五話 邪神の目的
《なあ、アストレイア。王都の件ってやっぱり邪神の使徒が絡んでるよな?》
《そうですね。匂いますね。王都にシグルーンちゃんが封印されていると思いますから、十中八九邪神が絡んでいるでしょうね》
やはりそうだよな。国王が倒れたことによる王都の混乱。それとタイミングを同じくして発生した魔族の侵攻。ほぼ間違いなく邪神絡みだろう。
ちなみに、俺は今、自分の屋敷に帰ってきて風呂に入っている。この風呂は魔道具を使ってお湯を張っており、広さも十分にある。湯船も五人くらいは余裕では淹れる広さだ。湯船や床の材質は大理石でできており、高級感は抜群だ。
元日本人の俺としては総檜の風呂とかが良いんだけど、この世界ではそんなものは無いのかな。
《ところで、今風呂の中……俺の裸は見てないよな?》
《み、見てないですよ?》
《……なんか今声が上ずってた気がするが》
《き、気のせいですよぉ。やだなぁ響介さん》
まあ、一応タオルで大事なところは隠しているから大丈夫だろうが……。
《それでだ、邪神の使徒が王都にいるとして、その使徒の目的は何なんだろうな。俺が邪神だったら、こんな国さっさと叩き潰すのに》
《言われてみればそうですね。王族にちょっかい出して、政治を混乱させてって……結構回りくどい事してますよね……》
そうなんだよな。レーニアの時は力任せに攻め込んできたのに、王都では搦め手を使っているように見える。使徒にも色々とタイプがあるのかもしれないが、どうも奴らの目的が見えない。
ドラ○エとかのRPGでも、勇者のレベルに合わせて手下をぶつけてくる魔王ってバカだなと思ってたけど、それと同じか?
最も初めから強い敵が出てきたらゲームとして成り立たないんだけどね。
《邪神の目的が分からないと、どうにもやり難いな。対応が後手後手に回ってしまうかもしれない。アストレイアにも分からないのか?》
《そうですね……私、女神の力は人々の信仰によっても得られるのですが、邪神の場合は人々の恐怖、絶望、嫉妬、恨み、不安といった負の感情がエネルギーになります》
《ふむふむ、なるほど》
《ですからケルソはレーニアで圧倒的な戦力、武力を用いて人々に恐怖や絶望を与え、邪神の力を強化しようとしたんじゃないかと》
《それで、王都のやつは搦め手で政治を混乱させて、不安感や絶望感を煽ろうとしているのか。そう考えるとやっていることはバラバラの様に見えても、目的は共通という風に考えられなくもない。いや、ありがとうアストレイア。なんか頭がスッキリした》
《いえいえ、響介さんのお役に立てて良かったです》
よし、やはり王都に行かないと何も始まらないな。邪神の使徒を倒すはもちろんだが、今回の王都の混乱を治めなければ人々の不安が増大し、それが邪神の力になってしまう。となると王都でやるべきことは次の三つになるな。
邪神を探し出し倒す。
跡目争い問題の解決。
嵐竜シグルーンの開放。
やることがはっきりしたから、さっさと行動に移したい。レティシアは待っていれば王女側からアプローチをかけてくると言っていたが、待っている時間ももったいない。明日ハルベルトの屋敷に行き、直接王女と交渉してみよう。レティシア抜きでね。
……っと、やばい、ちょっとめまいがした。湯船に浸かったまま色々考えてたのでのぼせたかもしれん。もう出よう。
俺は湯船から出て、どこで見ているか分からないアストレイアに見えないよう一応タオルで前を隠しながら風呂から出た。
「あ、フェ、フェイト様! こ、こちらがバスタオルです!」
「ああ、ありがとう」
俺はボーッとした頭で、何も考えずにバスタオルを受け取り体に巻く。って、ん? 今の声誰? 俺は声のした方を向くと、そこにはメイド服に身を包み、顔を真赤に上気させているソフィさんの姿があった。一応手で顔を覆ってはいるものの、指の隙間からバッチリこちらを見ている。シスター見習いの彼女には刺激が強すぎる光景なのか。
「え、あれ? ソフィさん? なんでここに?」
「そ、それが……そろそろフェイト様がお風呂を出る頃だからバスタオルをお持ちしてと、メ、メイド長から言われまして……すると丁度フェイト様が出てきて……べ、べべべ別に、そのフェイト様の、は、裸を見たかったとかそんなのじゃ無いです!」
口をパクパク、両手をアタフタ、頭から湯気を出し、完全にパニクるソフィさん。タオルで前を隠しながら出てきたから見えてはないと思うけど……セーフだよね?
