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七話 王都のギルドマスター(1/2)


――コンコン


「アリスンです。ギルドマスターにお客様が見えられています。このままお通ししてよろしいでしょうか?」


 アリスンさんはギルドマスターの執務室のドアをノックする。すると


「分かった。入ってくれ」


 想像していたよりも若い、男の声が執務室のドアを通して聞こえてきた。


「では、入ります。こちらにどうぞ」

「う、うん。ありがとう」


 アリスンさんに案内されて、俺は執務室の中に入った。執務室の中は壁一面に本棚が備え付けられ、本がぎっしりと並べられている。本のタイトルを見る限り、魔法に関する書籍が多いようだ。そして中央付近に接客用のソファーとテーブル。奥に執務机が置かれている。また、部屋の至る所に魔道具らしきアイテムが置かれていた。もしかしたらこの部屋の主は魔法に造形が深い人物なのかもしれない。


 そしてその部屋の主は執務机からおもむろに立ち上がり、こちらを見た。


「やあやあ、王都にようこそ! 君があの噂のレーニアの英雄だね。ハルベルトから話は聞いているよ。私がギルド本部のマスター、ローミオンだ」


 妙に芝居かかった大げさな身振りで喋るその男は、サラサラの金髪ロングストレート、青と緑のオッドアイのイケメンだ。更に特徴的なのはその耳。細く尖っているその耳はこの男がエルフであることを証明していた。


「あ、初めまして。フェイトです」


 ……あー、異世界初エルフだってのに野郎かよ。どうせならキレイなエルフおねーさんの方が良かったなぁ。


「ん? なにか浮かない顔をしているね。どうしたのかな」

「いえ、そんなことはないです。どうして俺がレーニアの英雄と分かったのかと思いまして、辺境伯から話を伺っていると言ってましたが、俺まだ名乗ってませんでしたよね?」


 やば、顔に出ていたか。いけないいけない。

 なんとか取り繕えたかな?


「なるほどね。でもそれは簡単だよ。君の溢れんばかりのその魔力。それは常人のレベルを遥かに超えたものだからね」

「分かるんですか?」


 俺の問いにローミオンは人差し指を立て、チッチッチと舌を鳴らす。いちいち芝居かかったその仕草、正直ウザい。


「僕は一応エルフの末裔だからね。それにこう見えても、もう200歳を越えている。積み重ねた経験が違うのだよ」

「へー、すごいですね。自分の魔力を看破されたのはこれが初めてです」


 俺がそう答えると、ローミオンはそうだろうそうだろうと胸を張ってドヤ顔をキメる。うん。やっぱりウザイやこいつ。

 アストレイアを男にしたらこんな感じになるだろうか。


《む……それは心外です。激しく抗議します》

《それは恐らく同族嫌悪ってやつだと思うぞ?》

《ムキー、納得いきません!》


「ローミオンさん、そのノイマン辺境伯から書状を預かってますので、確認いただけないでしょうか?」

「ふむ、そうか。どれどれ」


 俺から書状を受け取ったローミオンは、封蝋を切り、内容を確認する。


「ふむ、ハルベルトも用心深いことだ、フェイト君のSランクと娘のことをよろしく頼むと書かれてあるぞ。ここまでしなくても認めてやるのにな」

「そんな簡単にSランク認定してしまって良いんですか?」


 あれ? 俺はてっきりテストとかあるのかと思ってたけど。


「先程も言ったけど、君の魔力はもう既に人間の域を超えているからね。それにハルベルトの話では無詠唱で魔法を発動し、さらに幾つものオリジナル魔法を編み出したとか。そんな人物がSランクじゃない方がおかしいだろう」


