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五話 二人の進む道


「むー、なかなかうまいこといかんな」


 アストレイアが言うには俺の魔力は異常に高く、本気で魔法を放てばこの村くらい余裕で消し飛ばせるレベルらしい。それを聞いて俺はさすがに青くなった。


 それで、次のステップに進む前にまずは魔力操作に慣れた方が良いだろうということになり、俺は今魔力操作の練習をしている。とりあえず集めた魔力を散らせる様にはなったので、この前のような暴走は起きないはず。たぶん。


 というわけで、俺が集めた魔力を右手に移したり、左手に持ってきたりと、魔力操作の基礎練習をしていると。


「ねぇ、さっきから何やってるの?」


 と、ディアナが話しかけてきた。興味深そうに俺の手を覗き込んでいる。


「これか? 秘密の特訓だな」

「魔法の?」

「そそ」

「ふーん、まだ諦めてなかったんだ」

「まーな。ギャフンって言わせてやるって言ったろ」

「そっか……」


 そういえば、この世界の魔法について詳しく説明してなかったな。この世界の魔法は魔族や邪神が使う闇属性を除けば火、水、土、風、光の5つの属性が存在する。で、それぞれの魔法属性に対して、初級、中級、上級、超級、伝説級の魔法が存在する。


 前にも言ったが、中級以上の魔法になると魔法陣が必要になる。一般的にはだけど。多分これは中級以上だと魔法陣無しで魔素を集めることが難しくなるからなんだと思う。


 で、上級、超級と位階が上がるに連れて魔法陣はより複雑により巨大になる。魔法陣は完璧に記憶してイメージできないと出現させることはできないらしい。それが中級魔法の壁となっているらしいが、魔法陣を必要としない俺には関係のない話だ。


 おそらく本職である魔法使いなら必死になって魔法陣を覚えるんだろうが、戦士職が片手間で覚えて使いこなせるものじゃないと思う。だから魔法職以外はだいたい初級止まり。魔法剣士っぽいのは基本的にいないらしい。


 魔法剣士か………ちょっと憧れるけど、俺は剣術についてはからっきしだからな。多分無理だ。それよりも伝説級魔法を使ってみたい。どうも過去100年くらい使い手が出現していないらしいし。だから『伝説』なのかな?


「……ねえ、ちょっと。話聞いてるの?」

「ああ、聞いてる聞いてる。俺が魔法を使えるかって話だろ?」


 ディアナを無視して物思いに耽ってしまっていたため、少々ご立腹の様だ。やばいやばい。


「そうよ。いずれ使えるようになるって言ってたけど、それは一体いつなのよ?」

「いやー、それが実は使えるようになる兆しというか、コツがつかめてきたんだよね~」


「え? 本当? ウソじゃないよね?」


 俺の言葉にディアナの表情ばぱっと明るくなったような気がする。


「ウソじゃないウソじゃない。そのうちババーンと使って見せてあげるから期待しててくれ」


 実は既にババーンじゃ利かないくらいのどでかい魔法ぶちかましちゃってるんですけどねー。


「うん。期待してるわ」


 およ? なんか今日のディアナちゃんは妙に素直ですね?


「それから、フェイト、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


 ちょっとモジモジ、うつむき加減で話しかけてくるディアナ。なになに? これひょっとして告白の流れ? そんな急に告白されてもオジサン困るんだけど?


 俺は魔力操作を中断して、なるべく平常心を装いながらディアナの方を向く。

 内心はドキドキもんだけど。


「なに? 話って」

「えっとね。フェイトは将来何になりたい? この村にずっといるつもりなの?」


 ここで将来についてですか? 意外な質問に少し戸惑ってしまう。変な期待をしていただけに……ね。

 それにしても、どう答えたものか……。邪神を倒したいです……とは言えないし、ここは適当にごまかして躱すしか無いな。


「んー、少なくとも村からは出ていくと思う。この小さな村の中だけで一生を終えるのはつまらないからさ。いろいろな国を回る旅をしてみたい」


 邪神を倒すのが目的で、旅はそのついでっすね。ウソは言ってないぞ。

 ところがディアナは目を輝かせてこう言ってきた。


「ほんと? じゃあさ、15歳になったら一緒に冒険者にならない? 私の剣とフェイトが魔法使えるようになったら、そこそこいけると思うんだ。それに一人で旅するよりも二人で旅した方がきっと楽しいよ」


