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堕女神の願い 叶えなきゃダメですか?  作者: 基山 和裕
二章 レーニアの英雄
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四話 レティシア


「お父様からいろいろと話を聞いておりましたが、レーニアの英雄はお強いだけではなく、随分と手も早い様ですわね」


 辺境伯令嬢レティシアは不機嫌そうに、蔑んだ目で俺を見る。


 そのレティシアの容姿は一言で言うと金髪ドリルだ。その上で「ですわ」か……アニメで出てくるような貴族令嬢そんままだな。しかもハルベルトの話ではレティシアの母親は王族の出らしい。だからレティシアから放たれるこの気品は、その王族の血筋がなせるモノなのかもしれない。


「ディアナは幼馴染で長い付き合いだから、手を出すもなにもないんですけどね……」

「あら、そうですのね。まあそれはいいでしょう。しかし、いくら貴族の末席に加わったとはいえ、辺境伯令嬢である私に対する態度がなっていないのではなくて?」


 レティシアは貴族令嬢オーラを放ち、高圧的な態度でまくし立てる。だが、その程度で屈する俺ではない。ディアナはちょっとオロオロしているが……。


「ご無礼を致したことについては謝罪致します。ですが、まさか辺境伯令嬢ともあろうお方が、供の一人も付けずにこの様な人気のないバルコニーにいらっしゃるとは思いも寄らなかった故、気が付きませんでした。お邪魔をしたのであればこれにて失礼させて頂きます」


「う、それは、私にも多少の落ち度があったかもしれませんが……、なるほど。普通の殿方であれば私に醜く媚を売ってくる所なのですが、レーニアの英雄は少し違うようですわね」


 いや、ガチで本当に興味がないだけなんですが……なんか良い方向に勘違いされてる? もしかして俺を試そうとしていたのか?

 ハルベルトが何か話してるのかな?


「ところで、レティシア様はどうしてこの様な所に?」

「敬称は必要ありません。レティシアと呼びなさい。お父様の話ではあなたは私の未来の夫となる方……かもしれないのですからね」


 ハルベルト、話ししてやがったか。

 そのレティシアの一言を聞いたディアナの表情が固まる。


「いや、あの……それは?」

「ディアナと言いましたね。ご安心なさい。あれはいつものお父様の戯言ですので」


 戯言なのか? ハルベルトは結構本気っぽかったけど……。


「分かったよレティシア。それから言葉遣いも普段通りでかまわないか?」

「それで結構ですわ。そらから、先程のあなたの問いに答えておりませんでしたわね。私がなぜここに居たのか……それは簡単ですわ。貴族たちのおべっかに気を使うのが嫌になって逃げ出しただけです」


 確かにな、俺も今日一日だけでうんざりだし。貴族たちは上辺では賞賛の声をかけてくるが、その腹の中では何を考えているのか分かったものじゃない。これが上級貴族の令嬢であるレティシアの日常なのだろうな。さすがにこれは同情する。


「貴族令嬢も楽じゃないな」

「全くですわ。でもいい退屈しのぎを見つけたかもしれませんね。ここで立ち話もなんですから、あそこでお二人のお話をもっと聞かせてくれないかしら?」


 と、レティシアは言いながら、バルコニーの端に置かれたテーブル席を指差す。


「まあ、話すだけなら……俺もパーティに戻るのは嫌だし、ディアナはそれでいいか?」

「うん。別に構わないよ」


 俺達は席に座る。


「自己紹介はもういいよな?」

「ええ、構いませんわ。堅苦しい話は嫌いだから、ディアナも私のことを呼び捨てにして結構ですわよ」

「いいんですか?」


 ディアナは戸惑いがちに聞き返す。


「私は同年代で気軽に話せる友達が欲しかったのよ。全然問題ありませんわ」

「そういうことでしたら……よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくですわ、ディアナ」


 ふむ、第一印象とは違って案外、気さくな性格なんだな。見た目と雰囲気で勘違いされるタイプなのかもしれない。あと、肩書きも影響しているんだろうな。

 

