二話 王女の願い
新キャラ二名(王女と従者)登場です。
応接間でお姫様を待つ、俺とハルベルト、そしてレティシア。しかし、このまま黙って待ってるのも時間の無駄なので、俺はレティシアに気になっていることを尋ねることにした。
「なあ、レティシア。王女と血縁関係があるんなら、昔会ったりしたことあるのか?」
一応事前に王女の為人を知っておきたいのだ。
「そうですわね。過去に数回、王都で開かれたパーティで会った事がありますわ」
「そうか、その時の王女の印象ってどうだった?」
俺の問いにレティシアの目がスッと鋭くなる。こいつは聡いやつだからな。どうやら俺の意図を察したようだ。
レティシアは顎に指を当て、何かを思い出すかのように喋り始める。
「一言で言うと、世間知らずのお嬢様ですわね。思慮は浅く、なにか思いついたように行動を起こして周りに迷惑をかける。トラブルメーカーという言葉がぴったりな人物ですわね」
うーむ、レティシア結構辛辣だな。となると王女の性格は世間知らずの箱入り娘ってところか。
「なるほどな……で、その王女様は民からどう思われているのか分かるか?」
「マイア王女は見た目だけは優しく清楚な印象をお持ちですから、民からの人気は高いですわよ?」
「お、おう……分かった。ありがとう」
……毒舌過ぎるぞレティシア。
いかんな……レティシアの話を聞いていると王女に対するイメージがどんどん悪くなる。変な先入観を持ってしまうじゃないか。
「レティシア、少しは口を慎め。誰かに聞かれていたらどうなるか分からんぞ?」
堪りかねてハルベルトが口を挟んできた。
「あら? 私は本当の事を言ったまでですわよ? そうやって甘やかすから世間知らずになってしまうのですわ」
「……もういい。くれぐれも本人の前では言うなよ?」
「善処しますわ」
レティシアの返事にため息を吐く俺とハルベルト。っと、ここで【サーチ】に反応が……来たかな?
――コンコン
ドアがノックされ、屋敷のメイドさんと思しき人の声が聞こえてくる。
「ご主人様。王女様をお連れしました」
「ご苦労、お通ししてくれ」
「畏まりました」
そして、ドアがゆっくりと開かれ、まず先程のメイドさんが入って来る。そのメイドさんに「どうぞお入り下さい」と促され入ってきたのが、軽装の鎧に身を包み、頭を銀髪ポニーテールにまとめた少し切れ目の騎士風の女だった。腰にはレイピアの様な細剣を帯剣している。年は20前半だろうか? 恐らく王女の従者かなにかだと思う。その女は応接室に入ると俺を値踏みする様な目でジロジロと見てくる。なんか性格はきつそうだ。
その従者の女は部屋の中をひとしきり確認した後、体を半身にして後ろにいる人物の入室を促す。そして、その王女と思しき女性がゆっくりとドアから現れた。
王女はふわっと緩くウェーブがかかった青く長い髪をしており、瞳も青い。年は俺と同じか少し上くらいか、確かにレティシアが言う通り、清楚で気品溢れる姿をしている。民から人気があるのも理解できるな。だが、既に俺の目にはレティシアによる毒舌フィルターがかかっており、王女のその姿を素直に評価できなくなっていた。
見た目は良いんだけどこの子、中身はアホなんだなって。……事前にレティシアに聞いたのは間違いだったかもしれない。
俺達は席を立ち挨拶を済ませる。そして、王女が一歩前に出てその口を開いた。
「ノイマン辺境伯、わざわざこうしてお話の場を設けて頂き感謝します。そして、はじめましてエミリウス準男爵。私はエレクトラ王国の第一王女マイア=エレクトラです。あなたのレーニアでの活躍は遠く王都オクスレイでも噂になっていますよ。この国をお救い頂き本当にありがとうございます」
そう言って頭を下げるマイア王女。
「あ、いえ。恐縮です。一体どんな変な噂が流れているのか気になりますけどね」
俺のその気安い返事に王女は怒るかと思ったが、意外にも目を輝かせ、ノリノリで喋る。
「変だなんてとんでもないです。一人で数万の魔物を蹴散らしたとか、レッドドラゴンも討伐したとか、王都でも英雄が出現したって大騒ぎですよ」
うーん。堅物かと思っていたが、この王女結構軽いんだな。
「そうなんですか? いや、照れますね」
「そうです。そうです。本当にすごいんですよ」
目を輝かせてキャッキャとはしゃぐ王女様。正直かわいい。うーん、これは普通の男だったらころっと騙されるわ。なんでもいいから手助けしてやりたくなってしまう。……レティシアすまん訂正するよ。お前の話聞いといてよかったわ。
「おい、貴様!」
「へ?」
急に従者の女に声をかけられた。
「これ以上マイア様に馴れ馴れしくするな。不敬だぞ!」
「え? ああ、分かった」
うーむ。従者の女に怒られてしまった。まあ、従者としては自分の主君に馴れ馴れしくされるのは嫌だよな。それは分かってるんだけど、この王女軽いからつい気安く喋ってしまう。
