十二話 北方の平定
後一話、閑話挟んで二章終わりです。
朝食も終わり、俺達はトルカナを後にして、リューゼに向かう。
リューゼは魔の森に近いこともあり、常に危険と隣合わせではある。だが、その魔物から入手できる素材、アイテムを求め多数の冒険者が訪れることでそれなりに栄えていた街だった。
しかし、トビーの話によると魔物の群れに逃げる間もなく飲み込まれてしまった為、おそらく生存者は居ないものと思われる。
リューゼに向かう道中も、魔物の領域に近付いている為か、魔物の数が増加し、ランクも上がってきている。トルカナ周辺はEランクがいいところだったが、この辺りではヘルハウンドやトロールなどDランクの魔物も偶に見かけた。
それでも、もちろん瞬殺ですけどね。
俺らのパーティと張り合うんだったら、BかAランク連れて来んかい! って思ってたら居ましたよ。Aランクのケルベロスさんがリューゼに居座っておりました。
リューゼは街を囲む外壁の至る所が崩壊し、建物はほとんどが全壊、そしてあちこちに住民や滞在していた冒険者のものと思しき白骨や、装備品が転がっていた。やはり壊滅していたか。
「トリスタン、ディアナ、エレーナ。三人であれ殺れるか?」
できればレーニアでは見れなかった三人の連携、成長をここで見ておきたい。
「おう! 任せておけ」
「グリフォンと同格だから、多分大丈夫」
「あれの討伐証明部位どこ?」
うん、頼もしい限りだな。気負いは感じられない。
「オスカーさん、フェリシアさん、トビーさんはやつの取り巻きのマンティコアニ体のうち一体をお願いします。残りの一体と周りの雑魚は俺が払いますので」
「お、おう。だがケルベロス相手に大丈夫か?」
ケルベロスはファンタジーものではおなじみのモンスターなので、説明するまでもないかもしれないが、地獄の番犬と呼ばれる三つの頭を持つ犬の魔物だ。普通Aランクの魔物はAランクの冒険者三~四人で当たる。けっしてBランクの冒険者が戦っていい相手ではない。オスカーさんが不安になるのも当然だ。
だが、トリスタンとディアナはそんじょそこらのBランク冒険者とは訳が違う、もちろんエレーナもだ。俺から無詠唱の魔法を伝授されているからな。
「あの三人なら大丈夫ですよ。もし危なくなったら俺が介入しますんで」
「本当に大丈夫なの? フェイト君」
まあ、フェリシアさんが心配するのも無理はない、が……。
「今のディアナの実力はSランクの冒険者に匹敵しますよ。俺が保証します」
「え? ディアナがSランク? 嘘でしょ?」
「俺が鍛えましたからね。トリスタンとエレーナも同様です」
「フェイト君、あなたって一体……、まあいいわ、ディアナをお願いね」
「分かりました」
さて、相手もこちらに気付いたな。三人共特訓の成果を見せて貰うぞ。
「グルルル……ウオォォォン!」
ケルベロスの咆哮と共にニ体のマンティコアがこちらに飛来しながら突進してくるのが見える。俺はそのうち一体を上空から放った【エアハンマー】で地面に叩き落とし、すかさず【サンダージャベリン】をニ発打ち込む。【サンダージャベリン】に貫かれたマンティコアは一瞬でその身を黒焦げにし、断末魔の叫びをあげる間もなくその場に倒れた。
「うへぇ……さすがは若旦那、格がちがいますね」
俺の魔法に息を呑み驚くトビー。
「灼熱の炎よ、すべてを焼き尽くす槍となりて……」
フェリシアさんが【フレイムランス】の詠唱に入っているが、マンティコアは結構早い、的を絞れるだろうか……、俺は土属性中級の【バインド】を発動する。すると地面から木の根、蔦が出現しマンティコアの左後ろ足を絡め取る。
「!? 我が敵を貫け【フレイムランス】!」
フェリシアさんの放った【フレイムランス】が【バインド】で動きを一瞬止められたマンティコアの左肩に吸い込まれる様に命中する。