 そう言ったローミオンは、一呼吸置き、急に殺気と魔力を放ちだした。


「それとも君は僕と戦ってSランクの実力を証明したいとでも言うのかね?」

「あ、いえ。それは遠慮します。俺も争い事はあまり好きではないので」


 俺の返答にローミオンは殺気を消し、ニヤリと笑う。


「そうか、良かった。僕も君とは事を荒立てたくなかったのだよ。痛い思いをするのは嫌だからね」


 はー、良かった。一瞬こいつもレイモンドと同じ戦闘狂かと思って焦ったぞ。


「さすがは元Sランク冒険者のローミオン殿ですわね。すごい迫力でしたわ」

「君は確かハルベルトの……自分の愛娘を預けるとはフェイト君、君は余程ハルベルトに気に入られているようだね」


 預けるというか、押し付けたと表現する方が正しいような気がするんだけど……。それよりもさっきから気になっていたが、


「ギルドマスターは辺境伯とはどんな関係なんですか?」


 ギルドマスターはある程度高い地位ではあるものの、辺境伯を名前で呼び捨てにできるとは思えない。ローミオン自身も貴族というわけでは無いようだし……。


「ん? ハルベルトから話は聞いてなかったのかい?」


「いえ、これっぽっちも」

「そうか、ハルベルトも秘密主義なところがあるからね。まあ、端的に言うとハルベルトは私が冒険者時代に世話になったのだよ」


 ローミオンは冒険者時代、レーニアに居たということか。


「なるほど、昔色々とあったんですね」

「そうそう。魔物の領域、いわゆる魔の森は、昔はもっとレーニアに近いところまで迫っていたんだ。それを今の位置まで後退させたのが僕とハルベルトってワケなのさ」


 そうか、ハルベルトも昔は腕っ節が強かったのかな。確かになにか武術をやっていそうな体格ではあったけど。

 最も、今の娘に手を焼いている様子からは想像つかないけどな。


「さて、Sランク認定の件はこれで良いとして。君達の用件は他にもあるんだろ?」


 ローミオンはそう言ってにやりと笑う。

 すべてお見通しか? これが200年の人生経験のなせる技か……。


「それについては私の方からお話しますわ」

「ほう、レティシア嬢が?」


 レティシアはそう言って俺の前に歩み出る。


「はい、単刀直入に申しますと、フェイト様は王族派に加わりました。そこでローミオン殿にもご協力頂きたいのですわ」

「ふむ、それはギルドマスターとしてか? それとも……」


「もちろん宮廷魔術師としてですわ」


 え? 宮廷魔術師? どゆこと? 俺が頭の上にはてなマークを浮かべていると、ローミオンがその様子に気付いた。


「ああ、そうかフェイト君は知らなかったか。私は王都のギルドマスターをしているが、同時に王宮での宮廷魔術師を兼任しているのだよ。まあ、もっともあっちの方は弟子に丸投げしているけどね」


 宮廷魔術師とは、王宮で魔術の研究をすると共に、王族、貴族の子弟に魔法の指導をするのが主な仕事だ。また、王族のボディーガード的な事もするし、有事の際にはその強大無比な魔力を用いて敵を蹴散らすこともある。それ故、国から認められた一部の実力のある者しか宮廷魔術師にはなれない。魔術師養成学校を卒業したものが配属される魔術師団とは毛色が違う、完全に軍部からは独立した役職だ。


「え? そうなんですか? でも宮廷魔術師がどこの派閥にも属さず、今まで宙に浮いていたのですか?」

「まあな。貴族派の横暴はもちろん気に入らないが、王族派も似たようなものだろう。むしろ君の方が王族派に付く理由が分からない。レーニアの危機の際、レーニアを見捨てた王族派になぜ君たちが協力するのか、その理由について聞いてみたいな」


 俺を値踏みするような視線を向けるローミオン。

 ふむ……その疑問は最もだな。さて、どう答えたものか。この回答いかんでローミオンが味方になるかどうかが決まる……と見ていいのだろうか。


「王族派に思うところはない……といえばウソになりますが、今の王都の混乱をそのままにしておくわけにはいかないでしょう。自惚れているわけではないですが、俺にはこの戦局を動かし、解決に導くだけの力がある……と思っているからです」


「ほう……では、なぜ王族派を選んだ?」

「相対的な評価です。貴族派よりはマシだと思いました。政治に100点満点を求めても仕方ないでしょう。どちらがよりマシかを選ぶしかできませんよね」


 これは日本の選挙でも同じことが言えるよな。自分の要望を100%実現してくれる政党なんていやしない。


「君はまだ若いのによく分かっているな。でもな、選択肢はその二択しかないわけではないぞ?」

「は? それはどういう意味ですか?」


 え? 他に選択肢ってあるの? 第三勢力?


「ハハハ……まあいい。僕は君とレティシア嬢に協力する事にするよ」

「えっと、そんなに簡単に決めていいんですか?」


 王族派に協力……じゃなくて、俺とレティシアに協力なんだな。


「ああ、そのかわり条件がある。無詠唱とオリジナル魔法の秘密について教えてもらえないか?」


 あ、やっぱタダじゃだめなんすね? というか、俺たちに協力するのってそれが目的じゃないか?


《ところでエルフとかの長命種でも無詠唱は知らないんだな》

《そうですね。無詠唱が廃れたのは今から千年以上前ですからね。エルフでも知らないのは当然じゃないかなぁと思います》


 千年以上前って……それじゃ。


《え? じゃあアストレイアって何歳?》

《レディに年齢の話はタブーですよぉ!》


 一応気にしていたんだな。


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