《いえ、アウトですね。私には見えます。ソフィちゃんに立ったフラグが!》
《え? アウトってそっち? こんなので立つの? というかサラさん、なんで風呂場にソフィさんを寄越すんだよ!》
もしかしてサラさん、ソフィさんや俺に気を使ったつもりでこのイベントを仕込んだのか? メイドの仕事を完ぺきにこなす完全超人だと思ってたけど、おせっかいな一面も持っているんだな。というか、これも例のスキルの効果だとするとかなり恐ろしいぞ。
俺はまだパニクりながらも指の隙間からチラチラとこちらを見るソフィさんを風呂場の脱衣所から退場させ、着替えを済ませた。
はぁ、えらい目にあったな。というか、ソフィさんにもやっぱりフラグ立ってるのか? 俺はディアナ一筋って決めてたのに、なんでこうハーレム展開になっていくんだろうか……。
《それは異世界転生モノの宿命です。いい加減諦めましょうよ》
《いや、お前のはた迷惑な加護のせいだろうが》
俺は風呂でのぼせた頭を魔力で冷やしながらリビングに戻る。
「あ、フェイトおかえり。ちょっと顔が赤いけど大丈夫? それとなんかお風呂の方が騒がしかったけど何かあったの?」
「あ、いや。何もない何もない。ちょっと長湯しすぎてのぼせただけだ」
「そう? お風呂気持ちいいのは分かるけど、のぼせるまで入るのは良くないよ」
「ああ、それは分かってる。次から気をつけるよ」
「うん。じゃあ私も入ってこようかな」
「ああ、今多分誰も入ってないから行ってきたら?」
「分かった。行ってくる」
そう言ってディアナは風呂場の方に歩いて行った。そして俺はリビングのソファーに腰掛けると、
「フェイト様、お飲み物をお持ちしました」
サラさんが水の入ったグラスを持ってきてくれた。
「ありがとうサラさん」
「いえ、どういたしまして。……それで、その、いかがでしたか?」
いかがでしたかってもしかしてあのドッキリイベントのこと? 正直やめて欲しいのだが、こう期待のこもった目で俺の答えを待つサラさんを見ると、なんか無碍にやめろとは言えない……。悪気があってやってるわけじゃないしな。
「あ、いや。もうちょっとソフトにしていただければなぁと。あれではソフィさんも大変でしょう」
「は、はい。そうですね。次からは気をつけます。……では、私はこれで失礼します」
サラさんは何やら思案顔をしながら部屋を出て行く。次のイベントを考えているんだろうか。しかし、メイドとしての仕事は完璧にこなしているからあまり厳しくも言えない。
それにしても、自分の屋敷の中だっていうのに、これでは全然落ち着けないんですけど……。いつどこでサラさんイベントが起こるのか分かったもんじゃない。
《ラッキースケベなイベントも異世界転生モノの宿命ですよね》
《いや、もう宿命とかそんなの要らないから、もう普通にして欲しいんだけど》
イベントとか本当に勘弁して欲しいんだけど、今夜はもうひとイベントこなさなきゃならんらしい。俺の部屋に【サーチ】の反応があるんだよな。……一体誰が忍び込んでるんだろうか。
えっと、シルヴィアの件は次回になります。一話説明回的なものを挟ませて頂きました。
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