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一話 試運転

四章スタートです。

よろしくお願いします。

 はぁ……シルヴィアの夜這いとか、婚約の公表とか色々あったが、これでようやく王都に向かうことができるようになったな。さっさと王都でシグルーンを開放したいし、王都の混乱が邪神の力となっているのならば、それを解決する必要がある。


 しかし、邪神側も当然俺の存在を認識しているだろう。ケルソの前で堂々と、俺は女神の使徒だと公言しちゃったからな。邪神がただ手を拱いて待っているだけのはずがない。十中八九王都には罠が張り巡らされていることだろう。油断はできない。


 さて、このレーニアにやってきて約ニヶ月ほど経った。もう完全に馴染んでしまった感じがするが、しばらくこの街ともお別れだな。ロイドとサラに屋敷を任せて、王都に旅立つとしよう。



 ……それにしても。

 転移魔法とかあれば王都とレーニアを楽に往復できるんだけどな……。


 一見なんでもできる様に見える俺のオリジナル魔法だが、幾つかの制約がある。それは俺が物理、化学的にイメージできないものは実現できないというものだ。


 アストレイアは魔法はイメージ次第だと言うが、俺が潜在的に『そりゃ無理だろ』と考えてしまうと、そこでブレーキがかかってしまうのだ。その代わり物理、科学に則った魔法、魔力の行使については、絶大な効果が発揮されるんだけどね。


 あと、相手の体内に直接作用させるような魔法は無理だ。回復魔法は別なのだが、相手に損害を与える様な魔法はレジストされてしまう。これはどんな生き物でも微弱な魔力を帯びているかららしい。でも【ゼロフリクション】のような相手の体表に作用させる魔法は通用する。でも、これも相手が俺や使徒みたいに、魔力操作ができる者だと簡単にレジストされてしまう。


 魔法は思ったほど万能じゃないんだ。


 でも俺はこのまま黙って諦める男ではない。転移はできないが、いろいろな工夫をして王都までの移動時間を短縮しようと企んでいる。


 それで俺が着手したのが乗り物の開発だ。

 俺のゴーレム生成技術を活かし、自走するキャンピングカーを作る。


 キャンピングカーと言っても、車軸があってタイヤで走るのではなく、風の力で浮き走行するホバークラフトタイプのものだ。

 この世界には当然ながらアスファルトで舗装された道路は存在しない。普通の土の街道を車で走ると振動がひどいことになる。いくらサスペンションを効かせても吸収し切れるものではない。


 だが、ホバークラフトなら風の力で車体が浮いているため、地面からの振動は伝わらない。多少の起伏ならば物ともしないし、水上でさえ走行できる。まさにこの世界にうってつけの乗り物だと言えよう。


 しかし、このホバークラフトにも欠点はある。それは騒音だ。中央付近に風を起こす巨大なプロペラ装置を取り付けなければならないので、そのモーターが起こす騒音が洒落にならない。


 だが、ここは地球ではない。異世界だ。風は魔法で発生できるためプロペラ装置など必要としない。まあ、それでも周囲に強烈な風を撒き散らしてしまうんだが、別に地球の公道を走るわけではないから、問題はないと思う。


 そして、この大きなプロペラを取り除くことができたため、居住スペースも大きく取ることができた。7~8人が余裕で座れるし、寝るスペースも確保している。大きさは中型のバス程度だな。


 普通王都までは馬車で2~3週間程、約3000キロの道のりらしいが、このキャンピングホバークラフトならば途中休憩も考えて4~5日で着くだろう。ただし、こいつは俺の魔力で動作するので、俺にしか運転できない。


 問題があるとすれば、王女様たちがこれに乗ってくれるかなんだよな。


 ちなみにはじめは飛行機やヘリコプターを作ってみようかと考えてみたのだが、航空力学は非常に繊細で実現が難しい。開発期間も取れないので、今回は比較的構造が簡単なホバークラフトを作ることにした。まあ、飛行機も魔力を応用すればできると思うので、そのうちトライしてみよう。


