十一話 弟子ができました
「え? あんた魔道具も作れるの? ウソでしょ? 私が何十年かけて研究しても実現できる気配すらなかったのに……」
「あ、いや。なんかすまん。でもできちまったもんは仕方ないだろ」
がっくりと床に手をつきうなだれるカレナリエン。
ちなみにあの後、カレナリエンは罰として課した魔力反復操作1000回をクリアし、昼食を一緒に食べた。そこで魔道具の話になったので冒頭の会話のような展開になったのだ。
「私のこれまでの研究人生が音を立てて崩れてく……ぐふ」
無詠唱の時はそれほどでもなかったが、魔道具の方のダメージは相当のようだ。どうもカレナリエンの研究テーマは魔道具の再現がメインだったらしい。
「私はもうダメ……こうなったらあんたに責任を取ってもらうしかない」
「おいこら、どうしてそうなる? 関係ないだろう」
こいつはスキあらばそっち方面に話を持っていく。いちいち面倒くさい。
「カレナちゃん。冗談でもそういうことはやめようね」
ディアナがちょっと顔を引きつらせつつ釘を刺す。お昼食べてる間に少し打ち解けて『カレナ』の略称で呼ぶようになった。ちゃん付けで妹みたいに接しているが……年は多分カレナリエンの方が上なんだろうな。聞いたりはしないけど。
「ボクは別にいい。フェイトはハーレム王になる男だし」
「誰がハーレム王だよ。変なこと言うな」
エレーナを連れてきたのは失敗だったかもしれん。話がややこしくなる。
「じゃあ、私もお邪魔しちゃおうかな」
「お前もそんな近所の友だちの家に遊びに行くようなノリで言うな!」
まさかな? こいつはどこまで本気なのかよく分からん。
俺はため息をつき、頭をかきながら、
「あーもう。そんなに落ち込むなって。魔道具の作り方も教えてやるから、それで許してくれよ」
「え? マジで? 私もできるようになるの?」
カレナリエンの表情がぱっと明るくなる。
「ああ、これも魔力操作の延長でできるから問題ない……と思う。魔道具の方は教えるの初めてだからやってみないと分からんが……」
「フェイト……優しいのはいいんだけど、それだと……」
「え? 何かマズイ?」
「むぅ、もういい……」
ディアナがなんか不機嫌だ。なぜに?
《ディアナちゃんの言う通りですよ。また殺しにいってますね》
《いや、だってしゃーないじゃないか。俺のせいでこんなにショック受けてるんだし》
《はぁ、一旦落として持ち上げるとか、なかなかの高等テクニックですね。私はそんな子に育てた覚えはありませんよ?》
《いや、そんなつもりはないし、お前に育てられた覚えもねーし》
「うーん。でももう乗りかかった船だしなぁ。魔道具の作成方法も教えてやるぞ」
「うん。わかった。じゃあこれからは師匠と呼ばせてもらうね!」
ウインクしながらそんなことを言ってくるカレナリエン。
「は? 師匠?」
「そうそう。あんたの事を師匠って呼ぶことに決めたのよ」
弟子なんて面倒くさいモノ御免なんだが。
「いや、でもお前の師匠はローミオンのやつだろ?」
「あれはもういい。師匠らしいこと全然してくれないし。研究も手伝ってくれないし。それにあんたが来てくれたこの一日だけで、私の研究10年分くらいの成果が出てしまったのよ。あなたを師匠と言わずして何と呼べばいいのか!」
拳を握りしめ立ち上がるカレナリエン。
「だからね師匠。あっちでいいことしよ?」
「だからそーいう言い回しはやめろって」
俺はカレナリエンの頭にゲンコツを落とす。
「いだっ! ……むぅ。でもこれも愛情表現の一つってことね♡」
「そうか、それじゃもっと愛情注いでやろうか?」
俺はそう言って拳に魔力を通し赤く輝かせる。久々のゴッド○ィンガー食らわせてやるぜ?
「ちょ、ちょっとタンマ! それなんかヤバそう。わ、分かったから。もう真面目にやるから」
これで少しは懲りたか。
「はぁ、そんじゃ特別講義始めるぞ。ディアナとエレーナも一応聞いとく?」
「そうね。一緒に聞くわ」
「ん。他にやることないから聞いとく」
ディアナの顔には『これ以上フェイトとカレナちゃんを二人っきりにさせちゃダメ』みたいな決意の色が見える。うう……俺ってそんなに信用ないかな?