「グオオァァァァ!」
左肩を焼かれ、苦悶の雄叫びをあげるマンティコア。さすがにこれだけでは致命傷とはならないが、それなりのダメージは通った様だ。フェリシアさんが何か言いたげにこちらを見ているが、俺はそれに頷いて応える。オスカーさんとフェリシアさん、そしてトビーはそれを見て再びマンティコアに向き直った。後は三人に任せても大丈夫だろう。
さて、あっちの三人はどうだろうか。ケルベロスは三つの頭がそれぞれ炎を吐き、上級の火属性魔法も操る厄介な魔物なのだが、エレーナがその吐き出される炎を風魔法で散らし、合間に矢を放って的確にケルベロスにダメージを与えている。
トリスタンは身体強化を施した状態でケルベロスの目の前に立ち、槍でケルベロスの爪や噛みつき等による攻撃を防ぎ、いなす。
「おら! 犬っころ! テメーの攻撃なんか効かねぇよ。軽い軽い!」
自分の攻撃がことごとく消され、防がれる。その状況に徐々に苛立ちを露わにするケルベロス。完全に注意がトリスタンに向いてしまって周りが全く見えていない。そしてその隙きを見逃すほど今のディアナは甘くない。
「一撃で決める!」
ディアナは剣に自分が持つ全魔力を注ぎこみ、完全に無防備に背中を晒すケルベロスを袈裟斬りにする。ディアナの剣はなんの抵抗もなくケルベロスの胴体を両断した。だが、血は吹き出さない。火属性の魔力の影響で高熱を帯びた剣が即座に肉を焼き、炭化させてしまうからだ。
多分肺も両断したんだろうな。ケルベロスは声にならないうめきを上げて倒れて動かなくなった。うーむ、全然危なげなかったな。もうこいつらSランクの魔物でもなんとかなるんじゃないか?
その様子を唖然として見ているオスカーさん達。あっちも終わったみたいだ。首を落とされたマンティコアが横たわっている。
「フェイト! やったよ!」
「ああ、見てたよ。強くなったな」
俺はディアナの頭に手をおいてポムポムする。ディアナは嬉しそうに微笑む。
「ん……」
……エレーナも撫でて欲しそうに頭を突き出してくるので、仕方なしにナデナデしてやる。
「あれが、ディアナ? 信じられんな……」
「ええ……、いつの間にあんなに強くなったの? それにエレーナちゃんと、トリスタンくんの強さも桁違いよ。これもフェイト君の影響なのかしら? とんでもないわね」
魔力操作と無詠唱魔法のおかげだと思うが、やはり俺達の強さは異常なんだろうな……あまり人前で見せない方が無難かな。
しかし、フェイトのパーティの強さに疑問を持っていたのはオスカーやフェリシアだけではなく、アストレイアも同様だった。
(普通の人間では魔力操作や無詠唱魔法を覚えたくらいであそこまでの力を得ることはないのですが……、でも神による加護の力があればあるいは、そう考えるとやはり響介さんあなたは……)
フェイトの正体を疑うアストレイア。そんなアストレイアの内心の不安など知らないフェイトはオスカーに声をかける。
「そちらも終わったみたいですね。あとは残りの雑魚を片付けて、リューゼを開放しましょう」
「あ、ああ、分かった」
あれからフェイト達は、リューゼに巣食う魔物共を一掃しリューゼを開放。そしてリューゼで犠牲になった住民、冒険者たちの魂を慰める為の供養塔を立てた後、状況報告のためにトビーをギルドに走らせた。
その後はギルドからの応援を待ちリューゼを拠点として周辺の町村を次々と開放。約一ヶ月の期間を経て北方の地域を平定。王国の元の領土を回復させるに至った。
もう北方でのフェイトの仕事はなくなった。その時、レーニアからある知らせがフェイトの元に届く。
その知らせはフェイトを新たな戦の舞台に誘うものであった。
ブクマ、評価ありがとうございました!




