九話 フェイトの日常
うちの屋敷もだいぶ人が増えてきたよな。
数日前メイド見習いとしてケイティとアイリスが孤児院からやってきた。サラさんにはメイドの教育を押し付ける形になって申し訳ないなと思ったが、快く引き受けてくれた。非常にありがたい。
ソフィさんも二人の世話役として来てくれているので多分大丈夫だと思う。
その二人は今元気に屋敷の中を掃除して回っている。俺が見る限り特に問題はない。二人が一人前に成長してきたらサラさんの負担もだいぶ減ることだろう。
ちなみにサラさんから強制されて、ソフィさんもメイド服を着て手伝いをしている。孤児院でのシスター姿も清楚で良かったが、メイド服姿もなかなか似合っているな。というか、アストレイアがやたらとフラグ、フラグって騒ぐから妙に意識してしまう。たまに目が合ったりするとソフィさんの顔が赤くなっている気がするんだが……。
ま、まさかね……。
《やれやれ……白々しいとはこの事ですね》
《いや、そんな意図無いから、良かれと思ってやってるだけだから》
あと、屋敷のことと言えば、警備とか門番の方はトビーとドミニク達に任せている。最初はちょっと心配だったんだけど、意外に真面目に仕事してくれていた。
しかし、問題が無いわけではない。この間ギルドに預けていたお金をおろしに行ったんだが、ギルドに入った途端、中にいた冒険者から一斉に畏怖や奇異、好奇が入り混じった視線を浴びてしまうのだ。
まあ、俺も暫定だがSランクの冒険者。しかも叙爵されて貴族になってしまったからな。不快な視線を浴びてしまうのも仕方ない。これが有名税ってやつか。と思っていたんだが、
「親分! お疲れ様です!」
いきなり、新人と思しき冒険者達からそう声をかけられた。
「は? 親分? それって俺のこと?」
「は、はい。ドミニクさんからフェイトさんはこのレーニアの冒険者の頂点に立つ人物。だからお会いしたら必ず挨拶をしろと伺っています」
「…………」
どうもレーニアでは俺に逆らうと冒険者として生きていけない。そうドミニク達が新人冒険者達に触れ回っているようだ。ギルドに入った時に浴びた視線の原因はこれか……。
ドミニクの野郎、後でたっぷりと教育が必要だな。
《ちなみに響介さんが孤児院から幼女を拐って奴隷メイドにしているって噂も流れてますよ》
《……マジですか?》
どうしてこう孤児院に行くたびに不本意な噂が流れるのか……誰か監視してるのか? さっきから女性冒険者からの蔑すんだ視線が痛いくらい突き刺さってくるけど、つまりはそういうことか。 ……まあいい、気を取り直して。
「いや、俺もお前たちと同じ冒険者だから別にそんなに畏まらなくていい。というか、頼むから普通に接してくれ」
「あ、ありがとうございます。さすがフェイトさん! 心が広いですね!」
余程ドミニクの教育が行き届いているのか、何を言っても聞いちゃくれねー。俺は諦めることにした。
ちなみに話は変わるけど、ドミニクはBランクに昇格している。元々実力があったがその素行の悪さでCランクに留まっていただけだったのだ。俺と関わりその素行の悪さが消えたために昇格が決まった。
Bランクと言えば冒険者としてはかなりの上位者だ。新人の冒険者なら言いなりになってしまうのも無理はないかもしれない。
このドミニクの変貌については、レイモンドから「何をやった?」と聞かれたので「きちんと話し合ったら改心してくれた」と答えてやったら、ため息をついてそれ以上は追求して来なかった。うん、レイモンドは察しが良くて助かるな。
さて、その当のドミニクだが、俺がギルドから帰った後、教育として新魔法の実験台になってもらった。かける魔法の名前は《フリクションロス》。以前ドミニクに使った《ゼロフリクション》は摩擦を完全にゼロにする魔法だが、今回の《フリクションロス》はその名の通り、摩擦力を高める魔法だ。
この魔法をかけるとドミニクは……全く動けなくなった。というのも服が摩擦で衣擦れを起こせなくなったので、服が体に纏わりついて動けないのだ。水をたっぷり含んだピッチピチの服を着ているイメージだな。無理に動けば、服か皮膚が裂けてしまう。
……我ながらまた恐ろしい魔法を開発してしまったものだ。
《これで幼女を拘束して毒牙にかけるんですね》
《お前はいいから黙ってろって》
「なあ、ドミニク。お前がなんでこんな目に会ってるか分かるか?」
「い、いえ……」
口元の摩擦は解除してやる。しゃべれないからな。この様子を後ろで見ているアーヴィンとゴードンは完全に青ざめてブルっている。
「お前新人の冒険者に教育と表して、俺のことをレーニアの支配者だとか吹き込んでいるだろう。あれな? 変な噂が立つからやめて欲しい。分かったら魔法を解除する……いいか?」
ドミニクは物凄い勢いでコクコクと頷く。俺はその様子を見て魔法を解除。直後、ドミニクはその場にへたり込む。