《それはまあ、前科がいくつもありますからねぇ。信用しろってのが無理な話ですよ》
《俺は悪くない。周りがチョロインばかりなのがいけないんだよ!》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いいか? 魔道具には魔力を流せる魔力回路が刻まれてて、これを接続して組み合わせることによって、いろいろな魔法効果を道具に付与させることができるんだ」
一種の電気回路に近いんだよなこれ。回路を流れるのは電気じゃなくて魔力なんだけど。トランジスタみたいなスイッチ素子とか、魔法効果を発揮する魔法陣などを組み合わせれば色々な事ができる。
「うん、魔道具に魔力回路があるのは知ってるけど、この回路を刻む方法が分からなかったのよ」
「普通はそうだよな。そこで活躍するのがお昼前にやってた魔力操作だ。こうやって魔力の道筋をイメージしながらちょい強めに魔力を通すと……」
俺は土で作った人形に魔力を通す。
「あ! 回路ができた」
「そうそう。一度できた回路は次からは特に強く刻む事を意識しなくても魔力を流せるようになる。後は同じ要領で回路を刻んで行くと」
俺はひとしきり人形に魔力回路を刻んだ後、机の上に置き、その人形に魔力を伝達する。すると土人形はすっくと立ち上がり、テーブルの上を歩き回った。
その様子を眺めていたカレナリエンは驚きの表情でワナワナと打ち震えている。
「そんな……魔道具が、アーティファクトがロストテクノロジーがこんな簡単に再現できちゃうなんて……」
「あ、いや。なんか簡単そうにやったけど、ここまでのレベルになるまではかなりの試行錯誤があったんだぞ? 人形を歩かせるとなればかなり複雑なロジックを組まないといけないし」
「すごい! すごい! 師匠すごいよ。でもそんな複雑なロジックどうやって組むの?」
「そうだな……俺はある程度汎用利用できそうな回路を作ったり、魔道具を分解して回路見つけたりしたらそれをモジュール化して記憶しているんだ。あとは、そのモジュール化した魔力回路をロジックプログラムの様に組み合わせることでゴーレムを動かしたり、人形を歩かせたりできるようになったんだけど」
一種の集積回路みたいなもんだな。
「え……マジで? あの複雑な魔力回路を覚えたの? それ人間技じゃないよ?」
「もちろん普通にやったんじゃ無理だ。俺のオリジナル魔法【フォトグラフィックメモリー】を使って覚えているんだけど……」
「オリジナル魔法って……何? まさか自分で魔法作ってんの?」
「そそ」
「はぁ、呆れた。あんたホントに何者よ? 無詠唱魔法に、魔力操作、魔道具作成にオリジナル魔法? これ論文にまとめて発表すればひと財産築けるよ。魔法の研究が数百年分くらい一気に進むよ!」
カレナリエンは完全に興奮しきった状態で、俺の肩に手を置きガクガクと揺する。俺はディアナに助けを求めて視線を横に向けるが……あれ? ディアナのやつ俺とカレナリエンの魔法理論に理解が追いつかず、頭がオーバーヒートして放心状態になっている。エレーナの方は……寝てやがる。
「ちょ、ちょっと落ち着けカレナリエン」
「これが落ち着いてられるかっての! これは世紀の大発見よ! 私は今歴史の転換点に立っているのよ!」
「だから落ち着け」
「いだっ!」
俺はカレナリエンの頭にチョップをかます。
「落ち着いたか?」
「う、うん。なんとか……。ねえ、そのオリジナル魔法って、私にもできるようになれる?」
「うーん。やってみないと分からない。お前の頑張り次第だと思うんだが、俺のレッスンについてこれるか?」
「よし、分かった師匠! バッチコイよ!」
いや、だからなんで異世界に『バッチコイ』なんて言葉があるんだよ……。
というわけで俺はオリジナル魔法と魔道具作成についてのノウハウをカレナリエンに伝授することになった。そのカレナリエンの学習意欲は凄まじく、俺が教えることをスポンジのように次々と吸収していく。まあ、それはいいんだけど、全然帰えらせてくれない。
結局俺は徹夜でカレナリエンに付き合うことになってしまった。あ、でもやましいことは何もしてませんよ? ディアナとエレーナも一緒だったからね。最もこの二人はすぐに寝てしまったけどな。




