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堕女神の願い 叶えなきゃダメですか?  作者: 基山 和裕
二章 レーニアの英雄
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十話 故郷への帰還

評価ありがとうございました(๑•̀ㅂ•́)و✧


 今日は辺境伯からの指名依頼についての説明があるという事なので、エレメンタラーのパーティメンバー全員でギルドのマスターの部屋に来ている。


「アリスンから概要を聞いていると思うが、フェイト達にやってもらいたいのは北部に残っている魔物の残党の討伐と、魔物の領域に飲み込まれてしまっていた街や村の調査だ。これまで何組か冒険者パーティを送ってみたんだが、Cランク、Bランク以上の魔物の姿があったため、ほとんど手が出せていない状態だ」


 なるほど、普通の冒険者にCランク以上の魔物は少々きついな。


「分かった。その魔物共を蹴散らしてくればいいんだな?」

「端的に言うとそうなるな。お前たちが魔物の数を減らせば、他の冒険者が入れるようになるだろうし、辺境伯も兵を安全に進めることができる。こんな任務はお前達にしか任せられない。すまんが、よろしく頼む」


 まあ、俺達が適任だろうな。【サーチ】を使って片っ端から狩っていこう。


「報酬はどうなの?」


 とはエレーナである。さすがお金にはうるさい。


「報酬は白金貨10枚、それと状況や成果によって多少の色はつける。依頼主は辺境伯だ。ケチなことはしないだろう」


 日本円の価値にして1000万円か、まあ悪くはないな。依頼主の辺境伯としても領地を取り戻すことができればこれくらいは安いもんだろう。俺も屋敷の維持と、皆の給料を払う必要があるし助かる。俺も人を養う身になってしまったからなー。


「分かった。引き受ける。俺としても故郷の様子は気になるしな」

「フェイトはトルカナ村の出身だったな」


「まあな、多分魔物にぐちゃぐちゃにされているだろうけどな……」

「……それは気の毒になとしか言えんが、まず最初はそのトルカナ村に向かってもらっても構わん。その辺りはお前達に任せる」


「ああ、そうさせてもらう」

「オスカーとフェリシアも行くんだったな? 馬車はギルドの方で二台用意してあるから使ってくれ。詳しくはアリスンに聞くといい」


 俺と同じ、トルカナ村に住んでいたディアナの両親も一緒に行くことになっている。ちなみに母さんは屋敷で留守番だ。説得はかなり大変だったけどな。


「分かった。感謝する」

「なんの。ギルドで支援できるのはこれくらいのものだからな。結局は何から何までお前さん頼りだ。情けないギルドですまんな」


 まあ、レイモンドはなんだかんだ言っても、いいギルドマスターだと思うんだけどな。


「……これ以上オッサンの弱音や愚痴を聞いても仕方ないんで、そろそろ行かせてもらうぞ?」

「けっ、相変わらず減らず口ばかり叩きやがって。さっさと行ってこい」


「へいへい、それじゃ皆行こうか?」

「う、うん」


 俺達はマスターの部屋を出て、アリスンさんが用意してくれた馬車に乗り、オスカーさんとフェリシアさんと合流するため一旦屋敷に帰った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ご主人様お気をつけて行ってらっしゃませ」


 ロイドが深々と頭を下げ、他のサラを始めとしたメイド達もそれに続く。


「本当は私も行きたかったけど……、帰ってきたらちゃんと村の様子を話すのよ? じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい」

「ああ、分かった母さん。それじゃ行ってくる」


 俺達は簡単に別れの挨拶を済ませ、必要なものを積み込み、馬車に乗ったのだが……。


「えっと、アリスンさん。なんで御者台に座ってるんですか?」

「私はフェイト様の専属秘書です。御者をするのは当然でしょう」


 またいつものように『何がおかしいの?』って表情であっけらかんと答えるアリスンさん。


「いや、そうではなくてですね……、ギルドの仕事の方はいいんですか?」

「ギルドの仕事はハンナに引き継いできました。ですから問題はありません」


 なるほど。ハンナに引き継いで(押し付けて)きたのか。哀れハンナ。どうせ今頃不貞腐れているんだろうな。


「では、すみませんが、御者よろしくお願いします」

「畏まりました。フェイト様」


 ちなみに馬車の一台目には俺達のパーティと御者にアリスンさん。もう一台にオスカーさんとフェリシアさん、そして御者はトビーに任せている。

 屋敷の留守メンバーに見送られて、俺達は魔物の残党狩りと、北方地域の調査開放のために馬車を進めた。当面の目的地は俺達の故郷、トルカナ村だ。レーニアからトルカナまでは約100キロメートルなので、夕刻くらいには着くと思う。