 ――俺たち三人はしばらく談笑する。と言ってもほとんどがディアナとレティシアの二人で話しているんだけどね。やっぱり同年代の女の子同士、話が合うようだ。

 俺はちょっと蚊帳の外みたいな感じになってきたので、気分を紛らわすために外の景色を見ていたのだが、急にレティシアに話を振られる。


「私が興味があるのはあなたのその強さですわ。そのお年で一体どうやってレッドドラゴンを退ける事ができる力を手に入れたのかしら?」


「え? ああ、そうだな……。その質問に答える前にちょっと聞いておきたい事があるんだが、レティシアは俺が怖くないのか? 俺がその気になればいつだってこのレーニアを灰にする事ができるんだぞ?」


 するとレティシアは何を今更と言いたそうな顔をして、


「あなたはSSランクの魔物を単独で倒したのよ。つまりSSSランクの魔物並みの力を持っていることになるわ。そんな世界を滅ぼせるような相手を前にして怖がったり、逃げたりしても何の意味もありませんわ」


 ……こいつ、肝が座ってんな。もしかしたらかなりの器なのかもしれない。ん? もしかしてハルベルトのやつ、俺を繋ぎ留めるために娘をよこそうとしてるんじゃなくて、自分の手に余るこのじゃじゃ馬を俺に押し付けようとしているだけなんじゃないか?


 うーむ。十分あり得る。


「分かった。若干俺が人間扱いされてないような気がするが……まあ、いいか」


 変に怖がられたり、気を使われるよりは全然いい。むしろ助かる。


「そちらの質問に答えたのだから、今度は私の質問にも答えてくれないかしら」


 む……、どうしよう。なんて答えればいいのか。

 俺が答えに詰まっている様子を見て、レティシアが核心を突いた一言を投げかけてきた。


「あなたもしかして女神様か、他の神々の使徒なのではないかしら?」

「ほえ!? いやまさかそれはないだろう……」


 うわ、しまった。ちょっと声がうわずった。


「そうかしら? あなたのこれまでの活躍、神の使徒でないと考える方がむしろ不自然に見えますわ」


 なんだろう、こいつ。本当の事を知っているのか、それとも単にカマをかけているのか。


「いや……あのな?」


 俺は冷や汗をかく。隣りに座っているディアナも緊張した面持ちで俺を見ている。するとレティシアは妙に芝居がかった口調でこう述べた。


「ふふ……、少々意地悪な質問でしたわね。あなたにも他人には打ち明けられない事情があるのでしょう。ここで無理に問い詰めてレーニアの英雄の怒りを買ってしまっては、私の人生はここで終わってしまいますわね」


「いや、それくらいで怒ったりしないから。でもな、そうしてもらえると助かる。今はちょっと言えないが、いずれ時が来れば話すよ。それは約束する」

「分かりましたわ。今はそれで手を打っておく事に致しましょう」


 ……ああ、なんてこった。最初から完全にレティシアのペースじゃないか。レティシアの方が立場が上とはいえ、俺がここまで丸め込まれるとは……。ハルベルトの奴め、とんでもないやつを押し付けてくれたな。


 まあ、いいや。話題を変えよう。


「はぁ、他にも聞きたいことってあるのか?」


 と、俺が聞くとレティシアは目を輝かせて


「ええ、ズバリ二人の関係についてお聞きしたいですわ。幼馴染とおっしゃってましたが、二人がどうやって過ごされていたのか、それと二人の馴れ初めとかいろいろ聞きたいですわ」

「え? 私? でも、馴れ初めって……そんな」


 急に話を振られたディアナは顔を真っ赤にしてあたふたしている。それにしても、こいつ先程までは鋭い観察眼で俺に冷や汗をかかせていたのに、今はまるで恋バナに夢中の年相応の娘に見える。どっちがレティシアの本当の姿なのだろうか、良く分からないが、食えないやつだ。


