一話 Sランクと叙爵
二章スタートです。
この章はストーリーが急展開する三章へのつなぎの章で、日常回が多くなるかもしれません。
なるべくキャラの魅力を引き出せる様に努力したいと思いますのでよろしくお願い致します。
「やってくれたなフェイト」
ギルドマスターの部屋に呼ばれたんで、行ってみたら、開口一番これである。俺、何か悪いことしましたかね?
でも別に怒っているわけでは無い事は、レイモンドの口調と態度で何となく分かるんだけどな。
「魔物の群れ約3万の殲滅、魔族の王ケルソの撃破、それに加えてレッドドラゴンも討伐…………なあ、一体ギルドとしてお前にどう報いればいいと思う?」
「そんなこと俺に聞かれてもな」
俺はただ、レーニアを守るために戦っただけだし。
「金か?」
「いや、正直金は使い道がないんだよな」
「そうなるとランクアップで報いなければならないが、SSランクの魔物の単独討伐など、当然前例がない」
そうでしょうね。
「しかし、ランクアップするにしても、レッドドラゴンを狩れる冒険者がAランクではおかしい」
かもしれませんね。
「もう冒険者ランクをSにするしかないと思うんだがな。どう思う?」
おいおい。また二階級特進かよ……。
「えー、Sランクだとなんか面倒くさいことにならないか?」
「国とか、貴族のお偉いさん方がお前を抱え込もうとして声をかけてくるかもしれないな。あと当然指名依頼もくるだろう」
ああ……やっぱりそうなるのね。俺はただ邪神を倒したいだけなのだ。そんな面倒くさい事は御免こうむりたい。
「もう諦めろ、お前はどのみちランクSになる。遅かれ早かれだ」
「面倒事に巻き込まれるのは嫌ですよ」
特に王都のゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁だな。
「そうは言ってもな……」
レイモンドが頭を抱える。なんか、すまんな。
「俺からもいいか?」
横から口を挟んできたのはレーニアの領主、ハルベルトだ。
「何でしょうか?」
……嫌な予感がする。
「君はレーニアを救ってくれた英雄だ。ここレーニアを治める領主として俺も君に報いなければならない。…………ところでな。フェイト君。君は貴族になる気は無いか? 準男爵の枠が一つ空いているのだが……」
ほら来た。叙爵か。貴族になったら色々と行動に制限がかかってしまうだろうな。この先ドラゴン達を開放していくのに支障が出るかもしれない。
「いえ、お断りします。貴族なんて柄じゃないですよ」
俺の返答を聞いて焦りだすハルベルト。
「いや、それでは困るんだ。レーニアを救った英雄に何もしないのでは領主としての資質を問われてしまうんだよ。それなら私の娘も君に預けよう。これならどうだ?」
「娘さんって、まだお会いしたことも無いですし、もしそれを受けちゃうと俺ディアナに殺されるんで勘弁してください」
まあ、ハルベルトの本心は俺をここに繋ぎとめておきたいってところなんだろう。SSランクの魔物を単独撃破できる人物など、おそらくこの世界には居ないだろうからな。
まあ、別にハルベルトは悪いやつじゃ無いって事はわかってるんだけど、俺の目的、行動に制限が加わる様な事はできれば避けたい。
頑なに報酬を固辞するフェイトに困惑するレイモンドとハルベルト。
「無欲も度が過ぎると逆に疑わしく見えるぞ」
俺は別に無欲ってわけではない、ただ単に自分の目的を優先したいだけだ。でもその目的についてこの二人に説明するわけにもいかない。どうしたもんかな。
「はぁ、分かったよ。Sランクの件は引き受ける。ただし、面倒事は無い様にな。あと、叙爵についても形式だけで実態のないものであればお受けします。あと娘さんの件はお断りしますね。別に辺境伯の娘さんが嫌だってわけじゃなくて、自分の命が惜しいだけですので」
俺は色々と注文をつけながらも二人の提案を受け入れることにした。それにしても特に意識しているわけではないがハルベルトは一応貴族だからな、自然と敬語になってしまうな。
「形だけの爵位か……、まあ今はそれでもいいか。変な役目は押し付けん。ただし俺の寄子って事にしてくれよ」
「それは……その方が良いかもしれませんね。その代わり変な貴族が擦り寄って来ないように俺を守ってくださいよ」
「それは分かっている。俺の寄子だと宣言しておけば、妙なやつは近づいて来ないだろう」
「それを聞いて安心しました」
俺は安堵のため息をつく。
「Sランクも形だけみたいなもんだ。今と大して変わらん」
「今も大概だと思うんだけどな」
「うるせーな。お前はこれまでが異常だったんだよ」
それを言ったらこれからも保障はできないと思うんだけどなぁ。まあ、それを言っても仕方ないか。
「それからな、Sランクにすると言ったが、一応王都にあるギルド本部に申請し承認が下りなければSランクは名乗れない。それまでは暫定Sランクということにしておいてくれ」
まあ、そうだろうな。レイモンドはあくまで一都市のギルドのマスターだ。Sランクの冒険者を認定する権限は持っていないのだろう。
「この件については俺の方からもギルド本部に推薦状を送る。もしかしたら何か注文が付くかもしれないが、まず承認される事だろう」
辺境伯からの推薦はギルドとしても無視はできないというところか、でもこれハルベルトに貸しを作ったみたいでなんかヤダな。
「あと、これはギルドとノイマン辺境伯からの報酬だ、白金貨で五十枚ある。金はいらんと言っていたが、あって困るものでもあるまい。素直に受け取っておけ」
レイモンドは机の上に金貨が入っていると思しき袋を俺の前に置く。
白金貨は一枚が約100万円程の価値があるわけだから、五十枚で五千万円の価値になるわけか。俺も一夜で金持ちですね。
「そこまで言うんなら受け取っておく。でもこれだけの大金を持ち歩くのは危険だからギルドに預けておくぞ」
「分かった。ギルドカードを提示すればいつでも引き出せるようにしておく」
俺は金貨の入った袋を再びレイモンドの前に移動させた。さすが白金貨五十枚、袋はズシリと重かった。
俺はその後もいくつかレイモントとハルベルトとやり取りをして、話を詰めていった。
「もうこれで終わりですか? 俺は行っていいんですかね?」
「あと今日の夜、俺の屋敷でフェイトを歓迎して祝勝パーティをやる予定だからな。ちゃんと来てくれよ。お前のパーティメンバーも誘ってな。そこで俺の娘も紹介するから……ってなあ、そんな露骨に嫌な顔するなよ」
はぁ、まだ諦めてなかったのかこの人。
「分かりました。パーティにはお伺いします。娘さんにも挨拶はしますが、それ以上のことはないですよ?」
「う……分かった分かった」
あやしいなぁ。この人。本当に分かってるのかな?