 道中ずっと【サーチ】の魔法をかけていたが、ファングウルフやコボルト、ゴブリンなどEランク以下の雑魚魔物がポツポツ引っかかるだけで、めぼしい魔物は見つからなかった。でも、雑魚と言ってもEランクの魔物は一般人にとっては十分脅威なので、光属性の初級魔法【ライトアロー】を放って駆逐していく。この【ライトアロー】は威力は飛び抜けて大きいというわけではないが、目標に向けて自動追尾してくれるので、遠方にいる敵を屠るのに非常に便利なのだ。


 前を走る俺の馬車から時折光の矢が飛び出して行っている。その様子を後ろのフェリシアさん達は呆れ顔で見ているんじゃないかな?



 というわけで、特に大きなトラブルもなく俺たちはトルカナ村に到着した。正確な日付は分からないが、あの魔族の襲撃を受けてこの村を出てから1ヶ月程経っていると思う。


 その村の様子だが、一言で言うと……廃墟だった。


「これは……ひどい。家が無くなってる……」


 ディアナはそう言ってフェリシアさんに抱きつき、泣いている。

 無人になった村を魔物たちが蹂躙したのだろう。建物という建物が見るも無残な瓦礫と化していた。


「この辺りに俺の家があったはずなんだけどな……」


 俺がこの世界で15年間過ごしてきた家も、もはやどこに何があったのかも思い出せないくらいに滅茶苦茶になっている。


「でも、この村で犠牲者が誰も出なかったのは幸いだな」


 オスカーさんの言葉に皆が同意する。人の命は失われれば二度と元に戻ることは無いが、村ならばもう一度作り直すことはできる。この村も今後新たに開拓村として再スタートを切ることになるのかもしれないが、その為にも北方の魔物の脅威は取り除いておかなければならない。


「とりあえず、今日はここにテントを張って夜を明かすとするか」

「そうね。いつまでも感傷に浸っている場合じゃないわね。フェイト手伝うわ」


 ディアナの目はまだ赤かったが、気丈にも野営の準備を手伝ってくれた。いろいろと修羅場を潜ってきたせいか、精神的にも強くなった気がするな。オスカーさんとフェリシアさんもそんなディアナの姿を誇らしげに見つめている。まあ、愛娘の成長ってのは嬉しいもんだよな。


 さて、俺も感傷に浸るのはやめて、野営の準備に取り掛かろう。と言っても俺の担当は料理なんだけどね。今晩の献立はとっておきを考えているのだ。


 俺は孤児院の修復で魔力の錬金術的な使い方を覚えてから、施行に施行を重ね、ついに醤油の作成に成功した。と言っても一から醤油の製造方法を模索していったのではない。俺は前世で地球にいた時、いつでも異世界に転生しても良いように、ネットでミソや醤油の作り方を勉強していたのだ。だからその知識に沿って魔力を行使したにすぎない。


 確か『異世界転生に備えよう』的なキャッチフレーズの物理学の本を買って読んでたりもした。うん、アホだな俺。……まさか本当に役立つことになるとは思わなかったけど。


 大豆に似たような豆はこの世界にあったので、後は発酵の部分のみ。しかし、麹菌などがこの世界にあるかどうか分からなかったので、そこは俺の魔力で代用した。だから今のところミソと醤油は俺にしか作れない。いずれ麹菌を見つけて、量産体制を構築したいところだが…。それは後で考えるとしよう。


 で、俺が今作ろうとしている料理は肉じゃがと唐揚げだ。幸いにもジャガイモはレーニアで見つけた。肉については現地調達で入手している。ただ、レーニアは海から遠いため、昆布や煮干が手に入らない。だからダシがないのだ。醤油と砂糖のみの味付けとなってしまうが、まあなんとかなるだろう。唐揚げの衣は小麦粉、味付けは醤油とニンニク、胡椒に近い香辛料があったのでそれを使う。


