六話 最強魔法使いの誕生?
《ぶっちゃけると魔法はイメージ次第でどうとでもなっちゃうんですよね》
約一ヶ月の魔力操作訓練を終えて、俺は次のステップ……アストレイアの魔法理論のレクチャーを受けている。
ここ一ヶ月毎日魔力操作の訓練していたおかげか、魔力の扱いにはだいぶ慣れてきた。瞬時に魔力を右手に集めることもできるようになったし、強弱も思いのままだ。体全体に満遍なくうすく魔力を循環させ体全体の身体を強化する事もできる様になった。
部分的に腕だけを強化なんて芸当もお茶の子さいさい。
今ならゴブリンも腹パン一発でKOできると思う。
ちなみに今は自分の部屋で訓練している。魔力が暴走することもなくなったので家でやっても問題ない。
《イメージっていうけど具体的にどうすればいいんだ?》
イメージと言われてもふわふわしてて良く分からない。何を思い描けばいいのだろうか。
《響介さんの魔力操作はほぼ完璧なので、後は魔法の発現だけですね。とりあえず指先に魔力を集めて、ロウソクの火を灯すイメージしてみてください》
言われたとおり指先に魔力を集めて火が灯るイメージをしてみる。もう最初の頃のような気持ち悪さや違和感はない。完全に慣れてしまった。うん、実に自然だ。
《お、指先に火が灯ったぞ》
俺の指先で小さな火がゆらゆらと揺れている。
《はい、よくできましたー。次は空気中にある酸素を集めて、その火に送るみたいな感じのイメージをしてみてください》
お? 酸素? あまり高濃度になるとヤバイことになりそうだから、俺は酸素濃度を30%くらいに濃縮するイメージをしてみて、その空気の塊を指先の火に送ってみた。すると火は明るく、大きく燃え上がった。高さ数センチだった炎が十センチ以上になっている。色も青いガスバーナーみたいな感じだ。多分温度も上がっていると思う。
「おーなるほどな。こうやってどんどんアレンジしていくんだな」
とつぶやきながら俺は供給する酸素の量を増減し、炎の大きさや色を変えてみる。
《はー。相変わらず理解と飲み込みが早いですね響介さん》
と、感嘆のため息を漏らすアストレイア。
《まあな》
こういうのは好きだし得意だ。
《ざくっと説明すると、魔法って事象へ干渉してその事象を書き換えることなんですよね。魔力でイメージした通りに無理やり現実を書き換えてしまうんです》
え? それだと魔力でなんでもできるってことになるんじゃないか? なんか怖いんだけど。
《なんかサラッととんでもないことを言っているような気がするが……》
《そんなことないですよ。魔力が小さいと干渉できる事象、書き換えられる事象に限界があります。なんでも好きなようにできるというわけではないですよ。もっとも響介さんの魔力ならどうなるか分かりませんけどね》
ふむ。俺の魔力そんなにすごいのか? そんなチート貰った覚え無いんだが?
《さらに現代の魔法では詠唱と魔法陣による制約がありますからね》
《制約? なにそれ?》
制約……縛りプレイか。
《詠唱と魔法陣は確かに魔力の弱い人でも魔法を発現し易くなる効果はあるんですけど、逆に言うとそれ以上の事はできなくなるんですよ》
えー。マジかよ。詠唱と魔法陣、ちゃんと仕事しろよ。
使えなさすぎだろ。
《つまり、アレンジとか応用が効かないということか?》
《そうです。型にハマっちゃうというか。【フレイムランス】だったら詠唱と魔法陣によって定義された形、温度、威力の上限が設定された状態でしか発現できないんですよ。たとえば詠唱と魔法陣で【フレイムランス】を複数同時発動とかは無理ですが、無詠唱の響介さんならできると思います》
うわー、チートだチートだ。俺はこの世界で魔法使いの王になる!
