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十話 宮廷魔術師カレナリエン(2/2)


 そんなこんなで色々あったが、なんとか研究棟に入れた俺達。今はソファーに座り、コーヒーを飲んでいる。棟内は書物や怪しい魔道具なんかが散乱しており、正直汚い。カレナリエンのガサツな性格が窺い知れるわけだが、まあ、コーヒーを飲んで話をするだけなら特に支障はない。


 さすがにカレナリエンはちゃんと服に着替えているのだが、研究者が着るような白衣を上に羽織っている。なるほど……理系幼女エルフか。これはなかなかに新鮮で破壊力がある。ファンタジーと現代科学の融合、そしてロリと白衣のコラボ。


 これはキタかもしれない。


 それに極めつけはこのコーヒーだ。アルコールランプのような魔道具を使って、ビーカーで温めるとは、こいつ良く分かってるじゃないか。これは俺が考える研究者シチュエーションランキングのトップ3に入る事は間違いない。


 もっとも俺の描いていたイメージは、美人の白衣おねーさんがタルそうな感じで、ビーカーのコーヒーをコップに注いでいるところなんだけどな!


 俺がカレナリエンの妙なところにシンパシーを感じ、妄想にふけっていると、両サイドからの刺さるような視線に気が付く。もしかして俺の顔緩んでた?

 むー、しかたない。気を取り直して話を進めることにしよう。


「やっと落ち着いて話ができるな。改めて俺がフェイトで、こっちがディアナ、そっちがエレーナだ。よろしく頼む」

「私はカレナリエン。よろしく……で、早速なんだけど無詠唱教えてくれるのよね? ね?」


 テーブルを挟んで向こう側に座っているカレナリエンが、ソファーから腰を浮かしこっちに顔を寄せて迫ってくる。正直近い。

 隣のディアナの視線が鋭く突き刺さる。


「お、おう。さっきも言ったがローミオンとそういう約束になっているから教えてやるけど、いくつか条件がある」

「条件? なにそれ?」


 カレナリエンはソファーに座り直し、俺に続きを促す。


「まずは無詠唱魔法の悪用をしないこと」

「それくらいは大丈夫よ。私は魔法の研究にしか興味ないから」


 うーむ。『カレナリエン』って何の言語だったか忘れたが『日差し』って意味だったと思う。そんなカレナリエンが研究の虫で引きこもりとか……完全に名前負けしてるよな。まあ最もこっちの世界では別の意味なのかもしれんが。


「それからもう一つの条件は、王族派に協力することだな」

「え? うーん。正直争いごとは御免だけど。無詠唱のためなら仕方ないね。うん、協力するよ」


 カレナリエンは少々難色を示したものの、王族派への協力を約束してくれた。なら次は俺が約束を守る番だよな。無詠唱のレクチャーか、昨日もローミオンにやったばかりなんで正直気が進まないが、やるしかないよな。


「よし、じゃあ交渉成立だな。とりあえず今からレクチャー始める? お前徹夜明けなんだったら日を改めるか?」

「もちろん今日! 今からやってもらうよ。今夜は帰さないんだから覚悟してよね」


 なんとなく意味深なセリフを吐くカレナリエン。だがそれを見逃してくれるほど、今日のディアナさんは甘くはなかった。


「私も最後までご一緒しますからよろしくお願いしますね!」

「ふーん。でも男は束縛する女を嫌うって聞くけど……あなた大丈夫なの?」


 思わぬカレナリエンのカウンター口撃に完全に動揺するディアナ。


「え? そ、そうなの? フェイト?」

「いや、だからこれはあくまで無詠唱魔法のレクチャーだって。いい加減そこから離れろ。というわけでやるならさっさと始めるぞ」


 ディアナもカレナリエンに乗せられんなよ。でも、これでやっとレクチャー始められるな。




――説明中――




「……というわけなんだけど、なんとなく分かった?」

「うーん。まさか詠唱と魔法陣が単なる魔法発動の補助装置とは思わなかったよ。そんなことどこの文献にも載ってないんだけど、どこで知ったの?」


 うーん。やっぱ出処が気になるよな。かと言ってアストレイアの名前出すわけにもいかないし。


「実は俺、ちゃんと魔法を習ったわけじゃないからさ、自己流でやってたらなんか詠唱なしでできるようになってたんだよ。詠唱と魔法陣が補助装置ってのは単なる俺の持論だから文献とかに載ってないのは当然だと思う。でも、実際無詠唱で魔法発動できてるから、間違ってはいないと思うんだけど」


 カレナリエンは少し考えるような素振りを見せた後、


「なるほどね。私は学校でみっちりと基礎の詠唱、魔法陣から入ったからなー。その発想はなかったな。先入観って恐ろしいね」


 魔法研究のほとんどはいかに詠唱を短縮するか、いかに早く魔法陣を構築するかに集約されると聞いた。つまり、俺の持論(というかアストレイアの受け売りだけど)は彼女の研究の半生を根底から否定することに他ならない。普通なら憤慨して反論したり、否定しようとすると思うんだが……思いの外あっさり受け入れたな。


