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三話 フェイト新たな伝説を作る


 訪れたクレモーンの街はレーニア程ではないが交易で栄えており、場所が内陸部の高地ということもあり特産品は高原野菜が中心で、お茶やタバコ、コーヒーなどの嗜好品も多い。

 このあたりも魔物が散発するらしく、街は外壁で覆われている。と言っても外壁の高さは3メートル程でレーニアに比べれば半分くらいの高さだ。


 ギルドもあるので冒険者らしき格好をした者も目につく。しかし、それ以上に気になるのが獣人の姿だ。それもただの獣人ではない。


「なあ、あの獣人。首輪と腕輪を付けられているが……もしかして奴隷か?」

「え? でもこの国は奴隷が法で禁止されているはずよ。アストレイア教の教えにも反するし」


 ディアナの言うことは最もだ。アストレイア教では奴隷を禁忌としている。だからそのアストレイア教が国教となっているエレクトラ王国では奴隷制が禁止されているのだ。しかし、あれはどう見ても奴隷にしか見えない。

 俺達は白昼堂々と奴隷のセリを行っている連中を睨みつけた。その奴隷らしき獣人の中にはまだ年端のいかぬ少年、少女もいる。ひどいもんだ。


「ひどいな。あんな小さな子までいるぜ」

「最近、エレクトラの南にあった獣人の国ヴィッドガルが、南にあるアートラス帝国に攻め滅ぼされたらしいですわ。それで我が国にも獣人の難民が流れ込んでいるのですわ」


「それでこいつらはこれ幸いにと難民達を捕らえ、奴隷として売っていると……」

「そのとおりですわ。我が国のモラルは完全に崩壊していますわね」


 これだけ堂々と奴隷の売買をやっているのだ。上の連中は見てみぬ振りなのだろう。


「マイア王女、あなたはこの事を知っていたのか?」

「……いや、恥ずかしながら我々もレーニアに来る途中にこの実態を知った……」


 マイア王女の代わりにシルヴィアが答えた。マイア王女はただ黙って奴隷のセリの様子を見つめている。これが良心の呵責に苛まれている状態……であれば良いんだけど、彼女の心の内は良く分からない。


「ここを治めている男爵って確か辺境伯の寄子だったよな」

「そうですわ。後で父上に知らせておきますわ」


 さすがのハルベルトも遠方までは目が行き届かないか。でもあいつは不正には容赦がないからな。ここの領主は良くて降格、悪くて爵位剥奪かな。普段のレティシアとのやり取りを見ていると単なるヘタレ親父なんだけど、北方では絶大な権力を持っているんだよな。


《なあ、これってアストレイア教の影響力が落ちてるって事はないよね?》

《う……それは、どうなんだろう……》

《まあ、ずっとサボってたもんな》

《返す言葉もございません……》


 それとも……邪神の仕業かもしれないな。邪神側も俺たちの存在を認識しただろうから、女神の力の源となる信仰心を削ぎに来る可能性は十分考えられる。


「フェイト……あの子達、助けられないかな?」

「ディアナ。気持ちは分かるけどな、俺達の目に見える範囲の奴隷達を助けたところで、根本的な問題の解決にはならないんだ。きつい言い方かもしれないけど……やったとしても単なる自己満足にしかならない。俺達がやるべきはさっさと王都に行って、王都の混乱を治めること。それが奴隷達、獣人達全員を救う事につながると思う」


「フェイト……うん、分かった。早く王都に行こう」


 良かった。分かってくれたか。多分この街の奴隷を開放することは簡単だろうけど、それじゃ焼け石に水だからな。


「そうだな。こんな辛気臭い所、さっさと出ようぜ」


 トリスタンの言うことも最もだな。奴隷に気を取られて今まで気が付かなかったが、街全体から活気が感じられない。交易で栄えているんじゃなかったのか?


「確かにな休憩できるような雰囲気じゃないな……」


 俺がもうホバークラフトに戻ろうか、そう思ったその時、


「おい! てめえ」


 なんかチンピラ風の冒険者3人に絡まれた。えー、今更こんなテンプレ展開いらんのですが?


「ん? 俺に何か用ですか?」

「そうだ。てめぇ、綺麗どころの女を何人も侍らせやがって生意気なんだよ。俺達が可愛がってやるからよこしやがれ」


 ふむ、見た目もテンプレなら、セリフもテンプレだな。

 まあ確かに、マイア王女にシルヴィア、あとエレーナとディアナ、そしてレティシアと、皆超が付くほどの美人だから注目を集めてしまうのは仕方ないかもしれない。でもこんなテンプレは時と場所を選んで欲しいんだけどな。なあ堕女神?