「では、これで失礼します」
俺はギルドマスターの部屋を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
いつもなら、領主から娘さんを押し付けられた時に、堕女神からの冷やかしの念話が入っていたところなんだけどな。
あれから、レッドドラゴンを倒した時から全くアストレイアからの念話が来ない。
まだリディルのところに行っているんだろうか。来たら来たで鬱陶しいんだが、来なければそれはそれで違和感がある、というか調子が狂う。
……別にあいつがいなくて寂しいってわけじゃないんだからね?
まあ、5年間毎日の様にアストレイアの与太話に付き合っていたからな。慣れとは恐ろしいものだ。
そんなことを考えながら歩いていると、
「よっ! 話はついたのか?」
と声をかけられた。このノーテンキな声の主は……。
「……なんだトリスタンか」
「なんだはないだろ。おまえ、ボーッとしていたけど、何か考え事でもしていたのか?」
「んー、まあな。そんなところだ」
俺は横に目をやると、ディアナとエレーナもこちらを見ている。
「あそこで座って話そうか?」
俺はそう言ってギルドに併設されている食堂兼酒場を指差した。ディアナとエレーナはそれに頷いた。
今の時間帯は昼前ということもあり、依頼を探しに来ている冒険者も少なく食堂はガランとしていた。なのでテーブルも余裕で確保できた。
全員がテーブルに着いたところで、俺は口を開く。
「さて、話し合いの結果についてだが、単刀直入に言うと俺はSランクになった」
「えっ!」
「げ! マジかよ。嘘じゃないよな?」
ディアナとトリスタンが驚き声を上げる。トリスタンは思わず立ち上がっているし……、エレーナの方はさも当然みたいな顔をしてウンウンと頷いている。相変わらずマイペースなやつだ。
「なったと言っても、ギルド本部に認められる必要があるから、まだ暫定的にだけどな」
ギルド本部の認定に何やらされるのか、まだ分からないし。
「暫定でもすごいよフェイト」
「すごいを通り越して呆れるしかないな。ところで俺達については何か言ってたか?」
トリスタンが身を乗り出して聞いてくる。
「トリスタン達についてはまだ聞いてないけど、後でギルドから連絡があるんじゃないかな? ランク上がるかどうかはあの時の活躍次第だと思う。グリフォンを狩ったって聞いてるから十分ランクアップの目があるんじゃないか?」
俺の言葉に三人が表情を綻ばせる。
「うーん、でもさすがにフェイトと比べると霞んじゃうかな」
「もう人間やめたこいつと比べること自体間違ってるって」
トリスタン、てめぇな……。俺はふとエレーナに目をやると、エレーナはキラキラした目で俺をじっと見ている。
「フェイトお金は? 報酬は?」
……こいつ、ほんとに金には目がないな。まあ、事情は分かるんだけどな。
「報酬は白金貨五十枚だな」
「はっ、白金貨五十枚ぃぃぃ!!」
声がでけーよトリスタン。ほら、回りの冒険者たちがこっち見てるだろ?
「トリスタンうるさい」
エレーナに窘められるトリスタン。
「フェイトはレーニアを救った英雄だからね。レッドドラゴンも倒したし、それくらいは当然よね」
「フェイトお金持ち、ボクの目に狂いはなかった」
エレーナとディアナは目を輝かせる。
「あとそれとな。もう一つお前たちに話しておかなければならないことがある。特にトリスタンにだ」
「あ? なんで俺なんだよ。フェイト」
トリスタンはあからさまに不機嫌な顔をする。俺は偉そうにふんぞり返るような仕草をしながら、
「それだ、その態度だよトリスタン君。これから俺にそんな態度をとったら、不敬罪に問われる事になるぞ?」
「は? どういうことだよ? わけが分かんねえよ」
俺は一呼吸置き、にやりと笑いながら。
「俺は今日から準男爵になった。これからは準男爵様と呼ぶがいい」
「な、なにぃぃぃ!! お前が準男爵? 貴族!」
「フェ、フェイトが貴族……、ということは私は貴族夫人?」
「ん? ということはボクはお妾さん?」
相変わらずうるさいトリスタンと、妄想の世界に旅立つディアナ。そして、マイペースなエレーナ。
「詳しい話は今日領主の屋敷で行われる祝勝パーティで明らかになると思うから、みんなよろしくな」




