の方が遥かに早い。俺の放った【スタン】で感電し、次々と倒れていく魔法兵達。
「ぐぎっ!」
「がはっ!」
その様子を見て青ざめる親玉二人。
「魔法を無詠唱で……貴様はまさか、レーニアの英雄か!」
「ああ、その通りだ。俺も有名になったもんだな」
と、余裕綽々と登場する俺。うん、決まったな。
「どおりゃぁぁ! 俺のことも忘れてもらっちゃ困るぜ! お姫様を離せって、あれ? もう助けちゃたのか?」
トリスタンが囲っていた兵士達を蹴散らす。トリスタンは魔力で身体能力を底上げしている上に、無詠唱の【プロテクション】を常にかけている。この状態のトリスタンに物理的にダメージを与えられる者はそうそういないだろう。トリスタンはこの硬さを活かした突撃攻撃を得意としている。単発の攻撃力ではディアナに軍配が上がるが、突破力においてはトリスタンがパーティ内で随一だ。俺達のパーティもだいぶ化物化してきたよな。
「く、くそう、俺の出番が……ええい、こうなったら暴れまくってやる!」
「くっ、まだだ。この程度で勝ったと思うなよ。炎の精霊よ、我が盟約に従い、猛る灼熱の炎で我が敵を喰らい尽くせ!【エクスプロージョン】!」
ジェイルが【エクスプロージョン】をトリスタンにめがけて放ってきた。さすがは魔術師団団長を排出している一族の主。ジェイルの魔法の腕は相当に高いのだろう。魔法の発動が他の者に比べて格段に早い。だがしかし、所詮は詠唱、魔法陣を用いての魔法。俺に通用するわけがない。
俺は以前ケルソに対してやったように魔力の動きを察知して【エクスプロージョン】の爆心点に窒素を展開、魔法の起動を阻害する。
「なに!? 【エクスプロージョン】が発動しないだと! そんなバカな……一体どうやって」
自分の魔法を阻害されて狼狽えるジェイル。
「さあ、後はお前さん方、二人だけだぜ! 観念しな!」
「ひ、ひぃ……寄るな! 化物どもめ!」
トリスタンの方もあらかた片付いたようだ。レイナード配下の兵士達は皆蹴散らされ既に戦闘不能状態だ。致命傷の者もいるかもしれないな。南無。
「フェイト。こっちの仕事終わった。そっちはどう?」
と、そこにエレーナがひょっこりと現れる。
「ああ、エレーナご苦労さん。こっちももうそろそろ終わりだ」
「そう、さっさと終わらせて帰ろう。もう眠い……」
そうだよな。俺もさっさと終わらせて帰りたい。
「な、何がどうなっている。そっちの娘は何をやったのだ?」
「お前達が幽閉していた獣人奴隷100人を解放しただけだが。それがどうした?」
「なに? あれは俺の物だ、貴様! 人の財産に手を出してただで済むと思っているのか」
「あれ? この国の法律では奴隷は禁止されているんじゃありませんかね? 俺は何も間違ったことをやっちゃいませんよ?」
「くそ、忌々しい奴らだ……」
「なあ、この二人どうするんだ? フェイト。殺っちゃうのか」
「そうだな。こんな人の命をなんとも思ってないような奴らは生かしておく価値ないよな」
そう言いながら俺とトリスタンは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと二人に近づいていく。
「お、おい。やめろ! 命だけは……そ、そうだ。お前らが欲しいのは金か? 王族派にいくらで雇われた? 俺ならその二倍……いや、三倍は出そう。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」
追い詰められた悪役が吐く定番セリフ頂きました。ありがとうございます!
「こんなこと言ってるけど、どうするよフェイト」
「と言っても、金は要らないしな。欲しいのはこいつらの命だけだ。いや、ただ命を取るだけじゃ生ぬるい。俺の魔法で死ぬよりも恐ろしい目に会わせてやろう」
クックック……わざとらしい下卑た笑いを漏らす俺。それを聞いたレイナードとジェイルの二人の顔が恐怖に引きつる。
「まずはレイナード、貴様だ。さあ恐怖に慄くがいい!」
「ひ、ひぃぃ! お助けを!」
「くらえ【ゼロフリクション】」
普通に【ゼロフリクション】を食らわせても良いのだが、それでは芸がない。俺は効果範囲をレイナードの頭部だけに絞って魔法を発動させる。すると、ふぁさっと音を立て、レイナードの被っていたお帽子……もとい、ズラが摩擦力を無くし、頭部に留まることができなくなったため地面に落ちる。
あ、やっぱり。ひと目見たときから怪しいと思っていたのだ。あれだけ脂ぎって不衛生そうなのに髪の毛だけはフッサフサだもんな。
倉庫の天窓から差し込む月の光に照らされ、レイナードのツルツルの頭皮が怪しく光り輝く。当のレイナードは何が起こったのか理解できず、恐怖で尻餅をつき呆けている。……あ、こいつ失禁しやがった。汚いやつだな。
「ギャハハハ! こいつズラだったのかよ。フェイトもやることがひどいぜ!」
「プッ、ククク……ねぇフェイト。も、もうちょっと真面目にやろうよ……ププッ」
大笑いするトリスタンに、必死に笑いをこらえるディアナ。
「お、おのれ……貴様らぁ!」
ようやく自分達がコケにされたことに気が付いたレイナードとジェイルの二人は、激昂し顔を赤く紅潮させる。
「よくも。よくも! このレイナードにこんなことをしてタダで済むとーー」
「そのセリフ何度目だよ。はい【スタン】」
「あばばっ!」
「ひでぶっ!」
哀れ。【スタン】で感電し、意識を失う二人。ちょい強めにかけたので完全に白目を剥いている。僅かに残っていた頭髪もちょっと焦げてしまった。毛根にとどめを刺してしまったかもな。
「うわぁ……相変わらず容赦が無いよなフェイトは」
「こんなゲス、これくらいがちょうどいい」
「でも、これはさすがに同情するかな……」
こんなやつに情けをかける必要はないんじゃないの?
「さて、こいつらどうしてくれようかな……」
「え? まだ何かするの?」
「おい、まさかアレやるのか? 例の再生魔法」
再生魔法? ああ、アレか。【エクスヒール】のピッ◯ロさんバージョンね。でもな、こいつらを拷問しても邪神に関する情報は引き出せそうにない。邪神の気配や邪気が全く感じられないからだ。使徒にとってもこいつらは単なる捨て駒だろう。
「いや、そんなものより、こいつらにおあつらえ向きの良い方法があるぞ」
俺はニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。それを見た三人は顔を引きつらせた。
「フェ、フェイト……程々にね?」
「ああ、別に命は取ったりしないから安心して欲しい。でも死んだ方がマシと思えるような恥辱を味あわせてやるけどな」
さて、堕女神に代わって、お仕置きよ♡