「まあ、お前たちの気持ちは分かるんだけど、何事もやり過ぎは良くない。だからあまり余計なことをしないで欲しい」
「「「わ、分かりました! 以後、気をつけます!」」」
俺の忠告に対して、ビシッ! と敬礼で返す三人。
……本当に分かってるのかなぁ? ちょっと心配だけど様子を見るしか無い。トビーにもちゃんと三人を監督するように言っておこう。
(はぁ……なんか精神的に疲れた。ちょっと気分転換でもするか)
俺は庭の隅の方に作った訓練場に向かう。この訓練場は周囲を鉄製の壁で囲っているため多少の無茶でもなんとかなる。だから新魔法の開発なんかもここでやっていたりする。
でも、訓練場で汗を流して気分転換を図ろうというわけではない。俺は頭脳労働派なのだ。最近はもっぱら錬金術のトレーニングに凝っている。
練習場の扉を開けると、そこには既に先客がいた。ディアナがその長く美しいポニーテールをなびかせながら、一心に剣を振るっていたのだ。
「あ、フェイト。あなたも訓練?」
「ああ、ちょっと魔法の訓練をと思って」
ディアナはほぼ毎日の様に訓練場に来て剣術の特訓をしている。グリフォンを倒せる実力がありながら、驕り、慢心は一切ない。素直にすごいなと思う。
最近は魔法剣に凝っている様だ。剣に風の魔力、火の魔力を通せば切れ味も向上するし、魔力による追加ダメージが発生する。俺も真似出来ないディアナだけのオリジナルの技だ。ディアナは俺が教えた魔力操作を基礎として、自分なりに試行錯誤を繰り返し、今のスタイルを確立している。もう脱帽ものだよな。何が彼女をここまで駆り立てるのかちょっと良く分からないけど。
《……はぁ》
《なんだよ? 何か言いたげだな?》
《なんでもないですよー》
《……?》
(原因は響介さんなのになぁ)
「折角だからディアナの訓練に付き合うよ」
「え? ほんと? じゃあお願いしちゃおうかな」
「おう、まかせろ」
まかせろと言ったが、俺がディアナとガチで模擬戦をするわけではない。何度も言っているが俺は頭脳労働派だ。
「準備はOKよ」
「ほんじゃ、始めるぞ」
そう言って俺は地面に魔力を通す。すると地面から岩が隆起し、人の形をとる。これは所謂ゴーレムってやつだ。
俺は岩でできた身長二メートル程のストーンゴーレムを五体生み出し、それをディアナにけしかける。
このゴーレムは自律思考、自律行動はできない。簡単なルーチンワークならば魔力で回路を刻み、プログラミングできるんだが、さすがに複雑なAIを魔力で構築するのは無理だ。よって、直接魔力を通してゴーレムを操作する必要がある。これが魔力操作の訓練に最適なんだよな。さらに相手がディアナなんで、実に緻密な魔力の操作が要求される。
ゴーレムを生成する錬金術のトレーニングにもなるので一石二鳥だ。
これを極めれば俺は魔力をもっと有効に使えるようになるかもしれない。例えば魔道具の開発とかな。最近魔道具を解析して分かった事なんだが、魔道具の中には魔力によって刻まれた回路、魔力回路がある。この回路が作動して魔道具に魔法的な効果が発動するようになっている。魔道具の開発、作成はこの世界では既にロストテクノロジーになっているが、詠唱、魔法陣を必要としない俺ならばできると思う。
おっと、思考が長くなってしまった。俺はストーンゴーレム一体をディアナに突っ込ませ、殴り掛かる。ディアナはそのゴーレムの攻撃を躱し、風と炎を纏わせた剣で袈裟懸けに切りつけた。
切られたゴーレムはあっさりと真っ二つになる。っておいおい、ゴーレムの切り口が赤く赤熱してるんですが……ヒート◯ーベルかよ。あれ人間が食らったら蒸発しちゃいませんかね。だがな、ディアナちゃん。そのゴーレムは囮だったのだよ。それと誰も五体だけで戦うとは言ってないよ。
俺は地面に魔力を通して、ディアナの足元からゴーレムの腕を生やしディアナの両足首を掴んだ。
「!?」
更に後ろに回り込ませていたゴーレムがディアナを襲う。足を固定されての真後ろからの攻撃。これは防げないかなと思ったんだけど。
「このっ!」
ディアナは即座にエアハンマーを放ち、足を掴んだゴーレム腕を破壊。そして振り向きざまに後ろのゴーレムを両断し、残りの三体のゴーレムも、風の魔力を乗せた飛剣エクスカリバーで粉砕した。
うわぁ。強ぇよディアナ。動きキレッキレじゃん。ジェット◯トリームアタックやりたかったのにやる暇なかったよ。
もしかしたら俺を除いたら人類最強かもしれん。
「はぁ、今のはちょっとヒヤッとしたよ。やっぱり一人でやる訓練と、実戦は違うね」
「う、うん。そうだね……」
「フェイト、もうちょっとだけ付き合って欲しいな。あともう少しで何か掴めそうなの」
「お、おう。分かった」
やばいな。俺のディアナがどんどん戦闘狂になっていく……どうしよう?
ディアナもどんどん成長してチートキャラ化していきます。




