五話 王族派の面々
昨日は馬車での移動で疲れたのでマイア王女の兄、アレックス王子への挨拶を明日に変更して、早めに休ませてもらった。もう夜も遅かったしね。
でも、あまりぐっすりとは眠れなかった。ベッド自体はさすが王室御用達のフカフカで高級感があるものだったが、いかんせん、すぐ側で体を寄せて寝息を立てているディアナに悶々としてなかなか寝付けなかったのだ。
フェリシアさんが色々と変なこと言うもんだから余計になんか意識してしまった……。
《そんなグダグダ考えるくらいなら、いっそヤッちまったらいいじゃないですか。もう既に一回やってるんだし……。それともまた元のヘタレに戻ってしまったんですか?》
《あのな? もうそれ女神のセリフじゃないから。というか、賓客として招かれておいてそういうことやるってどうなのよ? もしかしたら俺に性獣って二つ名がつくかもよ?》
《いいじゃないですか『性獣フェイト』。これなら嫁もこれ以上増えなくなりますよ》
《いや、嫁だけじゃなくて色々とすべて失いそうだからやめて……》
だめだこの堕女神。というかこいつ俺とディアナの事を応援していると思っていたのに、いざくっついたら妙にイライラしてやがるし。良くわからん。
イチャついてるの見るのが嫌なら見なきゃ良いじゃないか。
「う、ううん……フェイト…」
俺がアストレイアとアホな念話のやり取りをしていると、ディアナが俺の方に寝返りを打ってしがみついてきた。
うーん。やばい、これはヤバイ。ときめく、ときめくぞ。あー、やっぱディアナ可愛ええわ。俺はディアナのためだったら魔王だろうが、邪神だろうが倒せるかもしれない。……女神のためだったらちょっと乗り気はしないけどな。
《そこは私のためって言って下さいよぉ!》
《えー、だってお前役に立たねーし》
あ、そういえば、今日は王族派の主要なメンバーとの初顔合わせの予定だった。アストレイアと遊んでる場合じゃないな、ディアナを起こしてさっさと準備をしよう。
《私の扱いが酷すぎですよぉ……》
他の皆も準備を整え、俺達は食堂で朝食を取ったあと、スタンレイさんに案内され別の建屋の応接の間に通された。ここでアレックス王子とご対面となる。さて、どのような人物なのか……妹がアレだからあまり過度な期待はできないなと思いながらも部屋に入った。
「ふむ。君があの噂に名高いレーニアの英雄、フェイト殿か。妹マイアから話は聞いている。遠路はるばるよく来てくれたな」
なるほど、この人がマイアの兄、第一王子のアレックスか、髪色、目の色は妹のマイアと同じ青。王族は皆そうなのだろうか? それにしても穏和で気弱そうな印象を受ける。この泥沼の跡目争いを戦っていくには少々頼りない感じがするな。平穏な時代ならば良い王になれたかもしれないが……。
あと、マイアから話を聞いたって、それシルヴィアのあの一件の事じゃないよな?
あと、マイアから話を聞いたって、それシルヴィアのあの一件の事じゃないよな?
「いえ、この国の一大事、私の力が役に立つのであればと参上しただけです」
うーん。我ながら心にも無い事をスラスラと……自分でも呆れてしまうな。
「おい貴様! 英雄と言われているからと調子に乗るなよ。俺達はお前の助けなど必要ないのだからな!」
ん? 誰だこいつ。金髪の長髪で、まあイケメンではあるんだが、ちょっと雰囲気がチャラいな。そして俺にまるで親の敵であるかの様な、鋭い敵意を向けてくる。俺こいつに何か恨まれる様な事したのかな?
「これ、ジークフリート控えぬか、我々が置かれている状況はお前も分かっているだろう。今は一人でも多くの味方を得るべきだ」
ジークフリート……ああ、なるほど分かった。辺境伯で唯一の王族派、西のモンフォールの嫡男、その名が確かジークフリートだった。
あと、これはレティシアから聞いた話だが、そのジークフリートってヤツはマイア王女を狙っているという事だ。
つまりだ、俺はマイア王女がわざわざレーニアまで足を運び迎え入れた人物。それだけ王女が頼りにしている……とこいつは考えているのだろう。
はぁ、くだらねぇ……。男の嫉妬ほど醜いものはないよなぁ。あんな王女なんか要らないからお前にくれてやるよ。腹黒同士お似合いのカップルじゃないかな。
《いやー、モテる男は余裕ですなぁ》
《別にモテてねーし。そうだとしてもマイア王女はないだろ?》
《まだ分からないですよ。また響介さんが無自覚に落としちゃうかもしれないし》
《うぐ……これまでの前例があるから否定できん。よーし、ここはジークフリート君を応援するぞ》
「ふん、どうだかな。本当に戦力になるのかこの男は。レッドドラゴンを倒したなどとどうせウソに決まっている。所詮はレーニアなどいう田舎での噂。真に受けるのは危険ではないか?」
本人を目の前にしてこの言い草。俺こいつ嫌いだな。仲良くできそうにないや。応援してやりたいのに。
「ジークフリート様。お言葉ですがレッドドラゴンを倒したのは間違いありませんわ。私がこの目で確かに見ましたもの」
「お前は確かノイマン辺境伯の……そうか、なるほど。自分の婚約者の肩を持ちたい、その気持ちは分からないでもないが、それで目を曇らせてしまうのは良くないな」
いや、レティシアは婚約者じゃねーし。というか、嫉妬に狂っている自分を棚に上げてよく言うよな。
「わたくしはまだフェイト様の婚約者ではありませんわ」
まだって……否定しないのかよこいつ。それにしても……
「……なんか、歓迎されている感じではなさそうなので、俺はこれで失礼して構いませんか?」
俺の最優先の目的はあくまでシグルーンの開放。別に王族派に属しなければならないというわけではない。だめだったらもう王城に突っ込むか。なるべく穏便に解決したいところなんだけどな。
すると俺の発言に慌てたマイア王女がジークフリートを諭す。
「ちょっと、ジーク。それは言い過ぎよ。フェイト様は私がやっとの事でレーニアからお連れしたんだから、失礼のないようにしてよ」
「しかし、マイア王女……わ、分かりました」
マイアにはめっちゃ従順だなこいつ。すごく分かり易い。でもすげー睨んでるんだけど。
「ジークフリートよ。先も言ったが今は一人でも多くの味方が必要なのだ。フェイト殿すまなかった。王族派はそなたを歓迎したいと思う。協力頂けないだろうか? 報酬についてはマイアから聞いている。無事私が王太子となることが叶ったら、フェイト殿には伯爵の爵位を約束しよう」
伯爵か、破格だな。まあそれだけ王族派が追い詰められてるって事だろうが。
「な!? アレックス様。こんな田舎の下級貴族に伯爵の爵位など……。お考え直し下さい!」
「しかしな、今の王族派の状況を考えるとこれが妥当だ。もしこれでフェイト殿が貴族派に流れ、あの噂が本当の事だったら我々は完全に勝ち目を失う。そうなった場合、お前はどう責任を取るつもりなのだ?」
「く……分かりました」
渋々了解の意を示すジークフリート。
「話の腰を折ってすまなかったなフェイト殿。それで我が申し出は受けてもらえるだろうか」
俺は一瞬思案するような素振りを見せてから。
「分かりました。我が力、王国の民のためにお貸し致しましょう」
俺はこの瞬間から王族派に属する事になった。目的はあくまで邪神の使徒を倒すことと、シグルーンの開放だけどな。