《いや、私に言われても……》


「仕方ないトリスタン……やっちまうか」

「ああ、そうだな。俺も虫の居所が悪くて仕方がなかったんだ」


 奴隷の事で鬱憤が溜まっていたのだろう。トリスタンは槍を手にし、チンピラ共を睨む。


「トリスタン、死なない程度であれば大丈夫だ。息さえあれば俺が回復する」

「お、おう……というかお前も容赦ないな」


 トリスタンは俺の一言に呆れながらもチンピラ共の前に立つ。


「ああ? てめぇらやるのか? もう泣いて謝っても許してやらねぇぞ」

「御託はいいからさっさとかかってこいよ」


「こいつ調子に乗りやがって!」


 チンピラ冒険者達は怒鳴りながら剣を抜き、トリスタンに襲い掛かってきた。ふむ、こいつら大口叩くだけあって、動き自体はそれほど悪くない、Cランク相当といったところか、だが体全体に魔力を通し、身体能力を引き上げる術を身に着けたトリスタンに敵うわけがない。


「遅い」


 トリスタンは一人目の剣を上に弾き飛ばし、そのまま槍を振り下ろしてチンピラの右腕を切り落とした。


「ぐぎゃぁぁぁ! お、俺の……俺の腕がぁぁ!」


 痛みに絶叫しのたうち回るチンピラ冒険者。ああ……回復するとは言ったが本当にやりやがったよ。それを見た後ろの冒険者二人が怯んで逃げ出す。


「ひっ、ひぃぃ! こいつ何なんだよ」

「あ、こら。逃げんな」

「トリスタン、いいから放っとけ。相手にするだけ時間の無駄だ。まあ、とりあえずこいつは回復してやるか、ほらよ【エクスヒール】」


 だがな、俺はそこまで優しくない。以前トビーの腕を直した時は光が欠損部分を覆い、再生したのだが、今回このチンピラにかけた【エクスヒール】はピッ◯ロさん式だ。イメージは細胞分裂。こいつのDHAを読み取り、魔力で急激な細胞分裂を促し腕を形成させる。俺の見立てが正しければピッ◯ロさんみたいにズリュッと腕を再生できるはずだ。アストレイアが前にできると言ってたからちょっと試してみたかったんだよね。


「ぎゃぁぁぁぁ、死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!」


 急激な細胞分裂が発する激痛がチンピラを襲い、腕が切り飛ばされた時以上にのたうちまわる。

 ああ、これ相当痛いのね。神経も細胞分裂でガンガン増えてるから、そこが刺激されるのかもしれない。なるほど、これは……拷問に使えるかもしれないな……。


《さすがの私もドン引きです。響介さん》

《王都に行ったらこれくらい黒いこともやらないといけないかなと思ってるけど、これはちょっとやり過ぎかもな》


 チンピラはあまりの激痛に耐えかねて、とうとう気絶してしまった。白目をむき、よだれを垂らし、失禁もしている。酷い有様だが、腕だけはちゃんと元通りに再生している。とりあえず仲間の誰かにやる前に実験しておいてよかった。次からはちゃんと普通の【エクスヒール】を使おう。


「フェイト、これはちょっと……」

「う……すまん。まかさこうなるとは思わなかった」


 いつの間にか集まったギャラリーも顔を青ざめ、恐怖に怯えている。


「これは、さっさと退散した方が良いかもな」

「フェイト様、一体なにをやってるんですの?」


 呆れ顔でため息を吐くレティシア。


「いやあ、ちょっとアレンジした魔法の実験をしてみたくて、つい……」

「まったく……衛兵が来る前に早く逃げますわよ」


「ああ、分かった」


 フェイト達は早足にその場を立ち去ったが、この出来事は瞬く間にクレモーン中に噂となって広がり、住民全員がフェイトの名を知ることとなる。そして泣き止まない子供にフェイトの名を出すと泣き止んだ事から「泣く子も黙る鬼のフェイト」の逸話が誕生し、長くクレモーンの街に語り継がれる事になった。


間にちょっとしたエピソードを挟ませて頂きました。

次回はちゃんと王都に到着します。


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