二話 パーティドレスを買おう
ブクマありがとうございます。
俺達は今レーニアにある高級そうな服飾店に来ている。
なぜなら辺境伯に招かれた祝勝パーティー、そこに着ていく服が無い事に気付いたからだ。辺境伯の寄り子の貴族たちも出席する宴に、まさか冒険者の格好で行くわけにはいかない。
しかし、祝勝パーティーは今夜だ。今からではオーダーメイドは間に合わないので、出来合いの服でなんとか合わせるしかない。
お金の方は心配しなくてもいいな。報酬出たばっかりだし。
俺は無難に貴族の礼服っぽいやつで自分に合うサイズの服を探している。
ディアナの方はというと……あいつウエディングドレスの前で固まっているな。多分また妄想の世界に旅立っているのかもしれない。
エレーナの方はドレスを何着も脇に抱え、試着室に突入していた。相変わらずマイペースなやつだ。
そして皆思い思いに服を漁っているうちに、店に来て一時間ほど経った。俺とトリスタンは既に買う服を決め、店内にある椅子に腰掛け、女性陣二人を待つ。
「やっぱ女ってこういうの時間かかるよな」
「仕方ないだろ、男はバリエーション少ないからすぐ決まるが、女の子はなぁ。こんだけある中から選べって言われても、さすがに迷うだろ」
店内の男物、女物の服の割合は2:8くらいだ。どの世界でも女性は華やかに着飾りたいということなのだろう。
「そう言えば、フェイト」
「ん? なんだ?」
トリスタンが改まって聞いてくる。
「貴族になるって事は家名はどうするんだ?」
んー、家名か。やっぱ気になるよな。
このエレクトラ王国では平民は家名を名乗ることは許されていない。家名は貴族だけの特権となっている。俺はノイマン辺境伯から準男爵の爵位を叙爵されたため、家名を名乗ることを許されることになるわけなんだが。
「家名については今日の祝勝パーティで公表されるから、その時までのお楽しみだな」
「けっ、もったいぶりやがって」
「トリスタン、さっきも言ったが言葉遣いには気をつけろよ? 俺が不敬だと思えばいつでも処罰できるんだからな?」
俺は冗談めかしてそう言うと。
「いや、だからそれやめろって。俺にとってフェイトはフェイトなんだから、今更敬語とか無理だって」
「ああ、俺も無理だ。敬語を話すトリスタンなんでむず痒くてしかたない。笑い転げる自信があるぞ?」
それを聞いたトリスタンは嫌そうな顔をして。
「だったら最初から言うなよ。俺をからかってるのか?」
その通りだ! とは言わず俺は嘲笑を浮かべる。
「ちぇ、お前本当にいい性格してるよな?」
「まあな、褒めても何もやらんぞ」
「褒めてねーよ!」
俺がひとしきりトリスタンをからかって遊んでいると……。
「二人共暇だったら私達のドレスを見てくれないかしら?」
と、腰に手を当てジト目でこちらを睨んでいる女性陣二人の姿があった。
あ、はい。是非見させて頂きます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フェイト、どれがいいと思う?」
うーん。どれがいいと言われましても女の子の服なんか選んだ事ないし、ましてや異世界の常識や流行なんて分からないぞ?