「シルヴィア、この方はレーニア、いえ我が国を救って下さった英雄ですよ。それくらい良いではないですか」
「いえ、しかしマイア様。王族としての威厳と言うものがございます。国の頂点に立つ王族が、こんな下級貴族に気安く声をかけてはなりません」
黙って聞いていればこの女……、シルヴィアと言ったか。王女に対する忠誠心がそうさせるのかもしれないが、その人を見下した様な態度はちょっと頂けないな。
「シルヴィア控えなさい。王族の威厳も大事ですが、今の私達はエミリウス準男爵にお願いがあって参った身です。そのような方に対して誠意を尽くすのも王族としてのあるべき姿ではないですか。フェイト様すみません。このシルヴィアはラグネル子爵家の令嬢で、私が幼い頃から従者として尽くして頂いています。だから、その……私に関してちょっと過剰に対応するところがあって……」
幼い頃からずっと主君として崇めているから、多少は過保護になっても仕方がないのかもな。
「あ、いえお構いなく。本題にそろそろ入りたいのですが、よろしいでしょうか? その私にお話しとは何なのか、お伺いしたいと思います」
俺はちょっとしびれを切らして話を先に進めようとした。
「申し訳ありませんエミリウス準男爵」
「あ、それと爵位で呼ばれるのは慣れていませんので、フェイトと呼び捨てで結構です。敬語も不要ですよ」
「え? ではフェイト様で、フェイト様も私に敬語は不要ですよ」
「……様付も……って、はぁ、もういいです。座って話しましょうか」
「そうだな。マイア王女、そちらにお座り下さい」
「ありがとうございます。ノイマン辺境伯」
さて、一悶着あったが、やっと落ち着いて本題に入れるな。
「それで、先程もお聞きしましたが、お話しとは何でしょうか?」
「はい、それはですね。フェイト様も既に聞き及んでいると思いますが。王都オクスレイでは今父上が病床に伏してしまったため、次の王太子の座を巡る跡目争いが起きています」
うん、それは何度も聞いたな。おかげでレーニアは王都からの援軍も無く、魔物の群れと単独で戦う羽目になったのだが。
「国王陛下の病状は重いのですか?」
「はい、もうほとんど意識もない状態です……」
「そうですか、それはお気の毒に……」
国王が次の皇太子を正式に決める前に病床に伏してしまった。それが今回の跡目争いの原因だと聞いている。
「私は第一王子のアレックス兄さんに王太子になって欲しいのですが、第二王子のダニエル兄さんがシュヴェールト公爵と手を組み、貴族派を従えて王太子の座を狙っているんです」
王女の話によると、もし第二王子のダニエルが王太子になり、次の王になってしまうと、この国が完全に貴族派に乗っ取られてしまう恐れがある。
しかし第二王子のダニエルに貴族派筆頭の公爵を抑える力はなく、完全に公爵の操り人形なのだそうだ。
これでは王族は力を失い。貴族派はやりたい放題。それで国の政治が乱れて、民が不幸になるんだそうだ。
今でも十分乱れているような気がするんだけどな。
「これ以上貴族派の横暴を許すわけにはいきません。国の為にも民の生活のためにも、アレックス兄さんが王太子になり、次の王にならなくてはいけないのです」
そして、王女は俺の目を見ながら。
「だから、フェイト様。私に、兄アレックスに力を貸してください。そのレッドドラゴンをも倒せる力をお貸し頂ければ、きっと貴族派を打ち倒す事ができると思います。この国のため、いえ、何百万もの民のためにどうか、お立ち上がり下さい」
そう言って俺に頭を下げる王女マイア。その側では「マイア様!」と驚きの声を上げ、狼狽えるシルヴィアがいる。
うーむ。王女の願いについてはある程度予想はついていたが、やはりそういうことか。しかし、王女は俺の何に期待しているんだ? それが良く分からない。
俺は政治的な駆け引きには無縁のただ腕っ節が強いだけの人間だ。ならば、歯向かう貴族派をすべて蹴散らせばいいのか? でもそれをやって民や、臣下が王族についてくるとは思えない。
他人の力で得た王座に、一体何の価値があるんだろうか。
というか、そもそもこいつらはレーニアの民を見捨てて、権力闘争に明け暮れていたんだ。そんな王女が民のためだなんて烏滸がましいにも程がある。
だが、俺としては中央の権力争いがどうなろうが、王都の中枢に入り込めるコネが得られればそれで良いと考えていた。目的はあくまでも嵐竜シグルーンの開放だからだ。ここで俺がゴネて王女との交渉は決裂してしまうとそのコネは得られなくなる。
……ここは俺が我慢すればいいだけの話なのかもしれないな。でもその前に、確認しておかなければならないことがある。
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