 新しい考えを素直に認め受け入れる。カレナリエンは研究者としてかなり優秀なのかもしれない。俺も結構新しいもの好きなんで共感できる。まあ、性格的にサバサバしているだけなのかもしれないが。


《おやおや、カレナリエンちゃんも毒牙にかけるつもりですか?》

《ちゃかすなよ。元エンジニアとしてシンパシーを感じてただけだって》


「とりあえず、魔力の操作の方、練習してみるか?」

「そうだね。やってみる」


 さて、早速実践だ。


「お腹のところに周りから魔素を集めるイメージをしてくれ」

「ん? こんな感じかな?」


 カレナリエンはお腹に視線を落とし、集中力を高める。隣りにいるディアナはそれを見て自分が魔力操作を習い始めた時の事を思い出して復習している。エレーナはというと……あいつその辺に転がっている魔道具みたいなモノを弄って遊んでやがる。頼むから壊すなよ。それたぶん結構な値段するから。


「なんか暖かいものが集まってくる感じがしないか?」

「うん。なんかこの辺があったかい。これが……」


「これが?」

「恋?」


「ちゃうわ!」

「いたっ!」


 俺は思わず、反射的にカレナリエンの頭にチョップをお見舞いしてしまった。こいつはボケキャラなのか? まったく侮れんな。


「ボケはいいから真面目にやれ」

「へーい」


「次はその集まった魔力を右手に移動させるイメージをしてみろ」

「むーって、うひー、なんかこれ気持ち悪いよ。微妙に痛いし」


 俺の最初の頃と一緒だな。慣れないと異物が体の中を移動しているみたいでものすごく気持ち悪い。


「俺も最初は気持ち悪かったけど、魔力操作に慣れれば自然にできるようになるぞ」


 それを聞いたカレナリエンはなぜか頬を染める。


「誰でも初めては痛いけど、慣れると気持ちよくなるんだね」

「微妙に意味深な言い回しはやめてくれ」


 なに言ってんだこのエロガキは。ええい、もう余計なことは考えずにさっさと授業を終わらせよう。


「右手に移動させたら、次は左手に移動させる。そして右に、それを繰り返すんだ」

「ん、分かった! よいしょ、うんしょ、ふぅ、あ……はぁん、うふん、あん♡ ……あだっ!」


 急に悩ましげな声を出し始めたカレナリエンにチョップを食らわす。


 こいつの師匠のローミオンは暑苦しくてウザかったが、こいつはこいつでものすごく面倒くさい。二人同時にレクチャーした方が効率的だったのに、とか最初思ってたけど、別々にしてよかった。この師弟コンビを同時に相手にしてたらおそらく俺の精神が持たなかったと思う。


 ツッコミがたぶん追いつかなくなる。


 カレナリエンはローミオンを嫌っている様だが、それは同族嫌悪ってやつじゃないか? 似た者同士だと思うぞ。やっぱり師弟は似るもんだな。


「だから、そういうのやめろって。頼むから真面目にやってくれよ」


 だって、隣のディアナさんからピリピリした空気が漂ってくるんだもん。

 俺はカレナリエンに興味なんかないから、なんにもないから、分かってくれ、な? ディアナ。


「なんだか楽しそうねフェイト?」

「いや、楽しくない全然楽しくないし。これは至って真面目な無詠唱魔法の授業なんだから」


「ふーん。妬いてるのかな、ディアナさん? もしかしてマダだとか? もたもたしてると私が頂いちゃうよ?」

「ふふーん。残念でした。私達はもう、済ませちゃってるのよ!」


 ババーン! と効果音が出そうなくらい堂々と胸を張りそう答えるディアナ。おいおい、こんなガキ相手になに張り合ってんだよ。


「え、マジで? もう大人の階段登っちゃってるの? では後学のためにも、ぜひその詳細を……」

「ん。ボクも知りたい。どうやるの?」

「ちょ、ちょっと二人とも、待って……」


 迫ってくる二人にタジタジになるディアナ。あーもう俺の堪忍袋の緒も限界だ。俺が折角貴重な時間を割いて授業やってるっつーのに、こいつは!


「いでっ!」


 とりあえず俺は主犯のカレナリエンにゲンコツを落とし、


「だー!! ぜんっぜん話が進まねー!! カレナリエン! 罰としてテメーは魔力反復操作1000回追加! それが終わるまで昼飯は食わさねぇ」

「えー、そんな殺生な」


「返事は『はい』だ!」

「は、はいぃぃ……」


 涙目になるカレナリエン。自業自得だ、少しは懲りろ。



9/4 カレナリエンの描写を修正(理系幼女エルフに)

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