 あー、そう来ましたか。

 この国では成人の年齢15歳になると冒険者ギルドに登録ができる。なるほど、そういうことか、ディアナの両親は凄腕の冒険者だったらしいから、ディアナもその話を聞かされてたんだろうな。剣術も習っているし、ディアナが冒険者に憧れるのも当然のことか。


 あとディアナの気持ちもね。俺は別に鈍感系の主人公を気取るつもりはない。ディアナが俺に好意を持っていることはなんとなく分かる。というか、こんな小さな村だと同年代の子供って俺しかいないからなぁ。自然とそうなるものなんだと思う。


 だからこそ、こいつを危険な邪神討伐に巻き込むワケにはいかない。ディアナが大怪我したり、死んじゃったりしたら俺泣くよ? それにディアナの両親に顔向けできない。


「んー。冒険者はちょっと……旅といってもただ闇雲に見て回るってわけじゃなくて、ある目的があるんだ。冒険者との両立はちょっとむずかしいかな……。それに俺の魔法はまだ確約できないよ?」

「え? そうなの? うん。分かった……変なこと聞いてごめんね」


「いや、こっちこそすまん。別にディアナと一緒は嫌というわけじゃないんだ」

「いいのよ。フェイトにもやりたいことがあるんだろうし……じゃ、またね」


 明らかに落ち込んだ様子で去っていくディアナ。俺はその後姿をただぼーっと見つめていることしかできなかった……。もう少し気の利いたセリフの一つでも言ってやるべきだったか……。


《うわーこれって青春ですよねー。片や幼馴染の少年を想い、一緒に旅をすることを夢見る少女。片や少女の身を案じて距離を置こうとする少年……。すれ違う二人の運命。はたして再び交わることがあるのでしょうか?  キャー!?》


 唐突に緊張感のない声が頭に響く……。こいつ出歯亀してやがったか。


《あのな、他人事みたいに言うなよ。元はといえばおまえが原因なんだからな? 邪神と戦う必要がなかったら俺は別にディアナと一緒に冒険者やっても良かったし》

《う……それはそうなのかもしれませんが……でも響介さんも悪いですよ?》


《ん? なんで俺が?》


 俺はディアナの身を案じただけなんだけど。


《あそこはですねー。『どんなことがあっても俺がディアナを守ってやる!』の一言くらい欲しかったですねー》


 あほか、そんな恥ずかしいこと言えるわけ無いだろ?


《いや、だから相手は邪神だろ? そんな無責任なこと言えねーって》


 ただでさえチート無しのガチ勝負なんだからな。


《けっ! このヘタレ、軟弱者! 中二変態!》


《うぉーい。女神さんやキャラ変わってますよ? 最後の全然関係ないし》

《まあ、アレですよ。大丈夫だと思いますよ。私の魔法理論を身につければ、響介さんはこの世界で無双できるくらいの力を手に入れることができると思います》


《マジか?》

《マジですマジです》


 まあ、めちゃくちゃ不安はあるんだけども。


《じゃあ、お願いする》

《分かりました。ゴホン……では改めまして……力が……欲しいか?》


《力が欲しい!》

《力が欲しいのなら……くれてやろう!!》


 ……てか、こいつこんなネタまで知ってるなんて、一体どれだけ日本に入り浸ってたんだよ? それに乗っかる俺も俺なんだが……。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ただいま……」

「おう、おかえりって、どうしたディアナ? 泣いているのか? 何があった?」


 ディアナの父、オスカーがひと目見て分かるくらいに、ディアナは目を赤く腫らしていた。


「ううん、なんでもない。それよりもパパ。もっと剣を教えて。私今より強くなりたいの」

「ああ、それは構わないが……本当に何があったんだ」


「理由は言えないけど、私は強くならなくちゃいけないのよ」


 声を震わせながらそう言い放つディアナ。その赤くなった目からは断固たる決意の光が見える。


「……分かった。もう何も聞かない。厳しくいくが、途中で音を上げるなよ!」


 父の激に意を決したディアナは力強く応えた。


「ええ、望むところよ! ママにも魔法を教えてもらうわ!」


(私がフェイトを守れるくらい強くなる。それならフェイトも安心して一緒に冒険者になってくれるかもしれない)


 と、響介の気遣いは理解されず、逆にディアナに発破をかけるだけになるのであった。これがのちの最強女魔法剣士ディアナ誕生の瞬間である。




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