 俺はディアナと手分けしてジャガイモを剥き、肉をさばいて鍋に放り込み火にかける。火をかけると言っても魔法で熱を発生させているので、実際に火はない。煮立ったところでアクを取り、醤油と砂糖を入れた。


「あ、これすごくいい香りね」

「だろ? 俺のとっておきの調味料だ」

「どうやって作ったのかは聞かないけど、これもフェイトの魔法なのよね?」

「そそ、今のところ俺にしか作れないと思う」


 次は唐揚げの調理だが、こちらは油を使わずに、過熱水蒸気魔法【ヘル○オ】で調理する。300℃を超える過熱水蒸気で炙られた肉からは油が滲み出る。その油でカラッと揚がる感じだな。


 しばらくすると醤油の焦げた匂いが辺りに立ち込める。香辛料のスパイシーな香りと相まって非常に食欲をそそる。


「うわ、何だこれすっげえ美味そうな匂いがするんだけど」

「おいこらトリスタン。つまみ食いすんなよ。完成するまで待ってろ」

「いや、つまみ食いなんかしねーって。俺はガキかよ?」


 トリスタン。お前には特別に唐辛子入りの唐揚げをご馳走してやるからな。楽しみにしていろ。


《響介さんって結構ドSですよね》

《いやいや、これくらいはイタズラの範疇だろ》


 程なくして料理は完成。テントも張って、野営の準備は完成した。


「わ、すごいわね。これはフェイトくんとディアナが作ったの? やるじゃないディアナ。もうラブラブの新婚夫婦ね♡」

「もうママ。恥ずかしいからそんなこと言わないでよ」


 ディアナはフェリシアさんの冷やかしに照れはするものの否定はしなくなっている。やっぱアレか、アレがあったからか。……アレが嘘だったってバレた日が俺の命日かもしれん。


《だからー、さっさと押し倒しちゃえば済む話だって言ってるじゃないですか》

《出歯亀堕女神がいなけりゃな》


「それじゃ、みんな揃ったみたいなんで、そろそろ頂きましょうか」

「おう、さっきからいい匂いするし、腹が減って減ってもう我慢出来ねーや」


 トリスタンはフライングして目の前にある唐揚げを手に取りかぶり付いた。が……


「!?」


 唐揚げを咥えたトリスタンは次の瞬間顔がマンガみたいに赤く紅潮する。


「うぎゃぁぁぁぁ!! か、辛れぇぇ! というか痛てぇぇぇ!!」


 俺の特製唐辛子入り唐揚げを食べたトリスタンは、そのあまりの辛さにのたうち回る。


「あーあ、だからつまみ食いはやめろって言っただろトリスタン」

「くっ! ゲホッゲホッ! こ、これは……お前のしわざか」


 俺はにやりと笑い。


「ああ、お前のために作った特製の激辛唐揚げだ。美味かったか?」

「あのな、辛すぎて味なんて分かんねぇよ」


 トリスタンは涙目で抗議するも……。


「別の意味でおいしかったわよ。トリスタンくん」

「フェイトもトリスタン弄りは程々にね」

「トリスタンに慈悲は無用」


 辛辣な言葉を浴びせ、追い打ちをかける女性陣三人。


「みんな、ひでえよ……あんまりだぜ」


 トリスタンの悲壮に満ちたつぶやきに笑いが起こる。


「さて、それじゃ。いただきます」

「「「「「「いただきます!」」」」」」

「あ、ちょっと待て、お前らずるいぞ!」


 『いただきます』は前世での風習だが、俺がトルカナ村で広めたし、屋敷でもやっているので、みんな慣れたものだ。


 ちなみに料理の方は大好評だった。俺としてはダシが効いてない肉じゃがはちょっと物足りなさがあったのだが、皆にとっては食べたことのない料理、今まで味わった事のない味であったため、あっという間に鍋が空っぽになってしまった。

 唐揚げも同様に、結構な量を用意していたのだが、これも全部なくなってしまった。というか、トリスタンお前食いすぎだ。


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