六話 デジャヴ
「絶対反対すると思ったんだがな」
俺は王族派の面々との会談を終えた後、王女が用意してくれていた客間に帰ってきている。
「あら? なぜですの?」
「いや、だってお前の親父は中立派じゃないか。それにマイア王女や王族をそんなに好ましく思ってないみたいだし」
レティシアの父親であるハルベルトはマイア王女からの誘いを断っている。それにマイア王女とは犬猿の仲のようだ。そのレティシアが王族派へ協力する事を決めた俺になんの意見も言わない事が不思議でならない。
「あれはフェイト様に考えあってのことですわよね? ならば私に反対する理由はございませんわ」
「えー、そんなんで良いのかよ?」
なんでこいつは俺に理解があるのか……ハルベルトのやつにはギャーギャー言うくせに。
「ふふ……使徒様のお考えなど私には想像も及びませんもの」
「またそれかよ……」
ほほほ……と朗らかに笑うレティシア。額に手を当てため息を吐く俺。
こいつ本当に分かって言っているのだろうか。
「何だよその使徒ってのは?」
「何でもない。気にするなトリスタン」
お前が絡むと話がややこしくなる。頼むから黙ってろ。
「いや、そんなこと言われても気になるって」
「フェイト様の活躍、その規格外の強さは神の使徒とでも考えなければ説明がつかない……ということですわ」
「ふーん。まあ、確かにこいつの強さは異常だからな。そういう考えもありか」
それはないってトリスタン。
いや、まあ実際その通りなんだけどな……。
「フェイトが本当に使徒だったら、私はちょっと嫌だな……なんかフェイトが遠くに行ってしまいそうで……」
伏し目がちにそうつぶやくディアナ。
いやいや、あのな、こんな可愛い幼馴染放って俺がどっか行くわけないだろう。
「いや、たとえ使徒だったとしても俺はどこにも行かないからな。安心しろディアナ」
「うん。フェイト、信じてるわ」
ディアナが俺の手を取って微笑む。途端に部屋に甘ったるい空気が漂い始める。
「お前な、いちゃつくなら二人だけの時にしろよ」
「見せつけてくれますわね」
二人が半眼で睨んでくるが、もはやそれくらいで怯むような俺ではない。
「別にいいだろ。婚約したからもう夫婦みたいなもんだし。な? ディアナ」
「ふ、夫婦だなんて……フェイト、恥ずかしいわ」
顔を赤くし、身をくねらせるディアナ。
でもこれは照れているんじゃなくて、完全に喜んでいるな。ディアナも俺のノリにだいぶ慣れてきたみたいだ。
《はあ……もう完全にバカップルですね》
《前世でこんな経験なかったし、ええやんか。俺は前世で失った青春を取り戻したいんや!》
アストレイア同様、トリスタンとレティシアは呆れ果てとうとう黙ってしまった。と、そこにエレーナが、ずずいと寄ってくる。
「ボクも婚約者。ディアナだけずるい」
「お、おう。じゃあバッチコイ?」
「ん」
エレーナは俺の胸に飛び込み抱きついてきた。うん。なんだ俺モテモテじゃないか。ディアナ一筋と思っていたが、ここは一夫多妻が当たり前の異世界。郷に入れば郷に従えだ。そうだよ、何も前世のしきたりに縛られる必要はないんだ。俺はフェイト=エミリウス、地球の川本響介はもう死んだのだ。
「フェイト様? いい加減話を先に進めたいのですが?」
俺が顔をあげると、そこには顔をひくつかせて怒りを露わにしているレティシアの姿があった。
あ、すみません。調子に乗ってしまいました……。
「まあ、とりあえずはこれからどうするかを考えないとな。勝手なことしたらあのジークフリートってやつに怒られそうだけど、あいつの顔色を伺ってても仕方ないよな」
「あの男も下心丸出しでしたわね。王族派は碌な人材がいないと見えますわ」
呆れてため息をつくレティシア。まあ、確かにあれでは味方にいない方がマシかもしれん。無能な味方は敵よりも厄介だと言うしな。
「となると、まずは他に味方になりそうなやつに声をかけていくとか?」
トリスタン。お前脳天気に言ってくれるけどな……。
「味方になりそうとか言ってもなトリスタン。王族派と貴族派の勢力図ってもう固まってるようなもんだろ? 今更工作かけても意味無くないか?」
「それでしたら一人だけ心当たりがありますわ」
「え? レティシア、マジで?」
「ええ、でもどのみちフェイト様は、その人物と会う予定でしたわね。では、早速向かいましょうか」
そんな予定あったっけ? と思いながらも、俺達はレティシア連れられてある場所に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっと、これってギルドじゃないの?」
「見ての通りですわね」
レティシアについて行ってたどり着いた場所、それは王都にある冒険者ギルド本部だった。レーニアのギルドもなかなかの規模だと思ったが、さすがは王都。レーニアのギルドよりも遥かにでかい。ジャ◯コくらいはあるんじゃないだろうか。建屋も三階まであり、出入りしている冒険者の人数もハンパない。
「ギルドに用事って……ああそうか、暫定Sランクの件か」
俺がそう言うと、レティシアは一通の書簡を取り出し、俺に見せた。その書簡にはノイマン家の家紋が型どられた封蝋が施されている。
「お父様直筆、Sランク認定の推薦状ですわ。これを実の娘である私が持ってきたとあれば、ギルドマスターも無下にはできないはずですわよ」
にっこりと眩しい笑顔をしながらウインクしてくるレティシア。まずいな、借り作りっぱなしだぞ。
「だけどこれと味方を集める事がどう繋がるんだ?」
「それはマスターに会ってみれば分かりますわ」
ギルドを味方にするのか? しかしギルドはあくまで冒険者のために存在する組織だからな。王族、貴族の権力争いに首を突っ込むものなんだろうか?