《魔法使いの王……略して魔王ですか?》
アストレイアはニヤリと笑った……気がした。だって見えないし。
《!? いやっ! 魔王はやめてー!》
魔王とか最悪すぎる。というか、この世界に魔族とか魔王っているのかなぁ。邪神がいるくらいだから居てもおかしくなさそうだけど。今度聞いてみるか。それよりも、こいつ俺の思考全部読んでいるのか? めっちゃやりにくいわ……。
《はぁ、なるほどな。それから以前からお前が言ってた地球の知識の融合ってのは、さっきやった酸素とかのことなのか?》
《そうですね。空気が窒素と酸素の混合気体だなんてこの世界の人は知りませんし、炎が燃える原理も当然知りません。さっき、魔法は事象への干渉と書き換えだと言いましたが、当然干渉する事象、書き換える事象が少なければ少ないほど投入する魔力を減らすことができるんです。魔力の運用効率が良くなるって事ですね。その浮いた分の魔力は威力向上に回したりもできますよ》
そりゃまあ、この世界って文明レベルが中世ヨーロッパくらいだからな。物質が原子や分子で構成されているなんて思いもしないだろう。
《ふむふむ。なるほど。で、このことについて邪神は知らないんだな?》
《知らないと思いますよ。邪神はこの世界からは出られないので。まあ、こっちの管理権限を完全に掌握してしまうと、地球に高飛びって事ができちゃうかもしれませんけど……》
《え……、それってやばくない? もしかしてあまり時間ない?》
《んーまだ、多分大丈夫……です?》
うあ……めっちゃ不安だが、今焦ってもどうにもならんしな。アストレイアの魔法理論を極め、力を身につけなければ邪神に返り討ちにあうだけだ。
さて、要点をまとめようかな……この世界の魔法は魔力でゴリ押しして事象を無理やり書き換えているだけの完全な力技。魔力の扱いも非効率的で、あまりに無駄が多すぎるってことだな。で、そこにある程度の科学、物理現象を正しくイメージし、実行させることによって魔力の運用効率を上げるというわけだ。
例えば爆裂魔法だと、魔力をそのまま可燃性のガスに変換し発生させるよりも、元から存在する空気中の水を電気分解して、可燃ガスである水素を生成させる方が、投入する魔力量を抑えられるということだ。これなら同時に酸素も得られるから一石二鳥だな。
おお~、これはすごい。前世で俺は理数系のエンジニアだったから、こういうのは得意中の得意だ。
例えば酸素を操作できるのなら、対象となる相手の回りの酸素濃度をゼロにしてしまう事も可能なんだろう。なんかどこかで無酸素の空間に放り出されると息苦しなるんじゃなくて、即座に失神するって話を聞いたことがある。魔物相手にはどうかは分からないが対人戦ではかなり強力かもしれない。気軽に試せないけどね。あと、相手の火魔法も無効化できそうだ。
ふむ……可能性は無限大だな。これを突き詰めれば世界征服できちゃうかもしれない。あ、でもそれはマズイ。ホンマモンの魔王になっちまう。
《あ~もしもし? ちょっと怖い顔になってますよ響介さん?》
なんか無意識的に悪どい笑みを浮かべていたようだ。ヤバイヤバイ。
《あ、わるい。ちょっといろいろと何ができるのか考えてた》
今おそらく、アストレイアはジト目で俺を睨んでいるんだろうな。念話じゃわからないけど。
《これを響介さんに教えてよかったものかと後悔してます……うーん。大丈夫かな?》
俺は慌てて答える。
《いや、大丈夫。大丈夫だから! 悪いことには使わないって。ちゃんと邪神を倒すための力として有効活用するから》
《ほんとに~?》
《本当だって》
《まあ、私としては邪神さえなんとかして頂ければ、響介さんがこの世界でどれだけ暴れようが、無双しようが、ハーレム築こうが全然問題ないんですけどねー》
悪い子がここに居ました。というか、最後のは余計だろう。ハーレムなんかやんないよ? ほんとだよ?
《邪神がどうにかなったらおまえはどうする気なんだ? 元の自堕落な生活に戻るのか?》
《う……それはさすがに今回の件で反省しました。心を入れ替えて真面目に清く正しく女神しようと思います》
《お? 殊勝な心がけだな? ちょっと見直したぞ?》
俺の中のアストレイア株が少しだけ上昇した。
《というわけで、響介さんを私の使徒にして、邪神討伐後は地球とプライアスの管理を丸投……じゃなかった、お願いしようかなと考えてます♪》
《うぉ~い! 今丸投げって言おうとしなかったか? 全然反省しとらんやないか!》
俺の中のアストレイア株が急降下、ストップ安である。もう上がることは無いかもしれん。上場廃止だ。
《私の使徒になると色々特典が付いてお得ですよ?》
《やだよ。面倒くさい事やらされる未来しか見えないし》
いい加減にしろよこの堕女神!
これで序章終了です。
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