 ディアナもいきなりの質問に最初は少し戸惑っていたがすぐに恋バナトークが盛り上がる。そして俺はまたもや蚊帳の外に……。

 レティシアが同年代の話し相手が欲しいと言っていたのは本心なのだろうな。この二人はいい友達になるかもしれない。


「オークキングを討伐した祝勝会の夜に二人は同じ部屋に泊まったのですわよね? それで? それで? その後どうしたんですの?」


 俺がまたぼーっと外を眺めていると、話がいつの間にか変な方向に行っていることに気付く。ちょっと待て、それはヤバイ。


「え? そ、その夜はフェイトと……その……んぐっ!」


 ディアナストーップ! 話がエスカレートし、ディアナが例のエア朝チュンの話をしようとしていたので俺は慌ててディアナの口をふさぎ止めた。あかん、ちょっと不自然だったか?


 レティシアが訝しげな目でジーっと俺を見ている。そして、ニヤリと笑った。

 くっ! もしかして気付かれた? どうもまた弱みを握られたっぽいよな。こいつにはもう一生頭が上がらんかもしれん……。


 ハルベルトほんと恨むぞ。


「ふふ……二人は本当に仲がよろしいのですわね。もう少しお話したいところなのですが、もうそろそろ戻った方がいいですわね」

「あ、ああそうだな。もう随分と話し込んでしまっているしな」

「うん、じゃあ戻ろっか」


 三人は席を立ち、会場へと戻った。ただ会場に入った所でやはりと言うかどうしても注目が集まってしまう。ディアナという美少女と、辺境伯の娘レティシアを両脇に引き連れて歩いているのだから当然といえば当然か。


「おやおや、俺から紹介しようと思っていたが、その必要はなかった様だな。娘と仲良くなってくれたみたいで安心したぞ」


 と、レティシアの父、ハルベルトが話しかけてくるが、こいつとんでもないモノ押し付けて来やがって……そのホクホクした満足げな顔がすげームカつく。


「別に仲良くなったわけじゃないですよ。ちょっと話をしていただけですって」

「いやいや、娘と普通に話ができる者などそういない。やはり君に預けてよかったな」


 いえ、だから預かってませんて……。ちなみにレティシアとディアナは少し離れたところで談笑している。この二人はこの短期間で随分仲良くなったよな。


「あの、辺境伯様。その件はお断りしているはずですけど?」

「まあ、そう硬いことを言うな。あ、それから言い忘れていたが今回の報奨の一つとして屋敷をやろう。準男爵とあろうものが屋敷の一つも持っていないのでは締まらないからな。娘共々よろしく頼む」


 また性懲りもなく娘をねじ込んでくる。こいつ話聞いてるのかよ。統治者としてはこれくらいの強引さは必要なのかもしれないが……あと、屋敷って……まあ、ありがたいっちゃありがたいんだけど。


「屋敷? 貰ってもいいのか?」

「ああ、それくらいはさせてくれ。明日家臣の者に案内させよう。今日はもう遅いから俺の屋敷に泊まってくれて構わない。んーそうだな部屋は、レテーー」


「レティシアの部屋ってのはナシですよ?」


 俺はハルベルトが言い終える前に否定の言葉を被せた。


「お、おう……分かってる分かってるとも」


 本当に分かってんのかなこいつ? 俺はため息をつき、会場を見回す。パーティも終わりに近づき、人もまばらになってきた。あ、そういえばトリスタンとエレーナはどうしてる? あと母さんも。


 トリスタンは、あー。飲めもしないのに酒を飲んで目を回してやがる。エレーナの方はというと、母さんの膝枕の上で気持ちよさそうに寝てるし……ドレスとか色々と台無しだ。


 ……とりあえず引き上げて休むか。俺はディアナに声をかけて母さんたちの元に向かうのだった。


レティシアが今後物語にどう食い込んでくるのかは乞うご期待という事でよろしくお願いします。

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