八話 王都のギルドマスター(2/2)
「聞けば君のパーティ全員が無詠唱で魔法を使えるそうじゃないか。ならば私に教えても大丈夫だろう? な? ケチ臭いこと言うなよ」
「んー、まあそうですね。無詠唱については大丈夫だと思うんですが、オリジナル魔法は文字通りオリジナルなので、多分俺にしか使えませんよ」
俺のオリジナル魔法は地球の現代知識を融合したものだから、ある程度物理学や化学の知識がないと使えない。それを一から教えるのは時間もかかるし……恐らく無理なんじゃないだろうか。
この世界の人に原子や分子、化学反応等を教えられる自信はない。
「そ、そうなのか。まあ、仕方ない。無詠唱だけで手を打つしかないか……」
がっくりと項垂れるローミオン。俺も元理系エンジニアだからお前の気持ちは痛いほど良く分かる。
研究者として新しいものを開発し生み出す喜びは、何事にも代えがたいものがあるからな。
「あ、いや。別に俺が作ったオリジナル魔法が特別製ってだけで、無詠唱をマスターして魔力の原理に精通すれば、ローミオンさん自身で魔法を開発することも可能になると思いますよ。それは他の誰のものでもない、ローミオンさんだけのオリジナル魔法になるはずです」
現代の科学知識を用いないものならローミオンにもできるかもしれない。
それを聞いたローミオンは目を輝かせ、両手で俺の肩を掴み揺さぶった。
「そ、それは、本当かい! フェイト君!」
「は、はい。俺の理論が正しければ大丈夫なはずです」
近い、近いっす。ローミオンさん。ツバめっちゃ飛んでるし。きたねーよ。
「いやあ、良かった。君と友達になれて本当に良かったよ。僕は宮廷魔術師としてもギルドマスターとしても君に協力を惜しまないよ!」
俺の背中をバシバシ叩きながら、ハハハと高笑いをするローミオン。
うん。やっぱりこいつ暑苦しいわ。
「あ、でも無詠唱とオリジナル魔法の悪用だけは絶対にしないで下さいね。もし悪用した場合、俺はローミオンさんを力づくでも止めますからね」
「ああ、それくらいは弁えてるよ。絶対に悪用はしないと女神に誓おう」
あー、堕女神に誓っちゃうんですね。それって俺に対しては全然意味がないんだけどなぁ……。
《うわーん……響介さんがいじめるぅ……》
なんか堕女神が言っているが面倒くさいんで無視しよう。
「あ、そう言えばお弟子さんが居ると聞きましたが、そのお弟子さんにも教えた方がいいですか?」
「そうだな、後で紹介しよう。後で怒られても困るからな。というわけで、さっそくレクチャーできるか?」
ずずいっと寄ってくるローミオン。だから近いって。
「え? 今からですか?」
「もちろんだ。善は急げというからな」
え? マジっすか。まあ、この後特にこれといった用事はなかったんだけども……。
俺は仕方なしにローミオンとマンツーマンでレクチャーするハメになった。
だって他の奴ら薄情にもどっか行きやがるんだもん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぐ……めっちゃ疲れた」
ローミオンのやつ、熱心なのはいいんだけど、いちいちリアクションが大げさすぎてウザいというか、暑苦しい。
地球にいた某熱血テニスプレイヤー雰囲気が似ている気がする。お陰でもう既に日は落ち、夜になってしまった。その間、ディアナ、エレーナ、レティシアの女子チームは王都にショッピングに繰り出しており、女子会を楽しんでいたようだ。
一方でトリスタンの方はというと「ちょっとナンパしてくるぜ」と言い残し、戦場へと赴いて行ったきりまだ帰っていない。まあ、頑張れトリスタン。骨は拾っておいてやるぞ。
で、そんなこんなで俺はやっとローミオンから開放されて、マイアが用意してくれた来客用の屋敷に戻って来たわけだ。
「お疲れ様ですフェイト様」
「え? ああ、ありがとう……ってアリスンさん? なんでここに?」
屋敷のリビングでくつろいでいると、何故かアリスンさんがお茶を淹れてくれた。
「私はフェイト様専属の秘書ですので、当然のことですよ」
またいつものように何がおかしいんですか? みたいな表情を見せるアリスンさん。いやいや、おかしいでしょう。いくら秘書だと言っても、この屋敷は王家に認められた者しか入れないはず。一体どのような伝手があって入り込めたのだろうか。やはり謎だこの人……。
「あら、やっと終わったようですわね」
「あ、フェイトお疲れ様」
「うむ、ご苦労」
湯上がりの女子チームが俺の姿を発見し、三者三様の声をかけてくる。お前らは王都を満喫して楽しかっただろうがよ。俺はあの暑苦しいオッサンにずっとマンツーマンで付き合っていたんだ。精神がガリガリ削られてもう倒れそうだ。これは後でディアナたん成分を補給しなければなるまい。
「おう、ただいま……」
俺はテーブルに突っ伏したまま、生返事を返す。
「……随分お疲れのようですわね。成果はどうでしたの?」