首を傾げながら思案している俺を置いてギルドに入っていくレティシア。俺は慌ててその後を追って行くのであった。
ギルドの中は体育館くらいあるホールの奥に受付カウンターがあり、冒険者が列を作って並んでいるのが見えた。脇には魔物の素材を受け付けるコーナーが設けられている。一瞬、食堂や酒場は併設されていないのかと思ったが、案内板を見るとどうも二階に食事ができるフードコートみたいなものがあるようだ。明らかにレーニアのギルドとは規模が違う。
さすがはギルド本部。なんか圧倒されてしまった。
俺はお上りさんの如く、ギルドホールでキョロキョロ、ウロウロしていると不意に聞いたこがある声で呼ばれた。
「あ、フェイト様! 王都に到着されたのですね。こちらですよ! こちらのカウンターにお越し下さい!」
って、あれアリスンさんじゃん。ここ最近姿が見えないと思ってたらなんで王都のギルドで受付やってるの?
そのアリスンさんはレーニアの時と同じように『受付終了しました』のボードをカウンターの上に置き、前に並んでいた冒険者たちをその眼光と、無言のプレッシャーで蹴散らしたあと、しっぽをブンブン振りながら俺を手招きしている。
「おい、あれアリスンさんだよな? なんでこんなとこにいるんだ?」
「いや、俺の方が聞きたいんだけど」
そして案の定、ホール中の注目を浴びる俺。なんで俺はどこのギルドでも悪目立ちすることになるんだ……。
「なんだあのひょろい若造は。なんでアリスンさんの特別対応を受けられるんだ?」
「最近現れた俺らのオアシス、アリスンちゃんにあんなに親しく声をかけられるなんて……」
「毎日通っている俺だって名前で呼ばれたことないのに!」
さすがアリスンさん。もう王都でファンができているのか。それにしてもレーニア同様、不本意な噂がここ王都のギルドでも蔓延するのだろうか……。アリスンさん、頼むからお手やらわらかにお願いしますよ。
「ア、アリスンさんお久しぶりです。なんで王都のギルドで受付を?」
「はい、北方の平定の最中、フェイト様が王都に行くかもしれないという噂を小耳に挟みまして、それでマスターに王都への異動届を出したんです」
え? 俺って王都に行く事を周囲に漏らしてたっけ? アストレイアとしか話してない様な気がするが……でもアリスンさんだからな。獣人の嗅覚で察知したのかもしれない。どうもこの人には常人には計り知れない妙な力があるような気がするんだよな。
……というかこれ、よく考えたらほとんどストーカーじゃないかな?
これは推測だけど、レーニアでの仕事はまたハンナさんに押し付けて来たんだろうな……。やけ酒飲んで不貞腐れているハンナさんの様子が目に浮かんでくるようだ。
「そ、そうですか、俺のためにそこまでして頂かなくても……」
「何を言っているんですか。私はフェイト様専属の受付兼秘書ですので、フェイト様を追っていくのは当然のことです!」
あ、しまった。火に油を注いじまった。アリスンさん、そんなに大声出されると……
「な! あいつアリスンさんの専属だと?」
「何かあいつに弱みでも握られているんだ。そうに違いない!」
「まさか毎晩あの男の慰みものに……ゆ、許せん!」
ほら、完全にデジャヴだよ。ギルド内の冒険者の視線が俺に突き刺さってくる。頼むから呪詛吐くのやめてくれよ。このままではヤバイ……さっさとギルドマスターに会わせてもらわねば。
「わ、分かりましたアリスンさん。わざわざ王都まで、ありがとうございます。それで今日の用件ですが、レーニアのノイマン辺境伯からこの書状を預かってまして、ギルドマスターにお目通りいただければなと、お願いできますか?」
「はい、それぐらいお安い御用です。ギルドマスターは現在執務室にいると思いますので、ご案内致しますね」
俺は他の冒険者からの怒り、嫉妬の視線を振り払いながらギルドマスターの待つ、三階の執務室に案内されるのだった。