仕方ないので、適当に俺の好みでいってみるか。
「ディアナの長くて赤い髪に合せて、ドレスも赤系統にした方がいいんじゃないかな。これなんかどうだ?」
俺が指差したのは赤いロングのスカートで、白いブラウスっぽい服の上に赤いカーディガンが羽織られたドレスだ。俺は別に気にしていないのだがディアナは腕に付いた筋肉を見られるのを嫌がっている。だからその二の腕が隠れるようなドレスを選んでみた。
「あ、そうね。ちょっと大人っぽくていいかも。ちょっと試着してもいい?」
と、ちょっとうれしそうに答えるディアナ。
俺は女性店員を呼んで、服を試着したい旨を伝えると、その店員はディアナを案内し試着室に入っていった。
あれでよかったのかな? と少し不安に思っていると、急に後ろから袖をクイクイと引っ張られた。
後ろを振り向くとジーっと物欲しそうな目で俺を見るエレーナが立っていた。
「お前も選んで欲しいのか?」
コクコクと頷くエレーナ。と言ってもなぁ。
「トリスタンに選んでもらえよ」
「あいつはダメ。センスない」
と、エレーナにバッサリと切り捨てられるトリスタン。エレーナのトリスタンに対する評価ってどうなってるんだろうか。うーん、仕方ないなぁ。
エレーナは大人っぽいというよりも可愛らしい系で行った方がいいよな。あとエレーナは銀髪なので色は青系の落ち着いた感じの方が合うだろう。だとすればこれかな。
「エレーナ、こういうのはどうだ?」
俺が選んだのは、エレーナの細身の体に合わせた全体的にシルエットが細めのワンピースのドレスで、色は水色系、肩からフリル付きのケープの様なものが羽織られている。
というのもエレーナはアレだ、お世辞にもお胸が大きいとは言えないので、胸を強調するのではなく、ケープで隠して可愛らしさを演出した方がいいと思った。
「!? ……これ着てみる」
そう言ってエレーナもディアナと同様に試着室の中に消えていった。
「お前すげーな。女の服のことなんて俺にはさっぱりだぜ」
「あのな……お前そんなんだと女にモテないぞ」
エレーナの評価は最もだったな。こいつ役に立たねー。
「それは関係ないだろ? 俺が強くなれば女なんていくらでもついてくるって」
「はぁ、単細胞は気楽でいいよな」
そりゃ強さも重要なファクターだとは思うが、それだけじゃダメだろ。俺の35年の前世の経験から言って。
「は? なんだよそのタンサイボーって、意味が分からないけど、なんだかバカにされているような気がするぞ」
「良く分かったな、えらいぞトリスタン」
「うがー、やっぱお前ムカつく!」
いかんな。最近アストレイアからの念話がないので、ついついトリスタンに絡んでしまう。あれはあれで俺の日常の一部になっていたということか。少々悔しいが認めざるをえない。
「おい、フェイト聞いてるのか?」
「ん? ああ聞いてるぞ? これからお前が娼館に行くって話だったよな? でも俺は遠慮しとくよ」
「は? 誰がそんな話してたんだ?」
いきなり変な話を振られ混乱するトリスタン。だが、時既に遅し。
「え……トリスタン、そんなところ行ってるの?」
「トリスタン、サイテー」
と、まるでゴミでも見るかのような冷めた目でトリスタンを睨むディアナとエレーナがそこにいた。
「え! いや、ちがう! これはフェイトが勝手に……うがー! フェイト、お前! 俺をはめやがったな!」
トリスタンは俺の襟元を掴んでガクガクと揺すりながら叫ぶ。
さすがにこれ以上は可哀想なので、俺はディアナとエレーナに単なる冗談だと説明した。
「はぁ、フェイトもトリスタンで遊ぶのは程々にね」
ディアナは『めっ!』みたいな仕草で俺に注意する。
「いや~、だってこいつ弄りやすいんだもん。ついついやっちゃうんだよ」
「トリスタンはこれくらいの扱いがちょうどいい」
相変わらず容赦のないエレーナ。ディアナも『トリスタンで遊ぶ』とか結構ひどいこと行ってると思うんですが。まあ、俺が言うのもなんだけどね。
「なんかみんな俺の扱いが酷くないか?」
「まあ、弄られやすいってのも貴重な個性だ。それはそれで良いじゃないか」
「やだよそんな個性」
完全に不貞腐れるトリスタン。すると店員がこちらに近付いてくるのが見えた。なんだろう?
「あのー? お客様? 店内では静かにして頂けますでしょうか?」
う……店員さんに怒られてしまった。
それから俺達は店員達により店から追い出される事になった……。まあ、一応買うものも買ったから良いんだけどね。でももう二度とこの店には行けないかもしれない。
なんかトリスタン弄るの楽しいんですよね。自分はもしかしたらドSかもしれません。