「ああ、さすが元Sランク冒険者だけあって飲み込みはものすごく早かった。もう初級だったら無詠唱で魔法発動できてるしな。あとは適当な課題を与えて引き上げてきた」
「フフ…、おつかれフェイト。これで王族派も戦力アップになるのかな?」
「そうですわね。お弟子さんも加えて宮廷魔術師が二人も味方についたのですからかなりの追い風になるはずですわよ。あとは……」
「Sランクの件だよな? ローミオンが大々的にSランク冒険者が誕生したことを王都で公表するって言ってたぞ」
「そのSランクの威光でどれだけ貴族派を揺さぶれるかですわね」
「まあ、そんなに甘くはないと思うけどな。あっちは財布握ってるんだし」
「そうですわね。やはり最後にモノを言うのは財力ですわね」
王族派に味方が少ない原因の最たるものがカネの力だと思う。俺に明確な報奨を提示できなかった事からも明らかだ。貴族達も慈善事業でやっているわけではない。家の発展のため、自身の出世のために動いているのだから、明確な見返りが期待できない王族派に付くのはよほど酔狂な者しかいないだろう。
あとはジークフリートみたいな下心丸出しのやつとかだな。
……別に俺は下心とかないからね。シグルーンを開放するという別の目的のために動いているだけなんだからね。
「僭越ながらフェイト様」
「え? アリスンさんどうしたの?」
俺とレティシアがあれこれ思案していると、不意にアリスンさんが声をかけてきた。
「もしよろしければ私が大臣宅に忍び込み、不正の帳簿や裏取引の証拠を押さえてこようと思いますが」
マジで? アリスンさんそんなことできんの? 一体何者だよこの人は。
「既にドミニク達に奴らの動向を探らせておりますので、もう少しで尻尾を掴むことができると思います」
え? ドミニク達もこっちに来てるの? そう言えばレーニア出る時に見かけなかったけど。
「ちょ、ちょっと待ってアリスンさん。話が急すぎてついて行けないから、ちょっと落ち着こう」
「え? そうですか? 実は事前の調査で大臣たち貴族派の奴隷の勾留場所や、取引場所と時刻を押さえているんですよ。もちろん税金を着服している不正の帳簿の在り処もです。ですから後は実行するだけの状態です。フェイト様、ぜひ実行の許可をお願いできませんか」
「…………」
アリスンさん。何から何まで手回しが良くて正直怖い……。レティシアも同じことを考えているのだろう。訝しげな目をアリスンさんに送っている。だが、アリスンさんは全く動じる気配はない。
「分かった。俺達にとっても願ってもないチャンスだし、これだけ色々と手を回してくれているのに実行しないのはもったいない。ただし、アリスンさん達だけでは心配だから、俺も作戦に参加する。俺は隠密系と相手を無力化する魔法を幾つか持っているから必ず力になれるはずだ」
俺の返事にぱっと花が咲いたように表情をほころばせるアリスンさん。
「フェイト様! ありがとうございます! この生命を賭してでもこの作戦成功させてみせます!」
「あ、いや。命は大事にしようね。くれぐれも無理はしないでね」
俺のために命をかけるとか言わないで欲しい。
「はい、では二日後の夜作戦を決行します」
「え? そんなに早く?」
「二日後大臣がある大口の取引に臨むということで、屋敷の警備が薄くなるのです。襲撃するのであればその日がベストかと。そこで私が取引の現場を押さえ、ドミニク達が屋敷に忍び込む予定でした」
わーお。用意周到でございますね。アリスンさんだけは絶対に敵に回しちゃいけない気がする。
「では、俺はどうすればいい?」
「そうですね。私と一緒に取引現場に来て頂けませんか? 私一人では少々不安でしたので」
アリスンさんの実力は分からないが、一人でやろうと思ってたのか……。
「分かった。ドミニク達の方は大丈夫なのか?」
「恐らく、大丈夫だと思います」
まあ、奴らもBランクの冒険者だ。それなりの修羅場は経験しているだろうし、任せても大丈夫だろう。……腕だけは確かだからな。
「フェイト。私も協力するよ」
「え? だってディアナ。これは冒険者の仕事とは違って人を相手にしなきゃならないんだぞ?」
「でも、それでも。フェイトが頑張っているのに一人で待っているのは嫌だよ」
ディアナの実力なら余程のことがない限り大丈夫だとは思うが……。
「そうは言ってもな」
「じゃあ、ボクも行く!」
エレーナがしゅたっ! と手を上げる。エレーナも一緒なら安心かな?
「それならば、私がドミニク達と屋敷の方に向かいましょう。取引現場を押さえるのはフェイト様にお任せします」
「……仕方ないな。くれぐれも無茶はするなよ。危ないと思ったらすぐ逃げるからな」
「分かったわ!」
「分かった!」
「わたくしはそういったことはできませんからお留守番してますわ」
「ああ、そうだな。悪いが一人で待っていてくれ」
……あれ? そう言えばトリスタンがいないな。あいつまだナンパしてんの?