 よし、準備は整った。というわけで俺は出発の報告をしにハルベルトの元を尋ねている。


「そうか、明日立つのか」

「はい、さっさと行って面倒事を終わらせておきたいですからね」


「ハハハ……君が言うと冗談に聞こえないな。明後日にでも問題を片付けて帰ってきそうだ」

「さすがに明後日は無理ですが、1ヶ月あれば帰って来れるかもしれませんね」


 ハルベルトの冗談に対し、真面目に返す俺。ハルベルトは呆気に取られた顔を見せる。


「は? 1ヶ月? レーニアとの往復だけでも1ヶ月半程かかるというのにそれは無理だろう」

「いや~、それができちゃうんですよね。辺境伯に見せたいものがあるので、ちょっと来てください」


 さてと、ハルベルトの驚く顔が楽しみだな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 というわけで俺はハルベルトに例のキャンピングホバークラフトを披露するため、レーニア城壁外の荒れ地に来た。このホバークラフトはモノが大きいため、街の中心部に位置する貴族街には置けないのだ。たとえ置けたとしても、街の中の道には屋台が立ち並んでいるためホバークラフトの走行は難しい。だから仕方なしに街の外に置いている。普段は認識阻害の魔法をかけて見えないように隠しているわけだが。


 当のハルベルトは口をポカーンと開けて、キャンピングホバークラフトを見上げている。その隣にはレティシアの姿もある。


「こ、これは何だフェイト」

「乗り物ですよ。これに乗って王都まで行きます」


「何? これを馬に引かせるのか? しかしこの大きさ……馬が何頭必要になるのか分からんぞ。しかも車輪が無いではないか、一体どうやって……」

「いや、馬は使いませんよ。これは俺の魔力で走りますので」


「走る? これが?」

「まあ……面白そうですわね。私も乗っていいかしら?」


 さっきから驚きっぱなしのハルベルトとは対象的に、ホバークラフトに興味津々な様子のレティシア。


「ああ、試しに乗ってみるか?」

「あ、ボクも乗るー」


 側で一緒に見ていたエレーナも手を上げた。さて、キャンピングホバークラフトの試運転と行きますか。


 俺のパーティーメンバー全員とハルベルト、レティシアを乗せて、荒れ地をホバークラフトで走行する。摩擦もなくスムーズに加速するホバークラフトに最初は皆が驚き、顔を青ざめていたが、慣れてくるとその表情にも余裕が現れてきた。


「うっひゃー、なんだこれすげー気持ちいい」

「おー、はやーい」

「フェイト、いつの間にこんなの作ったの?」

「こ、これは……馬車とは比べ物にならないスピードだな」


 乗り心地は特に問題ないみたいだ。騒音も振動もない。快適そのものだ。


「いえ、まだ試運転なのでスピードは押さえています。出そうと思えばもっとスピード出ますよ。まあ、出しすぎると危ないですけどね」

「な、何!? これが最大じゃないのか?」


 ホバークラフトの欠点はブレーキがあまり効きにくいというところかな。MAXのスピードはかなり出ると思うけど正直怖い。スピードを上げるのはもう少し運転に慣れてきて、魔力できちんと制動をかけられる様になってからだな。


「そ、それはすごいですわね」

「なるほど、これなら王都まであっという間だな」


 ふっふーん。まあな、俺の自信作だからな。でも、驚くのはまだ早いぞハルベルトよ。


「実はですね、この乗り物は水の上も走れるんですよ」

「なに? 水の上も?」

「はい、だから川や湖なんかもショートカットできます」


 わざわざ橋を渡ったり、湖を迂回したりする必要がないのでかなり距離を短縮できる。


「もう、何でもありだな。そうだフェイト君。これをもう一つ作る気は無いか? 出来ればそれを俺に売って欲しいんだが」

「いや、残念ですがこいつは俺にしか運転できません」

「ぐ……そうなのか……運転できないのなら仕方ない」


 あからさまに落胆するハルベルト。まあ、その気持はわかる。

 もしこれが量産できれば移動が楽になるし、物流も活性化する。それになにより、兵器に転用できるのが大きい。

 地形を物ともせず高速で疾走する乗り物。戦車や装甲車が存在しないこの世界では十分な脅威となるだろう。物資の輸送も楽ちんだし。


 他の人の魔力でも操縦できるような汎用型を作ってもいいが、まだ先の話だな。


 俺達はこの後、メイドのおチビちゃん達も乗せたりして、ひとしきり試運転(あそんだ)あと屋敷での壮行会を経て、翌日の出発の朝を迎えた。




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